2023年ベスト・メタル・アルバム トップ11

8位『American Gothic』ウェイフェラー(Wayfarer)


デンバー出身の4人組バンド、ウェイフェラーの5枚目となるアルバム。アトモスフェリックなブラック・メタルとゴシック・アメリカーナから、美味しいところだけを取って魅力的に融合して、忘れ去られた西部に捧げるユニークな哀歌に仕上がっている。銃を撃ちまくる西部劇ではないが、『American Gothic』は帝国の亡霊に取り憑かれている。バンドが緻密なメロディーを奏でてパーカッションを炸裂させる一方で、シェーン・マッカーシーは、盗んだ土地を踏み荒らしながら血と煙の軌跡を残した残忍な牛飼いや強欲な石油王、そして蒸気機関車について、威厳あるシャウトで語る。どんな悪魔のおとぎ話よりもずっと邪悪な、暴力的で破滅的なレガシーだ。かつてヨーロッパのブラック・メタル・バンドたちは、アイデンティティーやオリジナリティーが欠如しているという理由で、アメリカのブラック・メタルを軽視する傾向にあった。しかしウェイフェラーがそのような偏見を一蹴し、死にゆく平原に埋葬したのだ。(K.K.)

7位『Life Is but a Dream …』アヴェンジド・セヴンフォールド(Avenged Sevenfold)


アヴェンジド・セヴンフォールド(通称A7X)の、7年ぶりのスタジオ・アルバム。過去の最も野心的な作品ですら大人しくモノクロームに見えるほどに、ものすごく巨大な爆弾を炸裂させた。シニスター・ゲイツの秀逸なギター、M・シャドウズのダイナミックな声帯、ブルックス・ワッカーマンの激しいドラムのおかげで、メタルという形は残しつつ目まぐるしく展開しながらも、心に刺さるアルバムに仕上がっている。ジャズ・フュージョン、エレクトロ・ポップ、アンビエント・サウンドスケープを交えながら、次々とさまざまな音楽の世界を荒々しく疾走する。「Game Over」、「Mattel」、「We Love」といったストレートなメタル曲でも、曲中でリスナーに息を整えさせ、それから突然また激しいヘッドバンギングに突入する。(D.E.)

6位『Agriculture』アグリカルチャー(Agriculture)


「エクスタティック・ブラック・メタル」を自称するアグリカルチャーは、2022年にデビューした新しいバンドだが、メンバーはエクスペリメンタル・ミュージックの世界に深いルーツを持つ。バンド名を冠したデビュー・アルバムは、オープニング曲「The Glory of the Ocean」の軽快なペダルスティール・ギターから「Look, Pt. 2」の明るく騒々しいトレモロに至るまで、まったく常識にとらわれていない。アルバム『Agriculture』は、典型的なブラック・メタルのアルバムではない。或いは、典型的なポスト・ブラック・メタルでもない。何か新しいもので、奇妙にも聞こえるが、聴いていて楽しい。感情的なマニフェストだ。結局のところブラック・メタルは、過激な人のための過激な音楽なのだ。そしてアグリカルチャーは、過激に至福なバンドだといえる。(K.K.)


5位『Chaos Horrific』カンニバル・コープス(Cannibal Corpse)


アルバム『Chaos Horrific』はフロリダ出身のデスメタル・バンドの16枚目のアルバムで、エリック・ルータン(元モービッド・エンジェル)をリードギタリスト兼プロデューサーに迎えて2枚目の作品となる。ジョージ・“コープスグラインダー”・フィッシャーのグルーミーなシャウトとルータンの魔術師のようなギターテクが、「Blood Blind」、「Pitchfork Impalement」、「Pestilential Rictus」といった凶悪な楽曲に、どこか心地よい嫌悪感をもたらす。『Chaos Horrific』は、リスナーの感覚をノンストップで攻撃してくる。バンド(やジャンル)にとって新境地を切り開く作品ではないかもしれないが、デビューから30年以上経つ今なお、カンニバル・コープスが骨を揺さぶり内蔵をえぐり続けているのが嬉しい。(D.E.)

Translated by Smokva Tokyo

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