「元カレ殺すかも」と歌い歴史的ヒット、SZAが熱烈な共感を得てきた理由

 
『SOS』への道のり「孤独こそ伝えたかったこと」

こうして、着実にファン層を拡げていったSZAだったが、2ndアルバムとなる『SOS』への道のりは平坦ではなかった。度々メディアへのインタビューでも新作がリリースされることを匂わせていたSZAだったが、待てども待てども具体的なプランは発表されない。さらにはTwitter上でレーベルやパンチらへのフラストレーションとも取れる発言も飛び出し、SZAの身を案じるファンたちにとっては気が気ではない状態が続いていた。『SOS』の正式な(そして具体的な)リリース日が発表されたのは2022年12月3日に出演したテレビ番組「Suturday Night Live」内であり、その約1週間後である12月9日にいよいよリリースされると告げられたのだった。

『SOS』のアートワークに写る群青色の海は、美しくあると同時に、果てぬような底の深さを感じさせられる。飛び込み台の上にポツンと座るSZA。ホッケージャージを着て足元にはクラシックなティンバーランドのブーツが光る。アルバムのタイトルが示すように、助けを求めているようにも見えるし、世の中を諦観しているような雰囲気も併せ持つ。このアートワークに関してSZA本人は、1997年に撮影された故ダイアナ妃の写真がインスピレーション元だと明かしている。そこにSZAが感じ取ったのはまさに”孤独”だ。ラジオ番組に出演した際に「孤独こそ、私が最も伝えたかったこと」と明かしていたSZA。決して明るくポジティブな意図ではないが、だからこそ、SZAは、多くのリスナーの心をとらえた。『SOS』はビルボードのアルバムチャートにおいて、現時点(2023年6月2日)において、合計10週にわたって1位を獲得した。ちなみに同じ記録を持つアーティストはアデル(2015年『25』)がおり、女性シンガーによるR&B作品のアルバム・チャート10週1位は、マライア・キャリーの『Mariah Carey』(1990年)以来となる。さらに、R&B/ヒップホップ・チャートにおいてはすでに18週にわたって1位をマークしており、これはビヨンセ『Lemonade』(2016年)を抜き、アレサ・フランクリンが『Aretha Now』(1968年)で打ち立てた17週という最多記録をも抜いたことになる。




アルバムの幕開けを飾る表題曲「SOS」で、SZAは“おっきなお尻、天然モノに見えるでしょ。本当は違うけど(So classic that ass so fat / It looks natural /It’s not)”とBBL手術(ブラジリアンバットリフト手術)について明かし、“私は自分のものが欲しい(I just want what's mine)”と繰り返す。SZAがとことん向き合っているのは、自分自身だ。「Special」では“グッチのお店から出てくるあの子みたいになりたかった(I wish I was that girl from the Gucci store)”と歌い出し、“私の肘も膝もカサカサ(I got dry skin on my elbows and knees)”と続けて“自分がスペシャルな存在だったら良かったのに(I wish I was special)”と歌う。世界中のステージに立ち、グラミー賞までを受賞したSZAがそれでも抱える嫉妬や孤独は、小さな部屋で毎日同じことを繰り返しているような私(たち)のそれと変わらないのかもしれない。

『SOS』にはこうしたSZAの小さなつぶやきが溢れている。なんてことない毎日の風景にチクっと刺さる棘のような言葉とメロディ。シルクのような滑らかさというよりは、肌に馴染むデニムのようなSZAの歌声。「Shirt」の歌詞にもあるように、完璧じゃなくていいし、理想の自分になれなくてもいい。『SOS』で語られるSZAの叫びは、我々を導いてくれるモールス信号になる。

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SZA
『SOS』
国内盤CD(全25曲)発売中
再生・購入:https://SZAsmji.lnk.to/SOS

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