エヴリシング・バット・ザ・ガールが語る再始動の経緯「インスピレーションは新しい音楽」

 
「インスピレーションは新しい音楽」

─アルバム全体のイメージやビジョンがあらかじめあっての制作のスタートだったんでしょうか。

ベン:最初の頃は不安で、長い間別々に仕事をしてきたから、いったいどうやればいいのかわからなかったんだ。でも、一度作業を始めると、どうやればいいのかがすぐに蘇ってきた。あれは興味深かったね。昔からの直感というか、ミニマリズム、感傷的すぎたりノスタルジックすぎたり、ロマンチックすぎたりしない、感情に正直である、といった音楽上での共通の考えが蘇ってきたんだ。そういったことは、僕らふたりが音楽において信じていること。作業を再開したとたん、僕たちは自然にその感覚を感じ、取り戻したんだよ。僕たちの間には、音楽における共通の言語が存在するんだ。

トレイシー:長い間レコーディングをしていなかったから、すごく新鮮に感じられました。「これが最初のアルバムなんだ」とさえ思えるくらい、新しいバンドのプロジェクトをやっているような感覚になることもあった。つまり、「興奮」という感覚。何でも可能なんだって気がしたんです。昨年リリースしたアルバムに続く作品を作らなきゃとか、レコード会社が何を期待しているとか、ヒットシングル的な曲を作らなきゃとか、そんなことはまったく考えなくてよかった。とにかくすべてが真新しいという感覚だったんです。

ベン:そうだね。それに僕らは、前作以降に僕たちの周りに出てきたすべての音楽のアイディアに対してとてもオープンだった。制作技術やレコードの作り方の進歩、オートチューンやピッチチェンジの登場、そういったものを今回は取り入れたし、ボーカルに手を加えることが多くなったと思う。ケンドリック・ラマーやフランク・オーシャンのようなアーティスト聴けばわかるけど、彼らは常に声を使っておもしろいことをしている。で、今回はトレイシーでそれを試してみたんだ。もちろんトレイシーの声は軸があって、まるで神聖な楽器のような存在ではあるんだけれど、それをいじることもできるかもしれないと思った。音色を変えたり、自動演奏にしたり、演出で何かおもしろいことができるんじゃないかと考えたんだ。




Photo by Edward Bishop

─たしかに、この作品は、1982年の「Night And Day」から現在までの道のりと時間が自然と楽曲に注がれ、ノスタルジックなものではなく、ミュージック・シーンのフロントラインに立つにふさわしいアップトゥデートな音楽になっていると感じました。ここ数年の新しい音楽からの影響はありましたか?

ベン:それは本当に様々。一番早いのは、Spotifyで僕らが公開しているプレイリストを見てもらうことかな(笑)。2~3週間ごとに、自分たちが新たに発見した音楽をいつもシェアしているんだ。僕たちは、とにかく新しい音楽に興味があるんだよ。通りすがりに何かおもしろいものが流れていたら、それをShazamするしね(笑)。その音楽のことが知りたいんだ。そして、それを自分たちの音楽の中でどうやって使えるかを常に考えている。どうすれば自分たちの音楽に取り入れることができるかってね。

トレイシー:ベンのプレイリストは、我が家のサウンドトラックみたいなもの(笑)。ここで好きなアーティストを3人挙げるよりも、そのプレイリストを見た方が、私たちがいつも聴いている音楽の概要がよくわかるはずです。それらの音楽からは、明らかにインスピレーションを受けていますね。

ベン:一番の影響は、やっぱりボーカルだと思う。今回のボーカルでは、前回はなかったようなテクニックを結構使っているからね。あと、曲の構造も普段の僕たちのやり方とは違っていると思う。以前は、ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラス、ブリッジ、アウトロという極めて一般的な方法で曲を作ることが多かった。でも、今回のレコードでは、4つのコードでひとつのムードが作られ、それがゆっくりと進化していくんだ。これは、クラブ・ミュージックやエレクトロニック・ミュージック全般のプロダクションが、最後に何かが解決するようなものではなく、宙吊りな感じであることに関係してるんじゃないかと思う。音楽で旅をするというよりも、音楽で何かにぶらさがって漂う感じ。わかるかな(笑)? 今回の音楽のあり方には、そういう面が反映されているように感じるね。


文中で言及されているプレイリスト「Ben Watt's SpinCycle」

─自分たちの過去作からの影響についてはいかがでしょう? 再結成までの24年間、もしくはアルバム制作期間に振り返ったりして、新たに何か発見するようなことはありましたか。

トレイシー:振り返ることはありませんでした。何かに取り組み始めたら、今やっていることに集中することが大切だと思うんです。そのプロジェクトに対する信念を持ち続けなければならないし、それを維持するためには、作っている作品以外に気を取られて自分を見失わないようにしないといけないから。

ベン:足かせはいらないんだ。

トレイシー:そう。昔の曲や他の人の作品を意識しすぎてしまうのは足かせになってしまう。それよりも、今やっていることに自信をもたないと。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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