ペット・ショップ・ボーイズ「40周年記念ライブ映画」を徹底解説 名曲の数々でキャリアを祝福

 
3つのセクションでキャリアを祝福

そんな『DREAMWORLD~』は大きく3つのセクションに分けることができる。まずパート1は、シンプルに、クールに、ほぼブラック&ホワイトでまとめた世界の中に完結。音叉をモチーフにしたマスクをかぶり白いコートを羽織って現れたふたりは、街灯を象ったスポットライトに照らし出され、流れるようにパターンを映し出す帯状のスクリーンを背景に、オープニング曲の『Suburbia』以下7曲を披露してウォームアップしていく。例えば「Where the Streets」から「Rent」へ、「I Don‘t Know」から「So Hard」へ、メドレー風に切れ目なく曲をつないだりと、誰もが聞き慣れた曲の数々にヒネリを加えながら――。


(C) 2024 Pet Shop Boys Partnership Limited

このあと作業服を着たローディーによるステージ転換を経て、パート2へ。今度のセットは建設現場のようでもあり、衣装を変えて戻ってきたニール&クリスと一緒に、バッキング・シンガーを兼ねた3人のサポート・ミュージシャンも姿を見せる。過去のツアーにも同行したアフリカ・グリーンとシモン・テリエの両パーカッショニストに加えて、見覚えのあるキーボード奏者がいるなと思ったら、ハリー・スタイルズのバンドにいたクレア・ウチマだ(彼女は「Dreamland」ではイヤーズ&イヤーズ=オリー・アレキサンダーの、「What Have I Done to Deserve This?」ではダスティ・スプリングフィールドの代理も務める)。このセクションでは眩しいライトと色彩が加わり、熱量も増して、言わばレイヴ・バンドとしてのPSBを提示。オーディエンスを踊らせるパーティー・モードに、スイッチを切り替える。

そう、マッシュアップに仕立てた「Single-Bilingual」と「Se a Vida é(That‘s the Way Life Is)」のサンバ、「New York City Boys」のディスコ、「It‘s a Sin」のハイエナジーなどなどグルーヴ感に特徴のある曲が詰め込まれ、さながら人通りの少ない通りから、重いドアを開けてクラブの中に入ってきたかのよう。時折客席に向けられるカメラは、長年のファンと思しき世代が目立つオーディエンスが、夢中になって声を張り上げ、体を揺らしている様子を捉え、ニールも饒舌になって曲にまつわるエピソードを随所で披歴。クリスとふたりで初めて一緒に書き上げた曲だという、PSB流パワー・バラード「Jealousy」で一呼吸入れたあと、パート2の後半ではさらにテンションを上げ、メッセージを打ち出すことも忘れない。スターリング・ヴォイドのレイヴ・クラシック「It’s Alright」のカバーと、彼らがEDMに急接近した「Vocal」の2曲は、人々をつなぐ音楽の不滅のパワーを讃え、「Go West」と「It‘s a Sin」では抑圧に抗い、解放を訴える。


(C) 2024 Pet Shop Boys Partnership Limited

残るはパート3のアンコール。パート1のモードに立ち返り、再びふたりだけが街灯に照らされて、ステージに立つ。しかも、ニールはフォーマルなロングコートとネクタイ、クリスはBOY LONDONのキャップとレザー・ジャケットに身を包み、80年代の彼らのアイコニックなファッションで40年の時を巻き戻し、デビュー・シングル「West End Girls」(“From Lake Geneva to the Finland station”を“From Mariupol to Kyiv Station”と変えて、ウクライナに想いを馳せていた)と、もしかしたらPSBのベスト・シングルかもしれない「Being Boring」で幕を引く。エイズで亡くなった友人への追悼を込め、若い頃を回想して時間の経過を歌う「Being Boring」はツアーの趣旨を鮮やかに切り取っているとはいえ、輝かしいキャリアのレトロスペクティヴをこんなにも切ない曲で締め括るというのがなんともPSBらしい。

