ディナー・パーティー徹底解説 グラスパー、カマシ、テラス・マーティンの化学反応とは?

 
ディナー・パーティーが「特別」な理由

そんな彼らがディナー・パーティー名義で演奏するのは、メロウで心地よいオーガニックなヒップホップ/R&B。それぞれの特徴を生かしたジャジー且つソウルフルなサウンドを軸にしているのだが、ここで鍵になるのはすべてのリズムがドラマーによる生演奏ではなく、プログラミングされたビートであること。



例えば、グラスパーのアルバムでは、リズムマシンのようなタイム感/質感をドラマーが生演奏で表現し、その人力ビートにバンドメンバーが有機的に絡んでいく様が特徴になっていた。カマシにしても、ヒップホップを通過したドラマーによるグルーヴが現代性に繋がっていた。2010年代以降、多くのジャズ・ミュージシャンたちが、打ち込みのビートを生演奏に置き換えたようなドラマーの演奏をその音楽の基盤にしてきた。

しかし、ディナー・パーティーの音源では打ち込まれたビートが中心になっているため、グラスパーやカマシによる従来の作品とは明らかに異なるものになっている。それに加えて、グラスパーのピアノ、カマシのサックス、テラスによるボコーダーのいずれも、演奏者が自身の個性を主張するためではなく、意識的に楽曲を構成するための素材として奏でられている点も重要だろう。つまり、「最高のトラック」を作ることに4人の技術やアイデアが注がれているのだ。だからこそ、ディナー・パーティーの楽曲はこれまでにグラスパーやカマシ、テラスが発表してきた楽曲よりも聴きやすく、耳馴染みが良い。




トラックの完成度の高さは、『Dinner Party』と『Dinner Party: Dessert』を聴き比べると一目瞭然だ。前者ではPhoelixがボーカルを担当するのみだが、後者ではハービー・ハンコックやスヌープ・ドッグといった超大物から、ビラルやラプソディなどグラスパーが敬愛する大物シンガー、気鋭ラッパーのコーデー、タンク・アンド・ザ・バンガスやアレックス・アイズレーといった新鋭まで、『Black Radio』にも通じる豪華ゲスト陣が参加している。

しかし、この2作はクレジットこそ大きく異なるものの、トラック自体はほとんど変わらない。『Dinner Party』とほぼ同じトラックにゲストが加わることで、曲の印象がガラッと変わるというのが『Dinner Party: Dessert』の聴きどころと言えるだろう。言い換えれば、どの曲も印象が変わるほどラッパー/シンガー各自の個性を発揮しやすい作りになっているということだ。グラスパー、テラス、カマシの3人が単なるプレイヤーというよりプロデューサー兼作編曲家として制作に関与し、そこに9thワンダーも交えてアイデアを出し合うことで、「シンガーやラッパーが自由に表現できる場としてのトラック」を追求しているのがよくわかる。



そもそも2000年代まで遡ると、グラスパーはコモンやQティップ、カマシとテラスはスヌープ・ドッグやDJクイックらのトラックのために演奏してきた。彼らがヒップホップ/R&Bの構造やフィーリングをジャズに導入することができたのは、実際にそういった音楽の現場で超一流のラッパー/プロデューサーとの制作に携わることで、彼らが望む演奏スタイルやフィーリングを習得してきたことが大きい。そういう意味では、3人ともヒップホップ/R&Bにおけるスタジオ・ミュージシャンとしての側面を持っているし、その経験はシーンの未来を切り拓いたプロデューサーとしての資質にもつながっている。

 
 
 
 

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