全米で賛否両論の映画、Qアノン陰謀論の宣伝ではないと監督が反論

映画は2015年に製作がスタートし、2018年に完成。トランプ氏を支持する過激集団Qアノンがメインストリーム化したのはその後のことだ。Qアノンは、悪魔教を崇拝する闇の結社が組織ぐるみで子どもたちを誘拐し、性的虐待を働いて子どもたちの血を飲んでいる、という根拠のない主張で知られている。映画にはまったく登場しないが、主演のジム・カヴィーセルが映画宣伝の際にこのような説に言及した。Qアノンのコミュニティも映画を大絶賛し、自分たちのメッセージを発信する手段として利用している。バラード氏本人も最近のインタビューで、自分は臓器移植や「悪魔教の儀式」のために人身売買されている子どもたちを救ってきたのだと、Qアノンまがいの主張を展開した。モンテヴェルデ監督は、映画がこうした危険なプロパガンダと無関係だと否定している(一方人身売買の専門家は、性的人身売買の誤った認識が広がると、実際の被害者に害が及びかねないとローリングストーン誌に語った)。

『Sound of Freedom』に反応した陰謀論者が、勧誘のツールとして映画を都合のいいように利用していることについて、「本当に残念で、私も胸が痛い」とモンテヴェルデ監督は発言した。「陰謀論と関連付けられるようになると、たちまち作品の純粋な意図が損なわれてしまった」。映画のなかでは、Qアノンやその前身であるピザゲート(著名な民主党議員がワシントンDCのピザ料理店で児童買春組織を運営しているという陰謀論)について一切語られていない、とも監督は反論した。もちろん、だからと言ってQアノン信望者の映画に対する見方が変わるわけではない。彼らは、映画は自分たちの過激思想へ導くきっかけになると考えている。

カヴィーゼルが映画の宣伝でQアノン陰謀論を喧伝したことについては、「目の前で起きていることを知った時、とっさに(距離を置いて)身を引こうと思った」とモンテヴェルデ監督。だが同時に主演男優をかばい、制作初期のカヴィーゼルは「この問題にとても真剣だった」と振り返った。「この問題に光を当てたいという思いがあまりにも強かったので、彼は感極まっていた」と監督。「初対面の時、彼は涙を流した」。

他の批判についても、モンヴェルデ監督はお茶を濁した。人身売買の現実を歪め、バラード氏の半生を極端に誇張するような演出方法を取ったことについては、「これはドキュメンタリー映画じゃない」「自分はつねに演出を加えようとした」と述べた(だが映画の支持派は、「実話に基づく」という但し書きを額面通りに受け止めている)。政治的な反応については、興行収入からも『Sound of Freedom』がイデオロギーを超えて共感を呼んでいることが証明されている、と述べた。だが、実際に興行収入を支えているのは友達紹介プロモーションや――熱心なファンが配給会社Angel Studiosのwebサイトで前売り券を購入し、周りの人々に無料で配っている――教会などが会員向けに購入した団体席だ。こうしたチケットの一部はいまだ使われていない。

「海外でも公開されれば、さらに興行収入は伸びる。そうなれば文句も出ないだろう」と世界公開に期待感をのぞかせた。「海外上映の話をコロンビアに持ちかける予定だ。この先どうなるか楽しみだ」。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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