音楽はきみを傷つけない:ジョージ・クリントンが陰謀論とフェイクニュースの時代に授ける教え

 
オープンさとインクルージョン

ジョージ・クリントンは、楽器もできないし、歌もアレンジも上手くないことを、自伝のなかでも率直に明かし、自分の限界を見極めていたところに成功の秘訣があったと語っています。

ジョージ・クリントンはそういう意味では、謙虚な小心者なんだと思うんです。謙虚さと、危険な状況からさっと身を引く小心さがあってこそ、彼は、引いたところから醒めた目で大局を見ることができたのだと思いますし、であればこそ、大勢の凄腕のミュージシャンが出入りする融通無碍なコレクティブを束ねることもできました。面白いコンセプトをつくって、そのフレームのなかで自由にミュージシャンたちを遊ばせることに彼ほど長けた人は自分は知りませんし、そういう意味では極めて有能なファシリテーター、あるいは編集者だったんです。


70年代のファンカデリック(Photo by GAB Archive/Redferns)

Pファンクというコレクティブがユニークなのは、ブーツィ・コリンズ、バーニー・ウォレル、メイシオ・パーカー、フレッド・ウェズリーといった限られた数人を除くと、ゲイリー・シャイダーにせよ、ジェローム・ブレイリーにせよ、コーデル・モッソンにせよ、ロドニー・スキート・カーティスにせよ、多くの基幹メンバーがPファンク軍団のなかでしかほとんど名前を見ない人たちだったということでして、それをもってして、いかにクリントンのディレクションが優れていたかの証とすることもできるかと思います。自分の好きなエピソードは、初期のファンカデリックのドラマーのティキ・フルウッドが一瞬マイルス・デイヴィスのバンドに呼ばれたものの、すぐに送り返されてきたというものでして、「やっぱPファンカーはそうじゃなきゃ」と嬉しくなってしまいます。

演奏やアレンジにおいて最高度の洗練を達成したコレクティブなのに、どこでも通用するプロ中のプロが集まるスーパーバンドという感じはなくて、よくわかんないけどすごいやつが居着いちゃったので、クリントンがうまいこと役割をみつけてあげたという感じなんですね。

レコーディング中に知らないやつが「ギターソロを弾かせろ」と入ってきて、「いいよ」って弾かせてみたらものすごく良くて採用したんだけど、弾いてすぐいなくなっちゃったから、あれが誰だったのかいまだに謎、といった怪談めいたエピソードもどこかで読んだ気がしますが、こうしたオープンさや包摂性も、いかにもPファンクらしいものです。




最近、Pファンクの重要メンバーだったブーツィ・コリンズやバーニー・ウォレルのソロ作をよく聴いていますが、ブーツィには、クリントンのコンセプターとしての身振りが強く継承されていて、それは最近ですと、アンダーソン・パークとブルーノ・マーズのユニット「シルク・ソニック」を命名したあたりにも生かされていますし、あの星形のメガネとド派手な衣装によって、自分を物語化することで、むしろ彼自身のファンクの純粋性が保たれてきたように感じます。一方のバーニー・ウォレルは、ジャズスタンダードを弾こうが、シンセの即興をやろうが、つねに音楽への深い信頼が脈打っているのは、これもやっぱりPファンクのレガシーが体に染み込んでいたからですよね。

このふたりは、演奏者としては極めつけの敏腕ですから、それこそセッションミュージシャンとしてだって大成したはずですが、そうはならずに独立独歩の音楽家の道を歩めたのは、ショービズや産業的な意味での「プロっぽさ」が、彼ら含め、Pファンクにはどこまで行ってもなかったからではないでしょうか。

それはかえすがえすも、偉大なるシロウトであったジョージ・クリントンにしかできなかった、稀有な達成だと思います。よほど社会が見えていて、緻密な戦略性とメンバーたちがつくる音楽へのよほどの信頼がなければ、ポップ性とカルト性を共存させるという、あの大胆かつ天才的な綱渡りはできなかったはずで、Pファンクがポピュラー音楽史における特異点でありながらも、その音楽がいつまでもフレッシュな楽しさを失わずにいられることの秘密は、そんなところにもあるのかなと思います。


1999年、プリンスとジョージ・クリントンの共演


2005年、スヌープ・ドッグとジョージ・クリントンの共演


2012年、ロックの殿堂セレモニーで実現したジョージ・クリントン、スラッシュ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ロニー・ウッド、ビリー・ジョー・アームストロング、ケニー・ジョーンズのパフォーマンス


2014年、ケンドリック・ラマー、アイス・キューブとのコラボ曲「Ain't That Funkin' Kinda Hard on You? (Remix) 」


2016年、サンダーキャットとファンカデリックのパフォーマンス





『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』
日程:2023年5月13日(土)、5月14日(日)12:00開場 / 13:00開演(予定)
会場:埼玉県・秩父ミューズパーク

出演:5月13日(土)
【THEATRE STAGE】
GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC / DOMi & JD BECK
AI and many guests with SOIL&"PIMP"SESSIONS / Answer to Remember with HIMI, Jua
【GREEN STAGE】
ALI / 海野雅威 with Special Guest 藤原さくら / 4 Aces with kiki vivi lily
… and many more to be announced
5月14日(日)
【THEATRE STAGE】
DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON /
SKY-HI & BMSG POSSE(ShowMinorSavage - Aile The Shota, MANATO&SOTA from BE:FIRST / REIKO) with SOIL&"PIMP"SESSIONS /
Blue Lab Beats featuring 黒田卓也, 西口明宏 with 鈴木真海子(chelmico) and more /
Penthouse with 馬場智章, モノンクル
【GREEN STAGE】
Kroi / モノンクル / 馬場智章
… and more!!!
公式サイト:https://lovesupremefestival.jp


George Clinton & PARLIAMENT FUNKADELIC
2023年5月10日(水)、5月11日(木)、5月12日(金)
東京・ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
チケット:
サービスエリア 18,400円
カジュアルエリア 17,900円(1ドリンク付)
詳細・チケット購入はこちら

2023年5月15日(月)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
チケット:
サービスエリア 18,300円
カジュアルエリア 18,300円(1ドリンク付)
詳細・チケット購入はこちら



【チケットプレゼント】
ジョージ・クリントン & PARLIAMENT FUNKADELIC
Billboard Live 2023

5月11日(木)に開催されるビルボードライブ東京公演「1st Stage」に、Rolling Stone Japan読者2組4名様をご招待します。
※OPEN 16:30 / START 17:30

【応募方法】
1)Twitterで「@rollingstonejp」「@billboardlive_t」をフォロー
2)ご自身のアカウントで、下掲のツイートをRT

【〆切】
2023年5月7日(日)
※当選者には応募〆切後、「@billboardlive_t」より後日DMでご案内の連絡をいたします。

Editorial Support = Yasutomo Asaki

 
 
 
 

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