ジュリアン・ラージのジャズギタリスト講座 音楽家が歴史を学ぶべき理由とは?

 
エディ・ラング、ジャンゴ・ラインハルト、フレディ・グリーン

―例えば、1920年代後半のルイ・アームストロングのバンドにはバンジョー奏者がいましたよね。バンジョーが入っている当時のジャズにはどんな面白さを感じますか?

ジュリアン:1920〜1930年代あたり、ルイ・アームストロングの時代のジャズは僕のお気に入りだね。例えば、(コルネット奏者)ビックス・バイダーベックが好きなんだ。彼は(ギタリストの)エディ・ラングと一緒にバンドをやっていたからね。それからニック・ルーカス(ソリストとしてレコーディングを行った最初のジャズギタリスト)、ロイ・スメック(ギター、バンジョー、スライドギター、ウクレレなどを弾きこなした天才)も欠かせないな。彼らは僕にとってのジミ・ヘンドリックス、ロックスターなんだ。特に、バンジョーからギターに変わりつつあった時代においての彼らはね。

……ごめん、話が逸れちゃった(笑)。バンジョーという楽器を語るうえでは、ヴォードヴィルにおいて大きな役割を担っていたことも重要だ。そこでのバンジョーは、卓越した演奏でありつつも、どこか親しみを感じられる……輝き。そう、観衆を惹きつける輝きを放っていたんだ。僕は、バンジョーの伝統に由来した、卓越でありつつ寛大な要素をギターに取り入れたいと思っている。


ルイ・アームストロング楽団にバンジョー奏者が参加


ニック・ルーカス(1897 – 1982)


ロイ・スメック(1900 – 1994)

―1920〜30年代に活躍したエディ・ラングはジャズギターの開祖として知られていますよね。彼はルイ・アームストロングのバンドにいたバンジョー奏者とは違うことをやっていた。

ジュリアン:そうだね。エディ・ラングはギターにとってのエキサイティングな要素を持ち込んだ。パット・メセニーのように彼はスターだった。これまで(楽団のなかで)バックにいた彼らのようなギタリストが前面に出てくるようになったんだ。

―あなたは本当によくエディ・ラングの話をしていますよね。彼のどういったところが好きですか?

ジュリアン:ちょうど最近、彼の音楽を聴いていたんだ。彼の音楽はすごくエレガントで、音楽のなかにユーモアがある。気まぐれで……威圧的じゃないんだ。そのサウンドが大好きだし、同時に、彼は素晴らしい伴奏者でもある。ビックス・バイダーベックやルース・エッティングと演奏する時も、何らかの形で音楽に意味のある貢献をしていた。ギターの役割に留まることなく、意味のある貢献をすること。これは僕の教訓になっている。

―ユーモアや気まぐれさ、ですか。

ジュリアン:エディ・ラングは、ギターのすべての音域を自由自在に使うアーティストだったからね。高音域から一気に下降することで、スパークするような、目が覚めるような耳触りを生み出していた。ジャンゴ・ラインハルトも同じで、一気に速くなってから急にスローダウンする。それは観客を惹きつける技でもあるし、ユーモアだと思う。ただ「ダダダダダダー」って単調な演奏をするアーティストとの大きな違いだよ。


エディ・ラング(1902 – 1933)

―あの時代にエディ・ラングやジャンゴ・ラインハルトのようなユーモアを持った人たちが何人も台頭したのはどうしてだと思います?

ジュリアン:僕が知る限り、1920〜30年代のアメリカとヨーロッパは、自由を謳歌するルネサンスの時代を迎えていた。それから戦争の時代を経て、人々は「癒し」を求めた。それほど多くの傷を負ったんだ。50年代には保守化の傾向が強まり、60年代にはその反動が起こる。80年代になり、世間は閉鎖的になった。今の時代は、とても保守的だと思う。特に僕の生まれた地域は、その傾向がより強まっていると感じる。これは、いつも自分に言い聞かせてることだけど、僕らは芸術において自由が必要だ。そのために戦わなきゃいけない。

―ちなみに、ジャンゴ・ラインハルトはお好きですか?

ジュリアン:ああ、大好きだよ! 彼みたいには弾けないけどね。

―あなたがジャンゴのマヌーシュ・ジャズ的なスタイルで弾いている印象はないですね。

ジュリアン:トライはしてみたけど、できなかった(笑)。彼を説明するのは難しい。ただのギタリストじゃないんだ。素晴らしい作曲家であり、バンドリーダーであり、ストーリーテラーでもあった。そんな多才な彼は、たまたまギターを手にしたんだ。彼の音楽を真似することはできない。そんな彼から多くのインスピレーションを受けてきたよ。


ジャンゴ・ラインハルト(1910 – 1953)

―あの時代、ジャンゴだけでなく、エディ・ラングもヴァイオリンと一緒に演奏をしていましたよね。それは彼らの音楽の特徴だと思うのですが、ギターとヴァイオリンの組み合わせが生み出すものは何だと思います?

ジュリアン:ギターとヴァイオリンは干渉しあう関係性にある。ヴァイオリンとの組み合わせにおいて、ギターサウンドってすごく低く聴こえるけど、それ以外の楽器とでは、明らかに高く聴こえるよね。それほどギターサウンドが強く響く組み合わせって珍しいんだ。それに、ギターとヴァイオリンはどちらも速くて軽い。ジャズバンドのサウンドは、サックスが入っていることで速くなっている場合が多いから、ギターとヴァイオリンは、そうだな……相性が悪いとは言いたくないけど、ジャズバンドとなると、ポジション争いをすることになる。ただ、一緒に演奏するには問題ないんだけどね、多くのハーモニーもあるし。それが僕の意見かな。それからボリューム。ヴァイオリンはボリュームを上げることもできるけど、ボリュームがギターと似ているんだ。だから、その組み合わせならアンプもいらないよね。


エディ・ラングとヴァイオリン奏者の共演

―「ギターはリズム楽器として使われてきた時代が長かった」という話をしていましたが、例えばビックバンドで演奏するギタリストには、カウント・ベイシー楽団のリズム・セクションを支えたフレディ・グリーンのような人もいました。そういったギタリストを研究されたことはありますか?

ジュリアン:リズム楽器の奏者として、フレディ・グリーンはとても興味深いアーティストだ。彼はベースとドラムを結ぶ存在、その2つの真ん中に位置していた。それに音のチョイスも独特で、よく1〜2音しかないコードを弾いていた。それって、オーケストラのチェロによく使われるチョイスなんだ。ソプラノではなくテノール。 つまり、ルートでもメロディでもなく、もっと別のもの。それは、カウント・ベイシーの音楽に欠かせないものだった。誰も奏でたことのない、別次元のメロディ。フレディの音楽はメロディックであり、リズミックだった。

―あんなに目立たないのに、みんなが偉大だと知っている。他にはいないタイプですよね。

ジュリアン:そのとおり。


カウント・ベイシー楽団で演奏するフレディ・グリーン(1911 – 1987)

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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