『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を盛り上げる、ファミコン世代の洋楽ヒットを徹底解説

 
⚫️ビースティ・ボーイズ「No Sleep Till Brooklyn」

映画の現実のフィールドで、マリオとルイージが住むのはニューヨーク・ブルックリン。水回りの工事に奮闘する彼らが街中を駆け巡るシーンで流れるのが、ビースティ・ボーイズの「No Sleep Till Brooklyn」である。1986年11月に発売された彼らの1stアルバム『Licensed to Ill』に収録されたこの曲は、自分たちのやりたい音楽で成りあがってやるぜという歌詞を、ヘヴィなギターリフでラップするナンバー。ギターはスレイヤーのケリー・キングがゲスト参加し、重圧なプレイを響かせている。彼らのMVもやんちゃ感たっぷりで必見だ。マイク・D、MCA、アドロックの3人がまだまだクソガキ感たっぷりな時代で、当時は、まさか彼らがヒップホップの歴史を刻んでいく存在になるとは思いもしなかった。そういう意味では、音楽的に成長を遂げ世界中をトリコにしていったビースティ・ボーイズの歩みと、同じブルックリン出身でゲームソフトの1コンテンツから大きく羽ばたいていったマリオの成功の歴史が被って見えてくるのであった。



⚫️ボニー・タイラー「Holding Out For A Hero」

マリオとルイージは異空間にスリップしたときに離れ離れになってしまう。マリオは平和なキノコ王国へたどり着き、ルイージは大魔王クッパの支配する恐怖のダークランドに漂着してしまったのだ。マリオはルイージを助けるために、ピーチ姫の指導のもとハードな訓練を行うことになる。何度も失敗しながら特訓をしていくシーンで流れる曲が、ボニー・タイラーの「Holding Out For A Hero」である。1984年の大ヒット映画『フットルース』のサントラに収録された楽曲なのだが、日本人目線だとどうしても大映ドラマ『スクール☆ウォーズ』のテーマ曲だった、麻倉未稀の歌う日本語バージョン「ヒーロー」に脳内自動変換されてしまう。奮闘するマリオの姿に、「イソップ!」「大木!」「花園、花園」の声がよぎる。それを楽しむのも大人の余裕と言っていい。ちなみにクリス・プラットは高校時代はアメフト選手だったという、ラグビーとのニアミス感も書き留めておく。



⚫️a-ha「Take On Me」

ドンキーコングがピーチ姫やマリオたちを連れ、カートでジャングル王国を案内するシーンで流れるのは、1985年9月にリリースされたa-haの「Take On Me」。キラキラのシンセポップサウンドでモートン・ハルケットの甘く伸びやかなボーカルが光る、問答無用の80sクラシックチューン。アニメーションと実写を織り交ぜたMVは、80年代を代表するMVのひとつである。a-haはノルウェーの出身の3人組で、この「Take On Me」が世界中で大ヒットとなった。この名曲の誕生には歴史があり、1984年に1度リリースされたもののメンバーが仕上がりに満足せず、再レコーディングされたバージョンが大ヒットとなった。さらに遡ると、メンバーのポール・ワークター=サヴォイとマグネ・フルホルメンがa-ha以前にBridgesというガレージバンド時代を組んでいたのだが、そのときの「Miss Eerie」という楽曲が「Take On Me」の下敷きになってる。「Take On Me」は、長い時間をかけてブラッシュアップにブラッシュアップを重ね完成した入魂の楽曲なのだ。



⚫️AC/DC「Thunderstruck」

マリオやドンキーコングたちが、『マリオカート』的にレースで対決することになったときに、車選びの際に聴こえてくるのがAC/DCの「Thunderstruck」だ。彼らが1990年9月に発表したアルバム『The Razors Edge』に収録されている、パワフルさに満ちた1曲である。AC/DCは、1973年にオーストラリアで結成され、現在も絶大な人気を誇るロックンロールバンド。AC/DCとこの映画を結び付けるとすると、やはりジャック・ブラックにスポットが当たる。彼が主演した映画『スクール・オブ・ロック』で大きな軸になっているのは、AC/DCでありギタリストのアンガス・ヤングだった。『スクール・オブ・ロック』の劇中でバンドが演奏する「It's A Long Way To The Top」は、AC/DCの1stアルバム『High Voltage』に収録されているナンバー。AC/DCの特徴であるリフでガンガン押していくサウンドは、車やバイクとの相性バッチリ。映画でも、レースに向かうマリオたちの熱い意気込み感をしっかり煽ってくれる。




