フェンダーはなぜ今、世界初の旗艦店を原宿にオープンするのか 米CEOとアジア代表が語る、楽器市場と音楽シーンの変化

―フェンダーでは近年、初心者や女性など新たなマーケットに目を向けてきたと思いますが、そうした傾向もこのストアに大きく反映されていると思って良いでしょうか。

アンディ:私たちが行った調査では、毎年弊社が販売しているギターのうち45%が初心者、そのうちの50%が女性でした。今までの伝統的な楽器店では、女性のお客様に対して十分なサービスが提供できていないという側面がありました。それは、女性店員の数が少なかったため、購入プロセスを女性店員がサポートできていなかったということもあります。そのため、このストアではかなり女性店員の数を増やしています。女性の販売スタッフが50%ぐらいになることを目指しました。

―そうした消費者目線とは別の話ですが、日本の音楽シーンについてはどのように捉えていますか。

アンディ:かつては、日本または韓国のアーティストはなかなか国外での活動が難しかったですが、今はそれが急速に変わりつつあり、日本や韓国のアーティストがグローバルに活躍しています。例えば今日も演奏していただくMIYAVIさんは、アメリカでもギタリストとして、さらに俳優としてもよく知られるようになっていますし、日本の音楽は、今後さらに重要性を増していくはずです。



―日本のチャートに入っているアーティストの曲は、海外のチャートに入っているアーティストと比較すると、今でもギターがフィーチャーされた曲が多い印象ですし、そうした音楽を聴くことでギターを手に取る人もいると思います。

アンディ:とても興味深いですね。私たちにとってそれはすごく好ましいことです(笑)。私は、ジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、リッチー・ブラックモアなど、ギターヒローがいる時代を生きてきました。もちろん、そうしたギターの名手は非常に影響力を持っていましたが、その次に時代にパンク・ミュージックが台頭してきたことによって、誰でもギターを手に取ってステージに上がって、熱意あるプレイをすればいいんだという、ギター演奏の仕方が変わったんです。最近はというと、我々のリサーチの結果、女性プレイヤーの多くは自分でギターを練習して上手くなって、好きな曲をリラックスしてベッドルームで静かに弾きたいと思っているようで、それも素晴らしいことだと思います。

―必ずしも、プロミュージシャンを目指してギターを手に取るわけではないですもんね。

アンディ:そうですね。とくにコロナ禍では、新たにギターを手にする人が3,000万人現れたんです。彼らは時間ができたことで、自己投資をしたい、ストレスから解放されたいとギターを手にしたのだと思います。その多くの人が、生涯にわたりギターをプレイしてくれると思いますし、ギターというものについての考え方が変わったと信じています。昨年、我々が組んだアーティストに、blue the tigerという女性ベーシストがいます。彼女はもともとソロ・アーティストとしてTikTokで音楽を発信していたのですが、今はフルバンドでツアーをするようになりました。90秒より短い曲のアーティストをサポートしているレーベルもあります。90秒ということは、どのプラットフォームかおわかりいただけると思いますけど(笑)。人によっては、ステージに上がるのは緊張して嫌だけど、家のカメラで何万人、もしかしたら何百万人の人に観てもらうことを好むアーティストもいます。そういった新しい発表の仕方が出てきているのです。



FENDER FLAGSHIP TOKYOの玄関となる1階は、ギター/ベース製品や、アーティストシグネイチャーモデル、アクセサリーなど、新製品や注目アイテムが展示販売されるフロアとなります。ウェアやキャップ、ホーム/オフィスアイテム、ステーショナリーを含むオリジナルグッズの販売や、旗艦店オープンと同時にローンチする新アパレルブランド「F IS FOR FENDER」など、様々なライフスタイル商品の販売を行う。


―インターネットを介して音楽を発表したい人たちと、ギターを繋ぐガジェットなどはこちらのストアでも取り扱う予定はありますか?

アンディ:フェンダーでは2021年に「PreSonus」という会社を買収しました。PreSonusでは、ストリーミングやライブミキサー等といった音楽配信用のガジェットを扱っているところですので、まさにこの分野にも力を入れています。

―近年ギターを取り巻く環境の変化が、一番顕著に表れていたのはアメリカ市場なのでしょうか?

アンディ:最初にアメリカでリサーチしたときは、「アメリカのマーケットは違う」と言われていたのですが、実際に世界中のマーケットを調査したときに、別にアメリカが特別ではなく、世界中で同じような傾向が見られました。日本でもアメリカでも、例えば女性プレイヤーが増加していることや、新しいプラットフォームによって巨大なニュークリエイターの波が訪れていることは、世界中で共通しています。



―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」と、日本に多く点在するフェンダー製品を扱う楽器店との連携などはお考えですか。

アンディ:そうですね。とくにカスタムショップに関しては、カスタムギターに関心のあるお客様が来店した際には、こちらのストアを紹介していただいて、コラボレーションしていきたいと思います。バドはこれまでのキャリアで日本のラルフ ローレンの旗艦店の立ち上げと運営を経験していて、今私が言ったようなことを、小売店と連携して実現しました。つまり、いろいろな店舗のトップバイヤーを旗艦店にお連れして、そこでスペシャルイベント等をして、売り上げについてもコラボレーションするようなことをしていたのです。ナイキが旗艦店を立ち上げたとき、その他のディーラーは「この世の終わりだ!」という反応をしましたし、ディズニーに於いても同様でした。でも実際は、その後ディーラーベースは拡大し、かつてないほどの成功を収めました。フェンダーの旗艦店も決してディーラーの方々と競争するものではなく、業界自体を活性化して拡大するための投資だと考えています。


フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー(Andy Mooney)氏 
ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。


―音楽ファン、ミュージシャン、多くの人が「FENDER FLAGSHIP TOKYO」に期待しています。みなさんにメッセージをお願いします。

アンディ:まずは、「ぜひ来て下さい」と申し上げたいです。世界の中でも最も素晴らしいフェンダーの展示をご覧いただけます。私は既にたくさんのギターを持っていますが、このストアでもう20本ほど、「コレクションに加えたいな」と思うギターと出会ってしまいました(笑)。ギターを買おうかなと思っている方や、以前買ったものの全然演奏していない人が、ここに足を運ぶことで音楽を演奏したい、創り出したい、他の人と共有したいというインスピレーションを受けるような場所にしたいと思っています。



FENDER FLAGSHIP TOKYO(フェンダー フラッグシップ トウキョウ)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-8-10

■ 営業時間:11 時~20 時(年中無休 *年末年始を除く)
■ 交通
山手線 原宿駅 徒歩5分、
東京メトロ 千代田線・副都心線 明治神宮前駅 徒歩2分
東京メトロ 千代田線・半蔵門線・銀座線 表参道駅 徒歩8分
■ 階数:地下1階~地上3階
■ 面積:総延床面積 1068.4m² / 323.19坪

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