Nissyがドームで届けたポップスターの「親密さ」と新たなコミュニケーション

胸のうちに秘めた想い

この日初となるMCで、Nissyは胸のうちに秘めた想いを語っていく。先の見えない日々で心が折れてしまったこと、歌詞を書けない日々が続いたこと、『HOCUS POCUS 3』にこめたテーマや願い、ツアーを通した地域創生への取り組み、そして会場へ足を運んでくれたことへの感謝。感触をひとつひとつ確かめながら紡がれていく言葉たちは、いつもと違う3年間を過ごしてきたからこその重みを伴う。

そして、言葉には収めきれなかった想いも乗せて、大切に「I need you」を歌い上げていく。葛藤や寂しさまで素直に綴ったラブソングは、単なる恋愛の歌ではなく、Nissyからファンへ向けた唯一無二の幸せな“愛の唄”としての意味も放ち、会えなかった日々ですらファンに支えられてきたことを彷彿させる。人気のなくなった自粛期間中の渋谷センター街を想起させる映像を挟み「僕にできること」へ結ぶと、力強く届けるようにマイクに言葉を落としていくNissy。1回目のサビで逆光に照らされながら真っすぐに前を見据える姿は、陰りのある日々でも光を見つめて、一歩一歩進んできた事実を物語る。ラストには「一緒に歌いませんか。またこの環境でいつ会えるかわからないけど、この景色を見てください。しっかりと焼きつけてください。そして、その声を共有してください」という呼びかけにより、会場全体でシンガロング。この2曲が連なっていることは、Nissy自身が君の「頑張ってね」により支えられてきたことを伝え、同じ時に出逢えたからにはずっと守ってみせると誓いを立てているようだった。

最後のセクションに踏み入れ、ついにここからはラストスパート。デジタルLED装飾の衣装を身に着けたダンサーたちと共に「Get You Back」をバシバシ踊りこなし、光とパフォーマンスの融合で異世界のような空間を生み出す。音玉も轟かせ、華々しく“I’m HERE”と示してみせた。

スクリーンに映るLippyとがユニバーサル・スタジオ・ジャパンのお友達を紹介すると、エンディングへ向かうべく「The Days」を投下。キャラクターたちとトロッコで外周をグルッと周り、ひとりひとりと視線を合わせていく。「トリコ」では一緒に歌って踊って遊びつくし、「Cat&Mouse」では力を残すことのないようにタオルをブンブンと振り回す。ラストソングとなったのは、制作段階から時間をかけて生み出されたナンバーの「NA」。パンデミック以前に制作された楽曲であるが「僕らは常に過去と、今を過ごし 未来を受け入れていて。(中略)過ごした時間が きっと時代の変化の一部となっていく。それはとても凄いことなんだよ!」という想いがこめられており、ここからまた日常を進んでいけるようなパワーを与える。銀テープに花火、噴水といった豪華演出で彩り、本編を締めくくったのだった。

アンコールにより呼び戻されると、「まだ君は知らない MY PRETTIEST GIRL」を披露し、会場中から飛んできた“もう1回”の声に思わずにっこり。MCでは「もうしゃべることない。もう昨日の続きじゃん、これだと。どうしよう」なんて話しつつ、即席のセッションでカバー曲をパフォーマンス。例年のライブで好評なカバーコーナーを、MCで再現してしまう大盤振る舞いだ。

その後は、「一歩進んでいる僕たちもいる」とSNSを通して伝えるために、Instagramのストーリーズを観客の声入りで撮影。Nissyの煽りに負けぬ音量で響き渡る歓声は、変化を強いられたエンターテインメントが少しずつ再興していく兆しを感じさせる。雪が降り積もる映像をバックに「ワガママ」を歌い、「My Luv」では柔らかに煌めくサイリウムが左右に揺れる。黄色い光が東京ドームを包みこんだ光景は、Nissyのおまじないにより隅々まで染め上げられているようだった。

あのライブから数日が経ち、いよいよマスクの着用は個人判断となった。多くの変化を強いられてきたエンターテインメントも、苦難の時を越え手にした新たなフォーマットで少しずつ前に進みだしている。言うならば『Nissy Entertainment 4th LIVE〜DOME TOUR〜』は、そんな希望の一つだったのではないだろうか。先陣を切って一歩踏み出し、地方創生にも配慮をし、最先端の技術をふんだんに取り入れてエンターテインメントの可能性を拡張する。ひとりの人として、ひとりのアーティストとして、再生を目指した結果だったような気がしてならない。

そういえば、ライブをナビゲートするAIは“THREE”と名付けられていた。3はNissyと頻繁に紐づけられる2と4の間に位置すると共に、“破壊と想像”の意味を持つ数字である。今年10周年を迎える彼が、リセットされたかのように思える現実に、どのような光を灯してくれるのか期待したい。




Nissy Entertainment 4th LIVE 〜DOME TOUR〜at TOKYO DOME 2023.2.17(Photo by 田中聖太郎写真事務所)(C)TM & (C)2023 Sesame Workshop、(C)2023 Peanuts Worldwide LLC、(C)TM & (C) Universal Studios. All rights reserved

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE