ジェイムス・ブレイクが語るダンスフロア回帰の真相、AIと音楽産業にまつわる深刻な懸念

ジェイムス・ブレイク

こんなジェイムス・ブレイク(James Blake)が聴きたかった――初期からのファンはそのような興奮を隠しきれなくなるに違いない。ブレイクによる2年ぶりのニューアルバム『Playing Robots Into Heaven』(9月8日リリース)は、久々に彼のエクストリームなトラックメイカーとしての才能が余すところなく発揮された作品だ。

アルバム前半のDJユースの楽曲群から立ち昇るのは、汗と熱気にまみれたダンスフロアの匂い。アルバム単位でここまで強いクラブカルチャーとのコネクションを感じさせるのは、それこそデビュー作以来ではないだろうか。だがもちろん、これはただの原点回帰とは違う。「Loading」などに搭載された、簡潔だがフックのあるボーカルメロディは、過去5作でソングライティングの実力を磨いてきた成果も感じさせる。『Playing Robots Into Heaven』は今のブレイクだからこそ作ることができた、ひとつの到達点だ。

2023年8月16日(金)の大阪単独公演、そして8月18日(金)に幕張メッセにて開催されるソニックマニアでは、キャリア屈指の傑作を作り上げたばかりのブレイクによる脂の乗り切ったパフォーマンスを是が非でも体験してほしい。



―つい先ほどアルバムの音源が届きました。まだ2回通して聴いたばかりなので第一印象に近いですが、あなたのキャリアを通して1、2を争う傑作だと感じました。

ジェイムス:ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。

―何よりもまず鮮烈だったのは、『Playing Robots Into Heaven』ではあなたのエクストリームなトラックメイカーとしての側面が前面に押し出されていることです。あなたとしてはどのようなアルバムにしたいというビジョンがありましたか?

ジェイムス:完全に自由な作品を作りたかった。それは曲の構成にも言えることで。自分のDJセットでかける曲からの影響が大きかったね。で、今回は、初期の頃の作品以降あまり見せてこなかった自分のプロデュース面を見せたいと思っていて。ボーカル作品では、そういうぶっ飛んだ音作りを意図的に抑えてきた部分があって、それが恋しいと思ったのかもしれない。

―前作の『Friends That Break My Heart』(2021年)はあなたのシンガーソングライターとしての側面が最も強く打ち出された作品でした。ソングライティングを突き詰めたアルバムを一度作り上げたことは、今回のアルバムの方向性に影響を与えましたか?

ジェイムス:やり尽くしたと思ったし、同じことを繰り返す必要はないと思ったんだ。だから今回は、どんなアイディアでも自由に試してみることができた。決まった歌の構成やテーマにはめ込まなきゃいけないっていう縛りは一切なくて。だから今作は、作る過程の中で少しずつ形ができていったね。実際、アルバムの大半の曲が、モジュラーシンセがきっかけで生まれたんだ。ジャムセッションに近い制作過程だった。

―あなたにはトラックメイカー、シンガーソングライター、DJ、ポップ/ラップミュージックのプロデューサーといった様々な顔があります。新作は、そういったあなたの多面性がもっとも総合的に表現されたアルバムだとも感じました。

ジェイムス:そういう部分はあったと思う。そういう様々な側面を探求できたのはよかったね。さっきも言ったように、縛りが一切なかったから、これまで培ったいろんなテクニックを使うことができたんだ。『Friends That Break My Heart』では、歌を書く上でのスキルを作りながら学んでいたという感覚だった。でも今作では、やるべきことを達成するためのスキルは全て身についていて、わかっていた。だから正直、気持ちも楽だったんだ。「こんなに簡単にアルバムができちゃっていいの?」って思ったくらい。「これをプロの仕事って呼んでいいの?」ってね。

―では、前作よりも楽しんで作れました?

ジェイムス:そうだね。ほんの少しだけ今回のほうが楽しめたかな。違うタイプの表現だからね。『Friends That Break My Heart』の中の幾つかの曲で見せている感情表現を、今作で見せることはできない。違うタイプの音楽だから。今回のほうがゲームみたいだった。



―先ほど自分のDJセットの曲から影響を受けたという話がありましたが、アルバム前半には、フロア志向のダンストラックが並んでいます。どれも強烈なフロアバンガーですし、「Tell Me」なんかはほとんどハードテクノです。少なくともアルバム単位でこういったサウンドを明確に打ち出したことはなかったと思いますが、なぜいまフロア志向のサウンドを目指したのですか?

ジェイムス:これまでの作品でテクノっぽいサウンドに一番近い曲は2ndアルバム(2013年作『Overgrown』)の「Voyeur」だったんじゃないかな。あと「I Hope My Life」も(2016年作『The Color in Anything』収録)。でも、あれはどっちかというとハウスだけど。これまでも何度か目指したことはあるけど、今回はダンスフロア志向のサウンドにより強くコミットしている。いいタイミングだと思ったんだ。僕がやろうと思えばできるとみんな思っていたと思うし、それを聴きたいと思っている人がいるのもわかっていた。それを見せる時が来たっていうことだね。



―フロア志向のサウンドを打ち出すにはいいタイミングだったというのは、あなたのキャリアの変遷から考えてもそうですが、パンデミックを経てクラブやライブが復活したこともある程度は関係していますか?

ジェイムス:もちろん。その可能性を広げられるとも思った。EP『Before』(2020年)の時にも感じたんだけど、あのEPを作ったときに、こういうサウンドを求めている人たちが大勢いることを思い出させられたんだよ。求めている人たちがいるんだから、だったらこれをさらに突き詰めようって思ったんだ。



―1stアルバム『James Blake』(2011年)のサウンドは、ポストダブステップが全盛だった当時のロンドンのクラブシーンに根差していました。その比較で言うと、ニューアルバムのダンストラックのサウンドは何に根差していると言えますか?

ジェイムス:特定のシーンに根ざしてはいないんじゃないかな。そこが面白いところでもあるんだけど。特定のシーンじゃなくて、僕のエレクトロニックミュージックへの愛情と、僕が好きな様々なエレクトロニックミュージックに根ざしているんだと思う。

―では、1stがブリアルとジョニ・ミッチェルの間にある何かだとすれば、ニューアルバムは何と何の間だと言えますか?

ジェイムス:そうだなぁ……すぐに思いつかないな。例えば……うわっ、何も思い浮かばないよ(笑)。今、思いつく名前を出すと、エイフェックス・ツインだったり、あとは……ポーティスヘッドとかかな……。でも、他の影響もあるからなぁ……。UKエレクトロニックミュージックの要素は絶対にあると思う。

Translated by Yuriko Banno

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