KANDYTOWNが語る3rd ALBUMと終演

KANDYTOWN:Photo by cherry chill will., Styling by Kaz Nagai, Hair and Make-up = Takae Tasaka (Vanites)撮影協力:Billboard Live TOKYO

2015年頃、ヒップホップやストリート・ブランドの業界関係者に会うと、KANDYTOWNの話題で持ちきりだった。ミックステープが限定流通してるらしい、大規模なクルーらしい、音楽だけではなく自分たちで映像も手掛けているらしい……。夜の闇に、ストリートの影に潜むような大所帯のラッパーやビートメイカーたち。東京出身の彼らは、すでに洗練されており、頭からつま先までミステリアスでクールなイメージを纏っていた。

【写真を見る】Rolling Stone Japan vol.21に掲載された撮り下ろしカット

メンバーたちの付き合いは、中学・高校時代、さらには幼少期を共に過ごした面々もいるほど、長く濃い。彼らの音楽には、都会的な新しさがありつつも、旧友たちとの時間を思い起こさせるようなノスタルジーが共存し、ヒップホップに宿るオーセンティックな魅力、憧憬の思いがそのまま落とし込まれていた。KANDYTOWNの礎となったのは、2015年2月14日に不慮の事故で亡くなったYUSHIの存在だ。類稀なるカリスマ性と抜群のセンス、音楽やカルチャーに対する膨大な知識を備えたYUSHIが、まずBankrollというラップ・クルーを結成する。のちに年下組によるグループ、YaBastaが出来上がり、両グループはKANDYTOWNとして一つのクルーを形成していった。

日本のヒップホップ・シーンにおいて強烈な存在感を示してきたKANDYTOWNが、その活動の終演を告げる3rd ALBUM『LAST ALBUM』を発表した。そこに至るストーリーと、彼らが最後まで大切にしていたKANDYTOWNの美学を紐解く、全メンバーによるインタビューをお届けする。    

「最後のアルバム」が生まれるまで

ー2022年9月、3年ぶりとなる3rdアルバムのタイトルが『LAST ALBUM』だと発表された時、驚きました。おそらくファンたちの間でも、さまざまな憶測が飛び交ったのでは?と思います。

IO 「次のアルバムを(KANDYTOWNとしての)ラスト・アルバムにしよう」という気持ちは、前からありました。2ndアルバム『ADVISORY』(2019年)をリリースして少し経ったタイミングで大阪にライブしに行った時に、「KANDYTOWNとしての活動の終わらせ方」みたいなものをみんなで話す機会があって。その時に、「次のアルバムが最後かもね」っていう話になった。その気持ちを持ちつつ、新しいアルバムに向けて1、2曲と徐々に作り始めていったら、最後を意識した曲が増えてきたんですよ。それで、あらためてみんなで話して「それがいい」と。

ー特にハッキリと号令を掛けたわけではなく、アルバムの制作を進めるにつれて、少しずつその気持ちが高まっていった?

IO 制作が進むにつれて「最後のアルバムにしよう」と思いつつ、みんなが作っていたと思います。

Ryohu みんなのリリックの内容とかを見ると、やっぱりそういう意識はあったんじゃないかと思いますね。

ータイトルも、ずばり『LAST ALBUM』という潔いもので。

IO アルバムのタイトルはみんなで話して決めました。最後のアルバムだったら「LAST ALBUM」だよねって。全員でスムーズに、言わずとも決まったという感じです。



ーアートワークになっているメンバーの集合写真も、非常に象徴的です。

IO あの写真に関しては、(ジャケット写真として使用すべきか)二日間くらい本当に考えましたけど、今までで一番好きなジャケットですね。あれは地元で(オカモト)レイジが撮ってくれた写真で。

BSC 本当に「ザ・地元」って場所なんです。

Gottz 確か、ライブの帰りに撮ったんだよね。

IO 写真のコンセプトというか、自分の中では、“KANDYTOWNになる前の自分たち”のカタチというか姿というか、そういったものを表した写真なんです。本当に地元にいる時の自分たちを写して欲しくて、レイジにお願いして。

ーそれこそが、KANDYTOWNの核の部分という感じですよね。

Ryohu そうそう。この十何人の、全てが写っていると思います。

ー先ほどの言葉にあったように、「最後のアルバムだ」と意識しつつ制作に挑むというのは、どんな感じでしたか?

