ハリー・スタイルズ来日公演を総括、時代を代表するスターが作り上げた幸福な空間

アンコール、この日最大の大合唱

ソロデビュー曲「Sign of the Times」を皮切りに幕を開けたアンコールは、もはやこの日の成功を確信したハリーと観客によるウイニングランである。当時、「ワン・ダイレクションのメンバーによるソロ活動」としては意外にも思えた、デヴィッド・ボウイやクイーンからの影響を色濃く感じさせる正統派ロック・バラードである同楽曲は、年月や作品を重ねるごとに着実にその説得力を増していき、この日のパフォーマンスでは堂々たる歌声を響かせながら、観客が照らすたくさんのライトにも負けることのない壮絶な輝きを放っていた。

ダメ押しといわんばかりの満面の笑みでの「頑張りまーす!!」宣言から幕を開けた「As It Was」は、イントロのセリフが聞こえた時点で客席から嬉しい悲鳴が湧き上がるほどで、会場はこの日最大の大合唱とともに、ずっと待ちわびていた至高のポップ・アンセムが炸裂するこの時間を祝福し、周りを見渡せば、誰もがキャッチーなシンセサイザーのフレーズや軽快なドラムに合わせて楽しそうに踊っていた。a-ha「Take On Me」からの影響を彷彿とさせる同楽曲が2023年におけるトップクラスのアンセムとしてここまでの強度を誇っているのは、単なる80年代のリバイバルというよりも、情報量に圧倒される不安定な時代の中で、自然で暖かみのある質感に多くの人がどこか居心地の良さを感じたからなのだろう。それは他ならぬハリー本人にとってもきっと同様であり、彼がそこにある親密さや優しい手触りを徹底的に追求したことで、まさに部屋の中でリラックスしながら踊るような幸福な瞬間がここに生まれたのだ。それは誰もが認めるポップ・スターでありながらも、セレブリティとしての存在感や名声よりも「ただの音楽好きの青年」であることに重きを置いてきたハリーだからこそ実現できたものなのではないだろうか。


来日公演のライブ写真(2023年3月25日)Photo by Lloyd Wakefield

圧巻のパフォーマンスのラストを締め括ったのは、キャリア屈指のヘヴィなロックナンバーである「Kiwi」だ。前述のコーチェラ・フェスティバルでは自身の実力を証明するかのような鬼気迫る姿が印象的だった同楽曲だが、この日はもはやバンド全体が叩きつける壮絶なグルーヴに完全に酔いしれており、後半はもはやマイクすら手放して会場に集まった誰よりもロックンロールを楽しみながら、一方では観客に対して何度も「ありがとう」と口を動かしながら、言葉にならない興奮を全身で表現していた。まさにハリーらしいという他ない見事なクライマックスである。

それまでの生き方に縛られることなく、ただただ自分が好きな音楽、自分らしくいられる居場所を追求し、そうして生まれたものをファンと一緒に共有しながら楽しむ。それは、結果として現代を生きる上での極めて理想的な姿であり、だからこそハリー・スタイルズはこの時代を代表するスターとなったのだろう。この日のパフォーマンスはそれを証明するかのような美しい瞬間が何度も訪れており、終演後の会場では誰もが笑顔でその感想を語り合っていた。まるで奇跡とも思えるような、あまりにもポジティブで幸福な空間がそこにあったのだ。








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〈セットリスト〉
1.Music For a Sushi Restaurant
2.Golden
3.Adore You
4.Keep Driving
5.Daylight
6.Woman
7.Matilda
8.Little Freak
9.Satellite
10.Cinema
11.Treat People With Kindness
12.What Makes You Beautiful (One Direction)
13.Late Night Talking
14.Watermelon Sugar
15.Love of My Life

Encore:
1.Sign of the Times
2.As It Was
3.Kiwi

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