「ツタロック DIG LIVE vol.11 -OSAKA-」大阪で2度目の開催、9組のバンドが魅せた熱気と矜持


帝国喫茶

この日が初のBIGCATだったという帝国喫茶は、幅広い年齢層のファンを踊らせてエモーショナルな空間を作り出した。1曲目はコーラスの歌い出しが軽妙な「貴方日和」でフォーキーに場を包んでいく。杉浦祐輝(Gt.&Vo.)の柔らかな歌声が耳に心地良く、アクリ(Gt.)のギターリフにはどこかノスタルジーを感じる。杉浦のアカペラから始まる「君が月」では情緒豊かなサウンドスケープを描き出し、新曲「季節すら追い抜いて」をものすごい熱量で叩き込む。前半と打って変わった爆走ロックサウンドにフロアもダンス! 帝国喫茶は杉浦・疋田耀(Ba.)・杉崎拓斗(Dr.)の3人が作曲者。一聴してわかるメロの良さや曲展開、4人のアンサンブルは新しくも懐かしくもある。グッドメロディの「夜に叶えて」、「じゃなくて」を連投してポテンシャルの高さを露わにした後は、全員のコーラスが走り出しそうな気持ちにさせた「カレンダー」、人間らしい泥臭さを見せた「ガソリンタンク」で激しく情感を揺さぶる。最後は杉浦の生々しいギターから「春風往来」をドロップ。3人がジョインすると杉浦はギターを弾かずにネックを持った状態で早口ボーカルをがなるようにぶつける。まるでパンクバンドかと思うほどの激しいプレイ。勿論フロアも必死に食らいつく。30分で様々な表情を見せ、最後はワンマンのフィナーレのような光景で締め括った帝国喫茶。11月にはこの会場で自身のワンマンライブを行う。その時はどんな景色を見せてくれるだろうか。


yutori

折り返し地点では、昨年8月に東京・Spotify O-EASTで行われた「ツタロックDIG LIVE Vol.10」にも出演したyutoriが登場。浦山蓮(Dr.)が勢いよくビートを叩き込み、「センチメンタル」を投下。突き抜けるような佐藤古都子(Vo.)の歌声、内田郁也(Gt.)のギターソロ、ボトムをグルーヴィに支える豊田太一(Ba.)のベース。ステージに立った時の存在感はピカイチだった。圧倒的な演奏力でのっけからフロアをひとつにする。「音信不通」で表現力の深さを見せつけ、「その調子で楽しんでいこうね」と古都子が叫んで「モラトリアム」を披露。さらに太一が「まだまだいけるよな! 手拍子!」とフロアに呼びかけてクラップを全開に。個々の技巧が見え隠れした「煩イ」でナイスグルーヴを作り出す。「ワンルーム」での内田のギターソロも見事。MCでは古都子が「前回東京のサブステージに出させてもらったんですけど、今日は大阪に戻ってきました。2ステージ出るバンドってあまりいないそうなので、本当にありがたい。私たちをここに立たせてくれたのはあなたたちのおかげです」と感謝を述べる。ラストパートはファンからの評価が高い「愛してるよ」、代表曲「君と癖」を続けて披露し、洗練された表現力を提示する。2度目のMCでは古都子が「今日は色んなバンドが出て、誰が目当てとかこのバンドが好きとか、色々あると思うけど、そんな人たちがひとつの場所に集まって手を挙げたりリズムに乗って楽しんでるのは本当に普通のことじゃないんです。楽しんでくれてありがとう」とメッセージを贈り、今年2月に配信リリースされた「煙より」を披露。メンバーも笑顔で気持ち良さそうにアンサンブルを響かせ、堂々たるライブを終えた。纏うオーラはますます研ぎ澄まされていくのだろう。


なきごと

続いてはなきごと。袖から「お願いしまーす!」と元気な掛け声が聞こえ、SEが流れると同時にクラップが発生。サポートに山﨑英明(Ba.)と奥村大爆発(Dr.)を迎えた編成で、水上えみり(Vo.&Gt.)と岡田安未(Gt.&Cho.)が登場した。水上の合図から「シャーデンフロイデ」を疾走感たっぷりに響かせる。1曲目から岡田の超絶ギターさばきが炸裂。ダイナミックに「連れ去ってサラブレッド」を演奏した後はビートを止めずにMCに入り、「あなたが今日なきごとのライブを見て何を思うかが1番大事だと思うので、胸に留めておいてください」と伝え、全員のキメからシームレスに「知らない惑星」へ。約1年半前に彼女たちのライブを見たが、ステージングが格段にレベルアップしていた。凛とした佇まいの中に吸い込まれそうな牽引力がある。MCでは水上が「昨日台風やばかったね。今日集合時間早めにズラして。オープンの12時には神奈川過ぎた辺りだったよね。渋滞も事故も雨もすごくて、本当に大丈夫かなってそわそわしてたんですよ。今日は出演者欠けずに迎えることができてます。これは当たり前じゃなくて奇跡」と述べ、天気の話から物事には様々な側面があると語る。そして音楽に救われてきたと話し、「背中を押すんじゃなくて隣で背中をさすってあげられるような音楽をやりたいと思ってなきごとというバンドをやってます。残り3曲でしっかり届けるのでしっかり受け取ってください」と、「憧れとレモンサワー」、「メトロポリタン」、「深夜2時とハイボール」を真っ直ぐな瞳で歌い上げる。日常を生きる私たちに響く共感性の高い歌詞は、まさしく救い。心と心を深いところで繋ぐようなライブで魅了し、最後は深々とお辞儀をしてステージを去った。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE