ザ・ホワイト・ストライプス『Elephant』20周年 今こそ聴くべき4つの理由

 
4. 史上最も議論を呼んだ孤高のドラマー、メグ・ホワイトの魅力に満ちたレコードである

「ザ・ホワイト・ストライプスにまずまずのドラマーがいれば、もっとすごいものになっていた」と、2023年はじめに海外のジャーナリストがツイートした議論/炎上騒ぎをご存知だろうか?

実はこれ、リアルタイム当時からたびたび議論されてきた話題である。今回、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)、クエストラヴ(ザ・ルーツ)やジェフ・バーロウ(ポーティスヘッド)らミュージシャンがメグを擁護し、ジャック・ホワイトまでもそれについての投稿を行う事態にまで発展したのだが、これもやはり“リバイバル”なのかもしれない。


メグ・ホワイト論争のまとめ動画

さて、本原稿の最後となるこの項目の主役はメグ・ホワイトである。そう、『Elephant』は稀代のドラマーであるメグ・ホワイトの魅力を最も身近に感じられる作品なのだ。

再び「Seven Nation Army」の話となるが、この曲に耳を澄ませるだけでもいい。彼女の極めてシンプルなフレージングが楽曲にストイックな雰囲気を与えているだけでなく、キックやスネアなど各楽器の響きが艶かしく鮮明に聴こえてくるのがわかるはずだ。『POINT』以降のコーネリアスが複数音を極力同時に鳴らさないことで、そのサウンドの響きを最大限の解像度でキャプチャーしていたように。




もちろん、すべてが意図的だったわけではないはずだ。そもそもメグはドラム未経験であり、極めてシンプルなフレージングも、フィルイン皆無のストイシズムも「それしかできなかった」というのがおそらく実状だろう。しかし、結果的に彼女のフレージングもサウンドも唯一無二のスタイルであり、そのファットな響きとリッチな“揺らぎ”は、打ち込みのビートがデフォルトとなった2020年代においても決して古びていない。

そして何より、メグのプレイはインスピレーションに満ちている。実際、ザ・ホワイト・ストライプスはメグ・ホワイトのドラムにインスピレーションを受けてジャックが結成したバンドであり、解散後も「自分が何をしようとステージにいるメグには敵うことがなかった」旨を米ローリングストーンの2014年のインタビューで語っている。

とはいえ、メグ・ホワイトがバンドのグルーヴを支配していたかというと決してそうではないのも、またおもしろい。とくに『Elephant』収録の「The Hardest Button to Button」や、同20周年盤にも多数収録されているライブ音源に顕著だが、むしろジャック・ホワイトのギターにメグ・ホワイトがドラムを合わせにいっている印象だ。姉弟という設定の元夫婦にして、天才が崇拝に近い感情を“素人”に抱いている関係性を含め、やはりあまりにも魅惑的だ。


『Elephant (Deluxe)』に収録、2003年に米シカゴ・アラゴン・ボールルームで演奏された「The Hardest Button to Button」

ザ・ホワイト・ストライプスのリーダーは間違いなくジャック・ホワイトだ。楽曲もジャック・ホワイトによるものだ。だが、メグ・ホワイトは「ジャック・ホワイトじゃない、もう一人の方」なんて軽視できるメンバーではない。ましてや決して「ひどいドラマー」なんかではない。もしもメグがジャズ・ミュージシャンだったなら、たしかに「ひどいドラマー」だったかもしれないが、ザ・ホワイト・ストライプスはロックバンドであり、彼女はロックに必要な要素を(偶然だとしても)ドラマーとして最小限まで分解して我々に見せてくれたのだ。

そうそう。そして、この『Elephant』にはメグが初ボーカルをとった楽曲が「In The Cold, Cold Night」と「It's True That We Love One Another」の2曲も収録されている(後者はジャック・ホワイトとザ・ヘッドコーティーズのボーカルでもあったホリー・ゴライトリーとの3人による歌唱)。フィーリングの豊かさはボーカルにも健在であり、どちらも楽曲に新鮮な魅力を与えていることを間違いなく感じられるはずだ。







『Elephant』20周年記念限定カラーヴァイナル
完全生産限定盤(1,100セット限定)

2枚組カラーヴァイナル(1枚目レッド・スモーク、2枚目クリア・ウィズ・レッド&ブラック・スモーク)
日本盤のみ帯、解説・歌詞・対訳付/2023年5月24日(水)発売



デジタル・アルバム『Elephant (Deluxe)』
配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HBTB 

 
 
 
 

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