ちなみにこのコペンハーゲン公演に先立って彼らは、1991年の『Discography』以来のシングル・コンピレーションで、35年分・55曲の全シングルを網羅する『SMASH:The Singles 1985-2020』を発売。「DREAMWORLD~」ツアーのコンパニオン的なリリースとなったわけだが、トラックリストを一瞥すれば、25曲プレイしてもまだまだ名曲・代表曲がたくさん残っていることを思い知らされる。そして春にはツアーを再開する一方、これまで3作品でコラボしたスチュアート・プライスに代わって(ツアーのミュージック・プロデューサーもスチュアートだ)、ジェイムス・フォードをプロデューサーに起用した15枚目のアルバム発表が控え、となると間もなく56曲目のシングルも聞けるはず。夜な夜な過去を振り返って自分たちの足跡を辿りながらも、ニールとクリスは同時に、しっかり未来を見据えていたのだ。






『ペット・ショップ・ボーイズ・ドリームワールド: THE GREATEST HITS LIVE AT THE ROYAL ARENA COPENHAGEN』
2024年1月31日(水)、2月4日(日)2日限定 TOHOシネマズ 日本橋ほか公開
※東京・大阪は1月31日〜2月4日(木)まで続映
鑑賞料:2500円一律

監督:デヴィッド・バーナード
出演:ペット・ショップ・ボーイズ
本編尺:約115分
収録:2023年7月7日 ロイヤル・アリーナ(コペンハーゲン)
©2024 Pet Shop Boys Partnership Limited
公開作HP:https://www.culture-ville.jp/psb
海外オリジナルHP:https://psbdreamworldlivefilm.com

〈セットリスト〉
Suburbia / サバービア
Can You Forgive Her? / キャン・ユー・フォーギヴ・ハー?
Opportunities (Let's Make Lots of Money) / オポチュニティーズ
Where the Streets Have No Name (I Can't Take My Eyes Off You) / ホエア・ザ・ストリート・ハズ・ノー・ネーム/君の瞳に恋してる
Rent / レント
I Don't Know What You Want but I Can't Give It Any More / アイ・ドント・ノウ・ホワット・ユー・ウォント(バット・アイ・キャント・ギヴ・イット・エニイ・モア)
So Hard / ソー・ハード
Left to My Own Devices / レフト・トゥ・マイ・オウン・ディヴァイセズ
Single-Bilingual / Se a vida é (That's the Way Life Is) / シングル~セ・ア・ヴィダ・エ~幸せの合言葉
Domino Dancing / ドミノ・ダンシング
Monkey Business / モンキー・ビジネス
New York City Boy / ニューヨーク・シティ・ボーイ
Jealousy / ジェラシー
Love Comes Quickly / 恋はすばやく(ラヴ・カムズ・クイックリー)
Paninaro / パニナロ
Always on My Mind / オールウェイズ・オン・マイ・マインド
Dreamland / ドリームランド
Heart / ハート
What Have I Done To Deserve This / とどかぬ想い
It's Alright / イッツ・オーライト
Vocal / ヴォーカル
Go West / ゴー・ウエスト
It's a Sin / 哀しみの天使
West End Girls / ウエスト・エンド・ガールズ
Being Boring / ビーイング・ボアリング

〈公開劇場〉
北海道)TOHOシネマズ すすきの
宮城)TOHOシネマズ 仙台
東京)
TOHOシネマズ 日比谷
TOHOシネマズ 新宿
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
TOHOシネマズ 日本橋(※1/31(水)〜2/8(木)まで特別上映)
TOHOシネマズ 池袋
TOHOシネマズ 立川立飛
吉祥寺オデヲン
栃木)TOHOシネマズ 宇都宮
埼玉)TOHOシネマズ ららぽーと富士見
千葉)
TOHOシネマズ 流山おおたかの森
TOHOシネマズ 八千代緑が丘
神奈川)
TOHOシネマズ ららぽーと横浜
TOHOシネマズ 川崎
静岡)TOHOシネマズ ららぽーと磐田
愛知)TOHOシネマズ 赤池
大阪)
TOHOシネマズ 梅田(※1/31(水)〜2/8(木)まで特別上映)
TOHOシネマズ なんば
TOHOシネマズ ららぽーと門真
兵庫)TOHOシネマズ 西宮OS
京都)TOHOシネマズ 二条
岡山)TOHOシネマズ 岡南
福岡)TOHOシネマズ ららぽーと福岡

 
 
 
 

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