オリヴィア・ロドリゴが大いに語る、20歳の現在地と『GUTS』のすべて

 
『GUTS』の影響源を明かす

ニグロのプライベートスタジオに着くまで、私たちはそんなことを話していた。その間もロドリゴは、「駐車違反で切符を切られることがよくある」と正直に認めながら愛車を走らせた。一度、ニグロのご近所さんの車にぶつけてしまったことがあるそうだ(幸い、ご近所さんは怒らなかった)。「ちょっとこすっただけなんだけど、号泣しちゃった。車が何かにぶつかる瞬間って、びっくりするし本当に最悪の気分」とロドリゴは振り返った。

サボテンが立ち並ぶロサンゼルスの大小さまざまな通りを走るうちに、自分たちがどこにいるのか見分けがつかなくなってきた。「あれ? この道だっけ? ま、いっか。スリルドライブってことで」とロドリゴがひとりごちた。


PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI
DRESS: MARINE SERRE

ニグロのプライベートスタジオは、チャコールグレーに塗られた家の中にある。家の周りには生垣がめぐらされ、シダ植物の生える砂利道がオレンジ色のドアのほうに伸びている。ニグロ本人はパサデナに引っ越したが、いまでもこのスタジオでレコーディングを行っているのだ。『SOUR』と『GUTS』の一部を収録したのもここだ(『GUTS』のほかの楽曲は、ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで収録された)。ロドリゴが家の中を案内してくれた。散らかった子ども部屋のドアをうっかり開けては、急いで閉じる。別の部屋には、ドラムセットとヤマハのアップライトピアノが置いてあった。70年代物と思しき、濃いオレンジ色のベンチもある。ホワイトボードには、緑色のマーカーでロドリゴのレコーディングのスケジュールが書かれてある。シングルの「vampire」と「bad idea right?」の隣には、赤いハートマークが。

もうひとつの部屋がメインスタジオだ。赤いペルシャ絨毯とマクラメ編みのカーテンでしつらえられた空間は、とても居心地が良い。ニール・ヤングの名盤『After the Gold Rush』(1970年)の額装されたジャケットが中央の壁を飾る。そのすぐそばには、ニグロのバンド、アズ・トール・アズ・ライオンが2010年にトルバドール(訳注:ロサンゼルスにある老舗ライブハウス)でライブをしたときのポスターが。インディ・シンガーソングライターのゼラ・デイ(Zella Day)からキャロル・キングのような大御所まで、さまざまなアーティストのポラロイド写真が壁を彩っている。

リビングルームの隅、中庭に通じるガラスの引き戸と暖炉の間に、レコードプレイヤーが置いてあった。それを支えに、レコードが山のように重ねてある。レコードを物色するロドリゴの手が止まった。ニグロに贈られた『SOUR』のレコードだ。表紙には「ダンへ、ザマーミロ!」というメッセージが。さらにレコードをめくり、キャロライン・ポラチェックの『Desire, I Want to Turn Into You』(2023年)でまた手を止めた。このアルバムには、ニグロがプロデュースした楽曲が収録されているのだ。2021年にロサンゼルスのグリーク・シアターでポラチェックのライブを見たことに触れ、「最高のライブシンガーね」と称賛した。

ロドリゴは、ポラチェックの『Desire, I Want to Turn Into You』についていろんなことを考えたと言う。本作は、ポラチェックのブレイクのきっかけとなったソロデビューアルバム『Pang』(2019年)の3年後にリリースされた2ndアルバムである。ロドリゴにとっては、2作目でスランプに陥る、という状況を回避するためのお手本となった。「デビューアルバムを完全に再解釈したわけではないけど、新しくて新鮮みがある。私も、デビューアルバムを再解釈するつもりはなかった」と言った。



ロドリゴには、ほかにもお気に入りの2ndアルバムがある。コールドプレイの『A Rush Of Blood To The Head』(2002年)とケイティ・ペリーの『Teenage Dream』だ。「『Teenage Dream』の収録曲のうち、5曲がナンバー1に輝いたの」と言った。ペリーのドキュメンタリー映画『ケイティ・ペリーのパート・オブ・ミー』(2012年)が大好きだと言いながら、「『Teenage Dream』は、アイコニックで最高のアルバム」と言い添えた。

『GUTS』にも「teenage dream」という曲が収録されているが、ロドリゴはあくまで偶然だと主張する。「タイトル変更も考えたけど、仮に誰かがSpotifyで『Teenage Dream』って検索しても、私の曲が最初に出てくるわけないし」と語る。

偶然かどうかはさておき、メンターのペリーは気にしていないようだ。「時代とともに、違う年齢層の人たちにも共感してもらえるのは嬉しいことです」と、タイトルの一致についてペリーはコメントした。「オリヴィアは職人なんです。ドラマ『フリーバッグ』が人気を博したように、オリヴィアは心の中の声をさらけ出しました。それも、私たちが決して表に出さないようなことを」




『GUTS』のラストを飾った「teenage dream」は、ポップス界のアンセムとなったペリーのシングルとはまったくの別物だ。静かなピアノの調べがカタルシス的な嵐へと変わっていくこの曲を通してロドリゴは、ポップス界の若きスターではなくなった日のことを歌っている。だが、ペリーが「過去は振り返らない」と語ったように、ロドリゴ自身も過去に固執するつもりはない。

