安斉かれん『ANTI HEROINE』レビュー、J-POPと欧米サウンドの摩擦が生んだ極上ポップス

「へゔん」



冒頭、いきなり所在なさげに映る安斉かれんの佇まいが気怠くて痛快だ。唐突に巨大な視点で「神様、ドコにいますか?」から始めるリリックも、J-POPらしい無邪気なスケール感が前のめりに出ていてキレ味がある。この曲の最大の見どころは、ダニー・L・ハールやジャスティン・トランターによるダンサブルなシンセ音が爆発するドロップ前~ドロップ部分(2:25~2:50)だろう。ここで安斉かれんは「なんで、ワタシこのカタチなの?/狭いのはセカイ?/それともワタシ?/セカイが私を視るから/ワタシもセカイを視る/セカイが私で出来てるなら/ワタシもセカイで出来てる」という素朴かつ壮大な歌詞を綴るのだが、デコラティブな赤いトップスが歌詞世界とオーバーラップする様子が面白い。衣装のフォルムが大仰すぎるのだが、こういうことをちゃんと大真面目にやれるチームはなかなかない。

「おーる、べじ♪」



福岡発、グローバルで活動するバンド・Paleduskのギタリスト、DAIDAIが作曲とプロデュースで参加。Paledusk色がしっかりと出ているが、そのポップパンク~トラップメタルの軽やかさとヘヴィさにつられて安斉かれんは秀逸なラップまでも披露。ヒョウ柄×サングラス×デニムというスタイルがロックミュージシャンのパロディになっているのだが、そのパロディ具合いが徹底していて胸を打つ。そして、ここでもまた歌詞が抜群の面白さを見せている。ロックの荒々しさを借りて「なんだってかんだってどうだっていい」と叫びながら「面倒な理不尽はkillして生きる」というパンチラインが出たかと思いきや、「全員野菜だと思お」「わんこがいるなら、まあいいけど」というシュールなラインまで飛び出す。しまいには「いま、どこ、わたしのバイタル正常どこ?」と俯瞰して自らを笑うかのようなツッコミも用意しており、視点の行き来が自由過ぎて目が回る。パロディに自らが振り回されるという予測不可能な展開。

「GAL-TRAP」



2020年にシングルでリリース済みだが、この曲には触れざるを得ないだろう。初めて本人が作曲に携わったというナンバーだが、筆舌に尽くしがたい魅力を備えている。タイトル通りトラップミュージックのリズムを歌唱に取り込みつつリップロールもまじえながらヒップホップのノリを表現しているが、そういった構造を基盤に置きつつ、ギターの音やメロディでポップスとのバランスを取る手法が絶妙だ。MVでは大きい熊のオブジェや衣装の塩梅も素晴らしく、例えばオーバーサイズのトップスはストリート感に加えきちんとスウィートな風合いも添えられており、ここでも辛いヒップホップと甘いポップスのミキシングが達成されている。ハイライトは2:18あたりからのサビで、J-POPらしいエモーショナルなメロディへの繋ぎが高揚感を煽る。

衣装や美術含めた安斉かれんチームの全力のクリエイション、彼女のオリジナリティあふれるワードセンス、さらにはどこかズレた自由奔放な感性、それらがカオティックなJ-POPとして立ち上がり、エッジィな欧米サウンドと交差した結果、いびつな作品として成立する――『ANTIHEROINE』はJ-POPの不可思議さが詰まった、愛さずにはいられない魅力的なアルバムだ。



<リリース情報>



安斉かれん
『ANTI HEROINE』
各配信リンク:https://kalenanzai.lnk.to/ANTIHEROINE
アルバムのコンセプト映像:https://youtu.be/huK4hULrH90



安斉かれん
『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』
各配信リンク: https://kalenanzai.lnk.to/bokurahakitto
アルバムの再生リスト:https://youtube.com/playlist?list=PLxNSiCHWkNhdANonxj3WAIKalIB8xpOAF

安斉かれんオフィシャルSNS  https://linktr.ee/kalenanzai_official

Rolling Stone Japan 編集部

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