でんぱ組.incが語る世界観、アキバカルチャーの果て

『ONE NATION UNDER THE DEMPA』より

でんぱ組.incがつくり出す世界観が面白い。前作EP『でんぱぁかしっくれこーど』に続き、アキバカルチャー二部作といっても過言ではない、最新EP『ONE NATION UNDER THE DEMPA』をリリースした。プロデューサーのもふくちゃんに以前取材した際、「AIで(アートワークの)デザインのラフを構築した」と語っていたこともあり、今回はこれらの作品のジャケットやCDのブックレットのアートワークを誌上を使って大きく紹介しつつ、メンバーの中から相沢梨紗、藤咲彩音、小鳩りあの3人にインタビューした。

【写真を見る】でんぱ組.incのアートワーク

・もふくちゃんのエモーショナルな部分

ー別の取材でもふくちゃんに話を聞いた時、あらためて凄い人だなと思いつつ、前作『でんぱぁかしっくれこーど』から今回の『ONE NATION UNDER THE DEMPA』にかけての一連のEPのプロデュースワークが、突き抜け過ぎててヤバいなと。

藤咲 暴れてますよね。

ー表現する側としては求められるものって毎回変わってくると思いますが、もふくちゃんのプロデュース&ディレクションに関して、どう感じていますか?

相沢 『でんぱぁかしっくれこーど』を作る前って、今のでんぱ組.incで何をやるのがいいんだろうってもふくちゃん自身が模索してた印象があって。長いこと続けてる私とかピンキー!(藤咲彩音)、みりんちゃん(古川未鈴)は、毎回テーマを作るというよりは、その時代の流れとか、その時のメンバーの感情で動いて活動していたんです。だからEPにテーマをつける時は、自然発生型が多い印象があったんですよね。それはもふくちゃんや周りのスタッフさんたちが、私たちにその種を投げてくれていたのかもしれないけど、私たちの感覚としてはこれをしようって決めたというよりは、こうなっちゃった、ってイメージが強くて。

『でんぱぁかしっくれこーど』を作ることが決まった時、ある日もふくちゃんから「でんぱ組.incはやっぱり萌えきゅんソングだ!」って、周りが面食らうくらいの熱量で語られたんです。どうしたのって聞いたら、「秋葉原にはサブスクにも配信されていないような神曲がこんなにいっぱいあって、路上ライブで生まれた熱いエネルギーを後世に残さなきゃいけない、私たちの使命はそれだぁ!」って叫び出して、あ、はい……みたいな(笑)。私、みりんちゃんは、路上ライブをやってた頃もなんとなく秋葉原にいたんですけど、事件とかの影響で路上ライブがなくなってしまって、最近の子たちの多くは当時を知らないし、「私たちが秋葉原の歴史を歌っていいのかな」みたいな空気がちょっとあった中で、『でんぱぁかしっくれこーど』は始まったんですよね。ただ楽しいっていうよりは、これからでんぱ組.incはどうなっていくんだろうね、みたいなところからスタートしたのが、私の『でんぱぁかしっくれこーど』のイメージでした。



小鳩 私は加入して2年なんですけど、私が入ってからの2年間、「でんぱっぽくないね」みたいな評価をファンの方から受けることが多かったなと思ってて。でもそれは私や新メンバーが入ったタイミングで、新しいでんぱ組.incをどうやって表現していくかを、もふくさんや曲を作ってくださる方が、一緒に模索してくれたからなのかなって。そんな中で『でんぱぁかしっくれこーど』が発表されて、その時はファンの人も「これこれ!」みたいな反応が多かった印象があります。私自身、同じ時代と場所を生きてたわけじゃないけど、昔の秋葉原をTVで見てメイドカフェに憧れて働き始めた身なので、萌えとかアキバのカルチャーに憧れを持ってるんです。だから、「ついに歌わせてもらえる時が来たんだ」って想いはすごくありました。アキバが好きで私はアイドルをやってるんだなって再認識したのが『でんぱぁかしっくれこーど』の思い出です。





『でんぱあかしっくれこーど』
Design:サワイシンゴ
Photographer:藤城貴則
Photo Retoucher:奥津智彦
Illustration:きりさき
Clothing Design:石原睦美 【CLOTHING623】

ー今回の『ONE NATION UNDER THE DEMPA』に関しては何か言われました?

相沢 でんぱ組.incは結成して15年ぐらい経つんですけど、この10年ぐらいでもふくちゃんと濃く関わってた時期も含めて、もふくちゃんのエモーショナルな部分を言葉で伝えられたことが今までなかったんですよ。今回初めてぐらいで言われて、でんぱでそれをやりたいと思ってくれてたんだって、改めて感動しました。でも『でんぱぁかしっくれこーど』ができた頃って、コロナ禍で今までのライブの形が変わってから、やっと声が出せるかな、出せないかな、ぐらいの時期だったんですよね。コロナ禍の3年ぐらいの間に、ライブで見つけたものもあるが、失ったものも絶対ある、みたいな。そういうところと、この『ONE NATION UNDER THE DEMPA』の“萌えとエモを探す”っていうコンセプトが一致してるなって思います。萌えについては、みんなが何に突き動かされてるのかを、言葉じゃ説明できないから音楽でやろうよって言われてる感じがして。私たちもすごく好きだけど、もふくちゃん、秋葉原が好きなんだなって思いました(笑)。



ー今まではどちらかというとリアリティのある等身大の作品が多かった気がしますが、前作・今作のEPはコンセプチュアルで、ストーリー性のあるシリーズ作品になったと思います。普通はモチーフだけで終わってしまいがちだけど、これまでのキャリアの積み重ねが、物語により説得力を与えてくれていますよね。

相沢 そうですね。ファンタジーなのかホラーなのかわからないですけど、ちょいちょい現実とリンクするから、実際に秋葉原にこれがあるのかもってゾワッとさせてくれます。今回このEPにちなんで、ライブとお芝居をミックスした戯曲を、初めてみんなでやらせてもらって。それぞれがでんぱ組.incとは違うキャラクターになりきってやったんですけど、みんなめちゃくちゃ面白くて(笑)。すごく誇張されたみんなだったんですよ。『でんぱぁかしっくれこーど』だと、秋葉原が主人公の劇をやって。秋葉原が見てきた歴史を私たちが表現するんですけど、でんぱ組.incがこれまで通ってきた時代とか、震災のことも実は描かれていたり。





『ONE NATION UNDER THE DEMPA』
Design:サワイシンゴ
Photographer:藤城貴則
Photo Retoucher:奥津智彦
Illustration:ノInH
Clothing Design:石原睦美【CLOTHING623】

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