「自分がもうティーンエイジャーではないことへの恐怖、無邪気な少女や神童というイメージから離れていく恐怖を歌った」とロドリゴは解説した。「私は、ちょっと変わった環境で成長したの。子どもの頃は、『若いのに才能がある』って周りの大人たちに褒められた。でも、この曲では2ndアルバムをつくりながら、『世間は、17歳のシンガーソングライターではない自分を見て、それでもクールだと思ってくれるかな?』と思ったことと、それによるプレッシャーと戦う自分を表現した」

そう語るロドリゴは、ブーツを脱いでダークグリーンのベルベットのソファに座っている。白い靴下には「Parental Advisory(保護者への勧告)」のロゴが。私たちがいる部屋の隣はキッチンになっていて、カウンターの上にはワインボトルが3本置いてある。レコーディングの打ち上げのあとは、空のボトルが何本も転がっていたと言う。「とにかく飲んで、飲みまくった」とロドリゴは冗談半分に言った。



『GUTS』では、いままでとは違う形でパーティーが描かれている。「bad idea right?」では、“2か月も連絡してこなかったね/いまパーティーしてるんだけど、めちゃくちゃな状態”と歌ういっぽう、「making the bed」では“時々、いまいる場所が嫌になる/都合の良い友達とクラブで酔っ払いながら”と胸の裡を明かす。

ロドリゴのようなアーティストにとってはごく自然なテーマだ。それでも、こうした歌詞を入れることに戸惑ったと言う。「正直なところ、すごく怖かった。ファンの多くが若い女の子だってこともよくわかっているから。でも、これが私のリアルな感情なの。私が理想とする人たちはみんな、ありのままの自分を表現している。だから私も、自分にとって都合のいい部分だけを選んで歌詞にすることはできない。私が自分自身をさらけ出している、と思ってもらえるなら、結構うまくいってる証拠ね」


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TOP: GUCCI BY TOM FORD COURTESY OF LOVERS LANE LONDON. SKIRT: DSQUARED2 SHOES: WESTERN AFFAIR. JEWELRY: TIFFANY & CO.

ロドリゴが感銘を受けた音楽の中には、彼女が生まれる前のパンクやオルタナティブロックのアルバムも含まれる。こうした作品は、どれも過激なまでに誠実だ。14歳だった頃、ロドリゴはベッドの隣にレコードプレイヤーを置いていたそうだ。毎朝、母親がベイブズ・イン・トイランド(訳注:90年代に活躍したアメリカのガールズバンド)の2ndアルバム『Fontanelle』(1992年)をかけて起こしてくれた。キャット・ビーランドの叫び声を聴きながら、毎朝支度をしたのだ。「女性的なロックは、私にとって世界一クールなもの」とロドリゴは言った。

『GUTS』の制作中、ロドリゴはベイブズ・イン・トイランドの荒削りなパワーをどうにかして取り入れたいと思った。それが実現したのが「all-american bitch」だ。タイトルは、米作家ジョーン・ディディオンのエッセイ『ベツレヘムに向け、身を屈めて』に由来する。『GUTS』の1曲目を飾るこの曲は、『SOUR』を聴いてロドリゴを「失恋したティーンエイジャー」とみなしたすべての人に向けられている。“私は許し、忘れる/自分の年齢をわきまえているし、年相応のことをしてる”とロドリゴが歌う。




「誰もがレッテルを貼られた経験はあると思う」とロドリゴは解説する。「私自身、いつもそういう経験をしてきた。もっと若い頃は、怒ったり不満を漏らしたり、文句を言ったりしてはいけないと思っていた。恩知らずだと思われるのが怖かったから。でも、そうやって我慢したせいで、いろんな問題を起こしてしまった。当時は、心の中に怒りを抱えていた。ティーンエイジャーだから、っていうのもあったと思う。自分も混乱してるのに、周りがみんな敵に見えて不安なときは特にそう。頭がおかしくなってしまう夢も見た。現実の自分は、正直に怒りを表現してはいけないって思ってた」

「all-american bitch」には、90年代を代表するもうひとつの大物ロックバンドにインスパイアされた歌詞とラウドなコーラスが含まれている。「今年になってから、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンをよく聴いてる。いま、一番好きなバンド。家とスタジオを往復する車の中でずっと聴いているの。ロックの殿堂に選ばれたから、なんとしてでも式典に行きたいんだけど」と言いながら、「スケジュールの都合」で11月3日にブルックリンで行われる式典に出席できないとぼやいた。「悲しすぎて、毎晩泣き寝入り」



ロドリゴは、「リヴィーズ」と呼ばれる熱狂的なファンたちの間で、次回作のタイトルをめぐってある噂が流れていたことも知っている。一部のファンは、「Sweet」というタイトルを予想していたのだ。「私が大恋愛をしている最中だったら、スウィートなアルバムをつくったかもしれないけど。でも、その次はどうなるの?『ウマミ』とか?」とコメントした。

大恋愛中かどうかはさておき、2021年1月にリリースされた「drivers license」によってスターダムを駆け上がったロドリゴが、『SOUR』をつくった過去の自分をどう思っているかは気になるところだ。「当時の自分には共感できるし、当時のことを考えると悲しい気持ちになる。でもいまは、『先のことがわからないからメソメソしてるんだよね。でも大丈夫。未来は明るい』と思えるようになった」と言った。

果たしてロドリゴは、大ヒット曲「drivers license」を今後何十年も披露することに抵抗を感じていないのだろうか。「先日、そのことについて考えた」とロドリゴは口を開く。「スティーヴィー・ニックスが大きなスタジアムで『Landslide』を歌っているのを見たの。『drivers license』と比べるなんておこがましいけど、それを見て心の底から感動した。彼女があの年になって若い頃の胸の痛みを歌う姿は、ものすごくパワフルだった」

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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