⚫️エレクトリック・ライト・オーケストラ「Mr.Blue Sky」

映画のエンディングを幸福感に染めるのは、ELOの愛称で知られるエレクトリック・ライト・オーケストラの「Mr.Blue Sky」。この曲は、彼らが1977年11月に発表した2枚組アルバム『Out of the Blue』に収録されたナンバーだ。バンドの中心メンバー、ジェフ・リンが作詞作曲を手掛けたこの曲は、これまでにも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(Vol.2)のオープニングや、『エターナル・サンシャイン』などの映画でも使われていた。ELOの楽曲は他にも、映画『ブギーナイツ』で「Livin' Thing(オーロラの救世主)」、テレビドラマ『電車男』で「Twilight」などで使われている。振り返るとELOは、1980年にオリビア・ニュートン=ジョンの主演作『ザナドゥ』のサントラを手掛けたこともあった。彼らのサウンドの核となっている、ストリングス、シンセ、キャッチーなメロディラインは、映像系との相性が良く、瞬間的にリスナーの心を掴むマジックがあるのかもしれない。映画の締め括りの高揚感を、マリオとともにこの曲を通じて味わって欲しい。



映画では上記の曲以外にも、印象に残る楽曲が使われている。映画の冒頭、大魔王クッパと氷の国のペンギンたちとのバトルのときには、布袋寅泰が手掛けた『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY/新・仁義なき戦いのテーマ』が流れる。闘争心を煽るこの曲は、映画『キル・ビル』のテーマ曲としても使われており洋画ファンには聴き馴染みがあることだろう。



そして、ピーチ姫に想いを寄せるクッパが、ありったけの愛情をピアノで弾き語る劇中歌がジャック・ブラックの「Peaches」である。

ジャック・ブラックの発案で生まれたというこの曲は、ボーカルエフェクトが効いているものの、過剰なまでの感情の込め方などはそのまんまのジャック・ブラック節。そのルーツにあるのは、今年1月に亡くなったミート・ローフのドラマチックなロック・オペラ歌唱だ。

ジャック・ブラックは俳優活動から派生したヘヴィメタルアコギデュオ、テネイシャスD(ロニー・ジェームス・ディオへのリスペクトとロック愛爆発の映画『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』は必見)で実際に音楽活動をしたり、また、名前繋がりでジャック・ホワイト(ザ・ラカンターズ、元ザ・ホワイト・ストライプス)とタッグを組みコラボ曲を制作したりと、映画と音楽の世界を自由に行き来する人物だ。映画の中で大きなインパクトを与える「Peaches」は、ジャック・ブラック本人が出演するMVも制作され、エルトン・ジョンを意識したという派手な衣装での彼の熱唱が楽しめる。

このように『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、非常に音楽との親和性の高い映画である。ぜひとも読者のみなさんには、大人世代の音楽をきっかけに『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の世界を堪能してもらいたい。






『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
声の出演;クリス・プラット、アニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・デイ、ジャック・ブラック キーガン=マイケル・キー、セス・ローゲン、フレッド・アーミセン、ケヴィン・マイケル・リチャードソン、セバスティアン・マニスカルコ
監督:アーロン・ホーヴァス、マイケル・ジェレニック 脚本: マシュー・フォーゲル
製作:クリス・メレダンドリ(イルミネーション)、 宮本茂(任天堂)
日本語版吹替声優: (マリオ)宮野真守、(ピーチ姫)志田有彩、(ルイージ)畠中祐、(クッパ)三宅健太(キノピオ)関智一、(ドンキーコング)武田幸史
原題:THE SUPER MARIO BROS. MOVIE 配給:東宝東和
公開日:2023年4月28日(金)全国公開
公式HP:https://mario-movie.jp/

 
 
 
 

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