ハリー・スタイルズ来日公演を総括、時代を代表するスターが作り上げた幸福な空間

観客との親密なコミュニケーション

このような親密さや心地良いムードというのは、ミュージシャンとしての表現力はもちろんだが、何よりもハリー・スタイルズ本人の人間性による部分が大きいのだろう。本編中盤には「Matilda」、「Little Freak」を披露するアコースティック・パート的な場面が用意されたのだが、イヤモニの位置を調整しながら丁寧に歌い上げる一方で、こまめに観客に手を振ったり、花道を歩き回って客席に近づいたりと、ハリーのファンサービス精神がこれでもかと発揮されていたのが印象的だった。アコースティックパートを終えても、壮大なサウンドスケープと(本人を含め)思わず飛び跳ねてしまう軽快なメロディのコントラストが楽しい「Satellite」やスムースなファンク・ポップと掛け合いで魅了する「Cinema」など、演奏自体のスケールは大きい一方で、ハリーとの距離はずっと近いままという絶妙なバランス感覚が保たれ続けていた。

観客とのコミュニケーションといえば、ワールド・ツアーではその土地の文化に触れ、学ぶことで知られているハリー(例えば、ニュージーランド公演ではマオリの伝統的な歌である「Tūtira Mai Ngā Iwi」を披露している)だが、この日は多くの場面で日本語を披露。ワン・ダイレクション時代からお馴染みの「頑張りまーす!!」はここぞというキメのシーンで使われ、熱狂をさらに盛り上げる鉄板の台詞となったようだ。冒頭で言及したメッセージボードに関しても、一つでも多くのボードを見ようと頑張る場面があり、結果として某有名ラーメン店をオススメされたハリーがラーメン屋での注文の仕方を再現してくれたりと、パフォーマンス以外の面においても大いに観客を魅了してくれた。また、パフォーマンス中にも日本の国旗を掲げてくれる場面があったのだが、ただの日の丸ではなく両端にレインボーフラッグを取り入れたデザインとなっていたこと、その光景に大きな歓声が上がっていたことをしっかりと記しておきたい。

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そんなハリーと観客の心地良い関係性が続く中で、後半に待ち受けるパーティー・パートが盛り上がらないはずもなく、ファンク成分を大幅に強化した「Treat People With Kindness」はこの日でサポート期間のフィナーレを迎えたThe Pocket Queenによる絶妙なドラミングも相まって、さながら会場まるごとディスコの世界に飛び込んだかのような熱狂の渦に。さらに究極のファンサービスとも言える「What Makes You Beautiful」も投下され、壮大な大合唱とともにパーティーはこの日最大のピークを迎えたかのように見えた。

だが、それ以上に圧倒的な盛り上がりを記録したのは、観客に渡された某人気漫画のキャラクターを模した帽子を被りながら披露した『Harry's House』屈指のダンス・ナンバーである「Late Night Talking」だろう。(本人がどこまであのキャラクターを認知していたかは定かではないが)あれはまさにハリーの人間的な部分と、音楽面の両方における親しみやすさが高い次元で融合した瞬間だったと言えるのではないだろうか。この盛り上がりは言わずと知れた大ヒットシングル「Watermelon Sugar」で見事な大団円を迎え、スウィートな「Love of My Life」で会場いっぱいの大合唱とともに本編を美しく締めくくった。

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