テラス・マーティンが語る「LAらしさ」と知られざるルーツ、石若駿に会いたい理由

 

知られざるルーツ、同世代へのシンパシー

―『Curly』のインスピレーションになったアーティストを教えてもらえますか?

テラス:『Curly』は亡くなった父の魂にインスピレーションを得たアルバムだけど、音楽的にはあの独特のサウンドにたどり着けたのは、ジミー・スミスやラリー・ヤング、キャプテン・ジャック・マクダフ、ドン・パターソンをはじめとする、ジャズジャイアンツたちのおかげだから、彼らにも敬意を表したいと思う。

彼らは有名な面々だけど、この他にもあまり知られていないだけで、負けずとも劣らず凄腕オルガン奏者がたくさんいるんだ。例えばJean Mallard、オマハ出身のSugar Dumplingや Andre Lewis、ミネアポリス出身のBilly、ヒューストン出身のHolliman Bobby Lowellとかね。僕は彼らをオルガン・モンスターって呼んでるけど、彼らにもインスピレーションを得ることで、当時取り組んでいたことを一旦ストップして、オルガンを最前面に出した作品を作ってみたいと思ったんだ。




―『Curly』はオルガンがメインの作品ですけど、あなたはサックス奏者なので、ホーンが入った曲を作編曲するアーティストからのインスピレーションもあるのでは? 

テラス:僕はソニー・スティットとドン・パターソンの『The Boss Men』が好きなんだ。「Star Eyes」って曲が収録されているアルバム、知ってるよね? 9年生〜11年生(訳註:日本の中学3年生〜高校2年生)はこれを聴き倒していた。あの頃からいつかオルガントリオを作りたいと思っていたんだ。アルトサックス、ドラム、オルガンのね。オルガントリオって3人だけだから、それぞれのミュージシャンが担う役割が多い。3つのパートだけで最高のサウンドを生み出すために、それぞれに課された責任は重大なんだ。

それと、ラリー・ヤングの『Unity』も。ここにはエルヴィン・ジョーンズ、ウディ・ショウ、ジョー・ヘンダーソンも参加している。ブルーノートから出たアルバムだね。この2枚からすごくインスピレーションを受けたよ。あとオルガンのアルバムではないけど、ミーターズの「Cissy Strut」からも作曲するうえでインスピレーションを受けた。





―あなたはオルガンジャズにも詳しいんですね。

テラス:ちょっと待って、まだあった! ヒップホップからも多くの刺激を受けている。ケンドリック・ラマーはいつもインスピレーションを与えてくれる。 ドクター・ドレーもそう。このアルバムに取りかかってる時も、「ドレーだったらどういう風にシーケンスを組むだろう、この曲をどこでフェードアウトさせるだろう、ドラムは上げた方がいいかな」とか常に考えていた。昔のブルーノートの作品は大好きだけど、この作品に関してはオルガンのアルバムでありながら、ア・トライブ・コールド・クエストをかけたあとにも聴けるアルバムになっている。ジャズのクラブだけじゃなくて、ヒップホップやR&Bのクラブがかかる店でもプレイしてほしいんだ。そういう意味でも『Curly』にヒップホップが与えてくれた影響は大きいね。

―『Fine Tune』に話を戻すと、このアルバムのインスピレーションになった作品やアーティストは?

テラス:『Fine Tune』はアース・ウィンド・アンド・ファイアーのダブル・ライブアルバム『Gratitude』からインスピレーションを受けている。あのアルバムを聴くと感情の世界へ誘われる感覚になるんだ。愛や喜び、欲望、誠実さ、過ちとかね。例えば「Reasons」っていう曲、あれは一夜限りの関係(訳註:ワンナイトスタンド)についての歌なんだけど、あれをBGMにして結婚式を挙げる人もいるよね。『Fine Tune』ではジェットコースターみたいに波乱万丈な感覚を味わってもらいたいと思ったんだ。



―『Fine Tune』では同時代の楽曲をいくつかカバーしていますよね。まずはSZA。

テラス:SZAは僕が大好きなアーティストの1人だからね。今すごく乗ってるパワフルなアーティストだと思う。「Snooze」は僕にとって大切な曲だし、幸せな気持ちにさせてくれる。よくかかってるのを聴いていたら、インストバージョンを作ってみたいって思うようになったんだ。人気があるのは彼女のバージョンで、僕のはあくまでも追加的なバージョンにすぎないけどね(笑)。

―次はカマシ・ワシントン。

テラス:カマシは15歳の頃からの友達で、お互いできるだけたくさん一緒にレコーディングしようと思っている。僕は彼の作曲が好きだから、「Final Thought」をカバーしようと思った。この曲はカマシもよく自分のライブで演奏してるよね。僕はカマシ本人とラリー・ゴールディングス、ロバート・スパット・シーライト、ニア・フェルダー、パーカッションのAllakoi Peeteを迎えた僕のオルガン・グループでカバーしてみたいと思った。カマシとのレコーディングは阿吽の呼吸があるから、いつも楽しいんだよね。

―最後はレオン・ブリッジズ。

テラス:レオンは大切な友達だよ。「Sweeter」をレオンとリッキー・リードと一緒に書いた時、アメリカではジョージ・フロイドの事件をはじめいろんなことが起きていた。だから、僕らは曲を書く必要性を感じたんだ。あの曲はすごく気に入っている。“お互いにもっと思いやりを持つ(訳註:Sweeter)必要があるよ”っていうこの曲のメッセージをもっと広めたくて、もう一度レコーディングをしたんだ。



―カバーだけかいつまんで聞きましたが、『Fine Tune』の中で特にこの曲については語っておきたいというのはありますか?

テラス:「La Brea & Stocker」だね。この曲はアレックス・アイズレーをフィーチャーしていて、すごく美しい曲なんだ。少し前にウェイン・ショーターがこの世を去ったよね。音楽的には彼がこの曲を作るうえでのインスピレーションを与えてくれた。ウェインが僕のような後進のミュージシャンたちに用意してくれた使命に符合する作品を作って、そのミッションを継承していきたいと思ったんだ。それでアレックス・アイズレーとポール・コーニッシュに声をかけた。ウェインの魂にちなんで「La Brea & Stocker」というタイトルにしたというわけさ。La BreaとStockerはLAにあるストリートの名前で、その交わるところが日没と日の入りの両方が見れるポイントなんだ。まるで人生のサイクルを象徴しているように思った。


Translated by Aya Nagotani

 
 
 
 

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