Ryohu 結局、いつもと変わらなかったですね。みんなそれぞれ、“最後”を意識させる内容のリリックがあるんですけど、もちろん、アルバムにはいつも通りのKANDYTOWNらしい曲もあるし。最終的には、いつも通りだったなと思います。

BSC 俺は勝手にエモーショナルになったタイミングが一回だけあって。それが2022年の2月14日にリリースされた「Blue Verse」の時だったんですけど、その曲を書いてからは吹っ切れましたね。



ー先行シングルとしてリリースされた「Curtain Call」にも、随所に活動の幕引きを予感させるようなリリックが散りばめられています。IOさんのヴァースにも“始めたものを片付けに来たのさ、大抵のやつらは散らかしっぱなしさ”という表現が。“あくまで自分たちの手で終わらせる”というのが、KANDYTOWNのメンバーに共通する美学でもあるのかなと感じました。

IO “ちゃんと終わらせる”ということは、一番最初から思っていましたね。始めたからには、終わりが来る。そして、一番いい状態のまま、自分たちの手で終わらせるっていう。そのタイミングはずっと探していました。「自分たちがたどり着いた一番高いところで終わるのが一番かっこいい」と思っていましたし、実際に、『LAST ALBUM』をリリースすると発表してから、「辞めないで」とか「早くない?」とも言われたんですけど、逆に、そう言われているうちに辞めたかったというか。結果、「一番いいタイミングを選んだのかな」と思ったんです。最後のアルバムを出して、武道館でみんなが気持ちよくKANDYTOWNの活動を終えることができるように、と思いながら歌詞を書きました。



ー以前、2nd ALBUMの『ADVISORY』をリリースした際には、まずGottzさんがアグレッシブにレコーディングに参加して、それが全体の口火を切ったという話が印象的でした。今回の『LAST ALBUM』は、何がきっかけで制作のタイミングが大きく動いていったのでしょうか。

Gottz 僕は、今回はぼちぼちという感じで、やりたい曲は先にサッと録って。前作ほどのアグレッシブさはなくなっちゃってたかもしれない(笑)。

Neetz いや、とは言ってもGottzのパートは結構多いですよ(笑)。

Gottz 去年の5月くらいから、『LAST ALBUM』の制作を始めていたんです。そのタイミングでは、Neetzが持ってきたビートに合わせて、曲に参加したい人はその場その場でレコーディングに入っていく、という感じでしたね。それが今回のアルバムの骨組みになってるかなと思います。

Neetz アルバムに先駆けて、まずシングルをどんどん出していこうというアイデアがあったんです。でも、結局それでできたのが、(2021年6月にリリースされた)「METHOD」だけだった。それまで、ずっと自分たちのスタジオで作っていたんですけど、「METHOD」で止まっちゃって、「これ、進まないな」と悩んだ結果、みんなで合宿に行こうってことになったんです。そこで一回、推進力みたいなものが出来てきて、制作の最後まで進んでいったという感じです。



ーKANDYTOWNで制作合宿というのは、初めてのこと?

BSC そうですね。まず、自分とNeetzとRyohuが最初に合宿の現場に着いたんです。3人一緒に車で向かって、現地に着くまでのドライブで気持ちも高まっていた。そこに、 Neetz がイカしたビートを流してくれて、最初に作ったのが何て曲だったっけ……。

Neetz あれは「Definition」かな。

BSC そうそう、合宿で最初にできたのがその曲ですね。



ー合宿期間はどれくらいだったんですか?

Neetz 全員のスケジュールが合わず、入れ替わり立ち替わりで計1週間くらいですかね。

Ryohu 結果、それがKANDYTOWNとしての一体感を生んだってことに繋がるかもしれない。

ーほぼ全員が参加したのでしょうか。

Neetz そうですね。来れるやつは来い、という感じで。

Minnesotah 僕も、合宿中は1週間くらいほとんどいて、みんながどんどん曲を書き上げていく様子を見ていました。楽曲のヴァースがどんどん埋まっていき、それを一歩引いて見ている、という感じで。「いい曲がたくさん出来上がっているな」みたいな気持ちで。

Weelow 俺は途中参加させてもらったんですけど、すごく慎重にレコーディングしていたような印象を受けました。自分の中で、合宿で作った曲は、ちょっとスペシャルな感じがしているかもしれません。

ーやはり、合宿中の方が制作は捗りますか?

MUD 俺は合宿中はあんまりヴァースが録れなくて。「Riddim」はプリプロまでを合宿で録って、後から東京で仕上げたんです。でも他の人がレコーディングしているのを聴いたり、どんな想いでリリックを書いてきたのか、その様子を見たりするのが楽しかったですね。あそこで、色々とメンバーの想いが分かった気がしました。



Gottz DIANは暗闇でリリックを書いてたよね。

Holly Q 一人で散歩に行ってたんだっけ?

DIAN (書くのを)諦めかけたんですよ。「お前やばいよ」って言われてハッとして、森までリリックを書きに行ったんです。

Gottz 「DIANが長いこと帰ってこないな」と思っていたら、街灯もない道の300メートル先くらいのところで携帯の灯りだけ光っていて……幽霊かと思った。

DIAN その時に録ったヴァースは、結構気に入ってますけどね(笑)。

Holly Q 僕は合宿の3日目くらいから参加したんですけど、僕が合流するまでに、それまでの2日間でみんなが書いて録ったラップのデータが自分のところに届いていて、それを聴きながら「この曲に入る、入らない」と考えながら現地まで向かったのを覚えています。

Gottz  シングルにもなった「You Came Back」は、Holly Qが「こういうビートを」とNeetzにリクエストして、それを受けてNeetzが実際に作り出して出来上がった曲なんです。合宿では、とりあえずNeetzが作ったビートをみんなで触って「じゃあ、そろそろ録っていくか」、みたいな感じで進んでいきました。



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