CRYAMYが語る、アルビニに直アポで実現した極限の創作活動、インディペンデントの矜持

自分を歪ませる

―アルバムを聴かせてもらって、一曲目の「THE WORLD」の冒頭のフィードバックノイズを聴いた時点で、「これは間違いないな」と思いました。カワノくんとしては出来上がったアルバムに対してどのような手応えを感じていますか?

カワノ:手応えというよりは、単純に喜びがすごかったですね。日本でやる僕らの作業っていうのは、レコーディングで音を録りました、でもこの素材としての音がどうしても耳で聴いた感じと違うから、ミックスで頑張っていじって聴覚上に近づけようという戦いだったんですけど、スティーヴのスタジオで録った音はもうまんまなんですよね。自分たちが演奏した音がまんま飛んでくる。僕の声に関しても、僕は声が人よりもちょっと大きいんですよ。だから、本当は一撃でバーッと歌いたいんですけど、リミッターに引っかかっちゃったりとかして、エンジニアさんが苦労しながら調整してるのを見てきたんですよね。でもスティーヴは「いいよ、そのままで」って感じで、ガーッて大きく歌えばどこまでも伸びるし、小さく歌ってもどこまでも沈んでいくしっていう、一番はその喜びが大きかったですね。



―そういう音が録れるのはいろんな要素が融合してのことだと思うんですけど、スタジオの環境自体はどんなところが特別でしたか?

カワノ:一番びっくりしたのが、壁に一切吸音材がなくて、だから音が反射しまくってるんですよ。全員一発録りで、同じ部屋で録ったんですけど、中で聴いてる側はぐちゃぐちゃなんですよね。一応ヘッドフォンはしてるんですけど、ファズを踏んだら何も聴こえないとか全然あるし。でも逆にそういう環境だからよかったのかなって。あとはスティーヴの技だと思うんですけど、ギターの音に関して、「もうちょっとヘヴィにしたい。音作り変えた方がいいかな?」っていう相談をしたら、「いや、マイクで何とかなるから」って、マイクをほんの数センチずらして、「これで変わるから弾いてみ」って言われて、バーンって弾いてみたら、確かに重心が低くなったんですよ。ボーカル録りですら3本マイクを立てて録音したりとか、そういうスティーヴのマイキングの技術も大きかったですね。


Photo by miura ento


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―かつてのスティーヴは『FCKE』で試したように100トラックを使ったりしてたけど、今回使ったのは24トラックだったそうですね。

カワノ:そうなんです。それこそ『Rid of Me』はエレクトリカル・オーディオができる前に録った作品なんですよね(※エレクトリカル・オーディオの設立は1997年)。スティーヴに「もっとマイク立てると思ってた」って言ったら、「もうここは俺のスタジオだからこれでいいんだ」って。

―自分の城ができたから、空間や機材のことも知りつくしていて、だから少ないマイクの本数でも想像通りの音が録れる。だからこそ、あとはそれをアナログテープでそのまま録ればいいと。アルビニが昔のサンレコで「俺にとってはコンピューターで録音することの方が非効率的だ」って言ってて、今でもそれを貫いてるわけですよね。

カワノ:そもそもコントロールルームにパソコンがなくて、フェーダーの上げ下げと、プリアンプをいじるのと、本当にそれぐらいでしたね。


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―今回のアルバムはボーカルそのものもすごく印象的で、シャウトと言うかスクリームの要素がすごく増えてるじゃないですか。演奏の生々しさに対してこれだけの熱量が必要だったような気もするし、単純にボーカリストとしてテクニカルな意味でもマインド的な意味でも成長があったことの証明でもある気がするんですけど、ご自身ではボーカルスタイルの変化をどう捉えていますか?

カワノ:もともとこのアルバムのデモはスティーヴとやることが決まる前から、去年からずっとちょこちょこ作り出してたんですけど、そのときから何となくスクリームを入れたいというか、ギャーっていう声を入れたいなっていうのを漠然と思ってて。何で入れようと思ったかというと……いわゆるバンドの爆音って、大部分の人が抱く印象は、ファズを踏んだときの一番でかい音、ギターアンプから放たれるでかい音を想像すると思うんですね。でも去年ぐらいにあるときふと思ったんですよ。「スイッチを踏んでるだけじゃん」って(笑)。

―数字的なパラメーターでは大きくなってるのかもしれないけど、果たしてそれが本当に「大きい」と言えるのか、「爆音」と言えるのか。

カワノ:そうなんですよ。それと前後して、レッチリのジョン(・フルシアンテ)のインタビューを読んだら、「アコギが一番音でかいんだよ」って言ってて、確かにと思って。そりゃあ生音だったらアコギのバキっていう音の方がでかいよなって、それで爆音の捉え方が変わったのもありますし、じゃあそこに対するカウンターで何を出せるんだろうってなったときに、自分を歪ませるっていうところに至ったんですよね。それと前後して、今回リファレンスになったのが、さっきも言った54-71とかGEZANとかZENI GEVAとか、いわゆるUSハードコア寄りのバンドで、ああいう人たちはガーっていう叫びじゃないですか。ああいう原始的なものが僕も欲しくなったっていうのがあります。

ーなるほど。

カワノ:あと一番でかいきっかけが、今回ツアーファイナルが日比谷野音で、僕自分で抽選に行ったんですけど、駅を降りたら観光庁舎に向かってデモをやってる方がいらっしゃるんですね。それを何の気なしに眺めているときに、別にその方の政治信条がどうだとか、訴えたいことがどうだっていうことではなくて、すごく心に残ったのが、「自分たちの生き方は自分たちで決めるんだ」ということをすごく大きい声で言ってたんですよ。自分の主張を大きい声で言うっていうことは、ボリュームの数値とかそういうもの関係なく、感覚的にでかいなって感じたのもすごく大きかったですね。


CRYAMY(Photo by miura ento)

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