エズラ・コレクティヴ、アルファ・ミスト…UKジャズ新世代がビルボードライブで見せた進化

 
特異なポジションにいる2組

ここまでの3公演では『We Out Here』周辺のキーマンたちが活躍していたが、6月に来日したアルファ・ミストとマンスール・ブラウンは、また別の角度からUKジャズの充実ぶりを感じさせてくれた。


アルファ・ミスト(Photo by cherry chill will.)

アルファ・ミストは特異な立ち位置にいて、J・ディラの影響を公言し、トム・ミッシュとのコラボでも知られるビートメイカーでありながら、独学でピアノを身につけた鍵盤奏者でもある。彼が率いるバンドの演奏は、コンテンポラリージャズの要素もありつつ、メランコリックでくぐもったフィーリングはローファイ・ヒップホップ的で、そこにも独自のバランスが感じられた。さらにアルファ・ミストは、バンドリーダーとしても卓越した指導力を発揮しており、バラバラな個性をもつ奏者たちをのびのびと機能させながら、的確にまとめ上げていく。そのなかで際立っていたのはドラマーのジャス・カイザー。UKジャズの大半がリズムで「踊らせる」作りであるのに対し、アメリカの先端スタイルも取り入れた彼女の演奏はリズムを「聞かせる」もので、明らかにアンサンブルの軸を担っていた。


マンスール・ブラウン(Photo by Masanori Naruse)

そして、UKジャズ最大の謎といっても過言ではないのが、ギタリストのマンスール・ブラウン。『We Out Here』にもトライフォースというグループで参加していたり、アルファ・ミストらとコラボEPを発表するなどシーンとの接点は少なくないのだが、周囲とは似ても似つかぬ音楽性を貫き通している。影響源を尋ねてもトラヴィス・スコット、マイク・ディーン、ルドウィグ・ゴランソン、ブリアルなど普通のジャズ・ミュージシャンからは出てこないような名前ばかり。「日本語の響きは美しくて、描きたい感情を鏡のように映し出してくれる」と本人は語っているが、日本語のタイトルを冠したリーダー作には孤高のサウンドが詰まっていた。

そんな彼のステージは、音源を遥かに上回るほど衝撃的だった。音源では作りこまれたダウナーな世界観が魅力だったが、ライブではエレクトロニック・ミュージック的ともいえる質感を大量のエフェクターと3つのアンプで作り上げ、ほぼメタルと言ってもいいほどにギターを弾き倒し、タッピング奏法までやってのける。しかも、主役の分厚いギターを中心に、バンドの4人で爆音を鳴らし、重低音が身体にまで響いてくる。ここまで迫力ある音を出せるビルボードライブにも驚いたが、こんなふうに音響システムの限界を試すような音楽をやるミュージシャンが、まさかUKジャズの界隈から出てくるとは思わなかった。

今回振り返った5公演は、2023年現在のUKジャズがどのような状況で、そこからどんな音楽が生まれているのかを幅広く伝えてくれた。『We Out Here』はリリース5周年を迎え、その頃に注目を浴びたミュージシャンたちは成長し、音楽性を洗練させながら、それぞれの独自性を追求している。シーンの行く末は知る由もないが、可能性が無限に広がっていることは間違いないだろう。今後も来日が続くことを期待したい。

 
 
 
 

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