ブルー・ラブ・ビーツが語るアフロビーツの真髄、文化の「盗用」と「リスペクト」の違い

ブルー・ラブ・ビーツ(左からMr DM、NK-OK)

 
UKのジャズシーンで特異な立ち位置を築いてきたブルー・ラブ・ビーツ(Blue Lab Beats)がついに初来日。恵比寿ガーデンプレイスに新しく生まれた「BLUE NOTE PLACE」のオープニングステージに登場した。旧来的なライブハウスではなく、DJブースも常設された会場は、ビートメイカーやDJとライブ・ミュージシャンを並列でカジュアルに楽しめるような作りになっていた。マルチ奏者Mr DMの生演奏とNK-OKのプロダクションを組み合わせてきたブルー・ラブ・ビーツにぴったりの会場だったと思う。

彼らのライブで強く印象に残ったのは、アフロビート/アフロビーツのこなれたサウンド。NK-OKのビートはもちろんだし、Mr DMの演奏も素晴らしかった。例えば、ベーシストのモードになれば特異なリズムパターンに合わせて絶妙にグルーヴするし、ギターソロのフレージングも洗練されたハイライフのようだった。

2018年のデビュー作『Xover』の時点でアフロビート曲「Pineapple」を手がけていたように、西アフリカ音楽への関心は、彼らの音楽性における重要なポイントのひとつだ。その後もザンビア生まれのラッパー、サンパ・ザ・グレイトに起用されたり、NK-OKは別プロジェクトの『The Sounds of Afrotronica』でも西アフリカのリズムにチャレンジしていた。それらの取り組みは、2人が起用された(西アフリカの大スター)アンジェリーク・キジョー『Mother Nature』でのグラミー受賞にも結実した。

そして、彼らは西アフリカへの関心を更に一歩先に進めるためにガーナを訪れ、同地のプロデューサーとのコラボレーションも交えつつ『Motherland Journey』を制作した。ブルー・ラブ・ビーツは他の誰とも違う形でアフロビートやアフロビーツを追求し、それを独自にやり方でUK由来のジャズのサウンドと融合させようとしている。

今回はアフロビートとアフロビーツにフォーカスして、2人に話を聞いた。音楽そのものだけでなく、黒人文化に対する考え方やアフリカ系イギリス人の視点からの文化盗用への考え方など、話は多岐にわたった。ここにはUKジャズの今を読み解くためだけでなく、様々なヒントが埋まっているはずだ。


「Pineapple」、今年11月にリリースされた『Jazztronica - Live at Late Night Jazz Royal Albert Hall』より


―そもそもアフロビーツを聞き始めたきっかけは?

NK-OK:アフロビートとアフロビーツは別物だってところから始めた方がいいよね。アフロビートはフェラ・クティ、トニー・アレンが(1960年代に)生み出したもの。僕らも最初はそこから興味を持った。そのうちウィズキッド、バーナ・ボーイ、プロデューサーのジュルス(Juls)に出会って、そこからアフロビーツにも興味を持つようになった。




―ウィズキッド、バーナ・ボーイのどんなところに惹かれましたか?

NK-OK:ウィズキッドは曲の中にある「楽しい」(Joy)部分が好きなんだけど、一方で歌詞を聴くと深い意味があったりする。そこはフェラ・クティがやってきたこととコンセプト的に通じる部分がある。同じようなコンセプトが世代を超えて受け継がれていて、そのクリエイティビティに惹かれるんだ。音楽的にはリズムがパーカッシブなエレクトロニックの音楽なんだけど、ライブ・パーカッションも使われていたりもするのもいい。ボーカルだとオートチューンも使うんだけど、それがあくまでエフェクトとして使われているのも好きな部分だね。

―歌詞にはどんな意味があるんですか?

NK-OK:例えば、バーナ・ボーイの初期の歌詞には政治的な部分がある。彼はナイジェリアの政治について歌っているんだ。そこはフェラ・クティと似ているし、僕はそこに世代間の継承を感じるんだ。だから、バーナ・ボーイは、なんていうかな、音楽を武器というか……。

Mr DM:プラットフォームだね。

NK-OK:そうそう、プラットフォームとして使ったんだ。そこに政治的なトピックを乗せていった。でも、曲調は楽しかったりするから、政治的なことを歌っていても、気持ちはリフレッシュされる。

Mr DM:そもそもバーナ・ボーイの祖父はフェラのマネージャーだったからね。直接的な繋がりもあるんだ。僕らは「Motherland Journey」(アルバムのタイトル曲)でフェラ・クティの「Everything Scatter」をサンプリングしていて、多くの人に楽しそうな曲だねって言われる。でも、僕らは「歌詞を知ったら全く違う感覚になるから、そこにもフォーカスしてみなよ」って言うんだ。

NK-OK:僕らも最初はそんなに深い意味があるなんて知らなかった。「Everything Scatter」ではバスの中でフェラが乗客たちとコール・アンド・レスポンスをやっているんだけど、そこではバスから降りてもっと政治のことを考えようって歌っているんだよね。あとでリサーチしたとき、そういう歌詞だって気付いたんだ。実は僕も「Motherland Journey」の冒頭にバスっぽい音のエフェクトを入れてる。たぶん偶然だけど、そういうものを感じ取っていたのかもしれないね。




―ブルー・ラブ・ビーツにとって、音楽におけるメッセージ性って意識している部分ですか?

NK-OK:両親がパブリック・エネミーやN.W.A.が好きで家でもよく流れていたから、それが当たり前だったんだよね。ジャズにしてもインストだけど、音楽をプラットフォームにして政治的な立場をとっていたジャズ・ミュージシャンは少なくない。歌手だったらビリー・ホリデイみたいに「奇妙な果実」のような曲を歌う人もいた。だから、ジャズに関わる時点で最初から意識していたね。でも、僕の場合は音楽によっていかに人の心を癒したり、楽しませることができるかってところの方が大きかったかもしれない。

Mr DM:チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、チャールス・ミンガス、みんなインストだったけど、自分たちの置かれた状況や人種差別などを音楽の中で語っていた。ミンガスの「フォーバス知事の寓話」(Fables Of Faubus)が有名だけど、ジャズをやるってことはそもそもそういうことだよね。

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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