戦火から9000km、NYで繰り広げられているしょーもない戦争

旅行時にスーツケースをぐるぐる巻きにする用のラップで簀巻きにされた電柱。もはやポスター読めなくなっているのだがそんなことはどうでもよく、両陣営とも意地になっているだけのような気がしている。その間にガザでは1万8000人が死んだ。(Photo by Gen Karaki)

中年ミュージシャンのNY通信、今回はめずらしく時事ネタが届きました。イスラエルによるガザ地区への軍事侵攻によって揺れているアメリカの政情。それをに呼応するようにストリートでは別次元のバトルが繰り広げられているようで……。

この原稿を書いている12月初旬、ニューヨークはハヌカーの後半にさしかかったところです。ユダヤ暦の9月25日、西暦だと今年は12月7日からの8日間を、火を灯したキャンドルを増やしながら祝うハヌカーですが、今年はどうにも不穏ムードが拭えません。理由はもちろんイスラエルとハマスとの大規模衝突、およびそれに続くガザ地区侵攻です。

そもそもハヌカーがなぜ火を灯して8日間を祝うのか。紀元前2世紀、イスラエルはセレウコス朝シリアの征服下にありました。シリア王はギリシア人です。ユダヤ教を禁止して、ユダヤ人にギリシア宗教を強要しました。ユダヤ教の中心地であるエルサレム神殿もゼウス信仰の神殿に作り替えてしまい、これにブチ切れたユダヤ人が大規模蜂起を起こすに至りました(マカベア戦争)。

ユダヤ人は奇襲攻撃によってエルサレム神殿の奪還に成功、これをふたたびユダヤ教の神殿とするのですが、儀式を照らすための清められたオリーブオイルが1日分しか残されていませんでした。ところが追加のオリーブオイルが届くまでの8日間、そのオイルランプは火が消えなかった、という言い伝えが残っています。燃料1日分なのに8日間燃え続けた。これって奇跡じゃん?

というのが火を灯しながら8日間を祝う由来で、つまりは奪還記念祭です。もうお気づきかと思うんですが、聖地奪還とか奇襲攻撃とか、いまの状況と食い合わせが悪すぎるんですよ。そんななかホワイトハウスでバイデンがハヌカーを祝うニュースが流れ、民主党支持者はスーンとした気持ちでそれを眺めています。

いまアメリカはたぶん、かつてない、と言っていいレベルで分断のさなかにあります。右と左とかじゃないですよ、そんなもんとうの昔に断絶してるんでいまさら分断なんて呼べない。リベラルが親イスラエルと親パレスチナに、コンサバもコンサバで親イと親パに、ユダヤ人も親イと親パに割れてるんです。ホワイトハウスのなかも、メディア各社内もたぶん割れてる。控えめに言ってぐちゃぐちゃです。

いち生活者としての私にこのカオスがどう見えてるかと言うと、超正統派のユダヤ人たちが反イスラエルデモをやっているから見に行こう、とか、ブルックリンブリッジの出口で親パレスチナデモを反パレスチナのユダヤ人たちが旗持って待ち伏せしてるらしいから見に行こう、とかそういうのもあったんですが、なにより身近だったのはポスター戦争です。

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