ジャック・アントノフが語る「一皮剥けた」ブリーチャーズの今、テイラーやThe 1975との絆

「人間らしさ」と「ブリーチャーズらしさ」

―曲作りの変化という点で言うと、「Self Respect」や「Jesus Is Dead」のような、世の中の事象に言及した社会観察的な歌詞が新鮮に感じました。また、「Modern Girl」にはそれをひっくり返したような、つまり社会から観察された自分=ジャック・アントノフのパブリックイメージに皮肉っぽく言及したようなフレーズも挿入されていますね。

アントノフ:僕は社会的発言に命をかけているタイプの人間ではないけど、これまで僕が大事だと思う話をしたり、自分の夢や希望を書いたりしていた手段(SNSのこと)は、自分がカルチャーの動向、ひいては人々が僕についてどんなことを言っているのかを目にする手段と同じであることに気づかされたんだ。自分が何て言われているか、気にしているわけじゃない。何を言われようと別に構わないんだけど、僕が感じたのは、いつの間にかその二つが混在してしまったな、ということ。携帯に歌詞を書き留めていたり、何かのミックスを確認のため聴いていた流れで、たまたまTwitterを開いてみたら、くだらないものを目にしちゃうってことがよくあるなって(笑)。

―わかります(笑)。

アントノフ:個人の社会的発言、カルチャー、人とのコミュニケーションの取り方、それら全てが、携帯のおかげで僕たちの日常生活の中で密接に絡まってるんだという気付き――それについての歌を書くつもりはなかったけど、僕自身の経験をありのまま書こうとは思った。つまり、自分の中で境界線が曖昧になってきているっていうこと。沸々と湧く激しい感情だったり、私的な思いだったりがある一方で、9秒後にはネット上でどうでもいいくだらない何かを目にしてしまうっていう。その全部が同じ場所で起きているんだ。だから、僕の中でいかに早く脳が切り替えを強いられているかを聴き手に伝えたかったんだ。それが一番色濃く出ているのが、君が取り上げた「Jesus is Dead」と「Self Respect」だね。歌詞の1行の中で、僕にとって一番私的な思いとポップカルチャーで今起きていることを綴っている。僕の頭の中では、それくらいのペースで情報や感情の処理が行なわれているっていうことだよ。

―「Jesus is Dead」ではいろんなことが歌われていますが、ゼロ年代初頭に盛り上がったニューヨークのインディシーンがすっかり変わってしまったことを嘆いているくだりが印象的でした。

アントノフ:インディは今も変わらず人気があると僕は思っているけど、今の新しいNYシーンは、これまでと違って、音楽よりもヴィジュアル重視になってしまった。そのことに苦言を呈した感じだね。

―「Modern Girl」は、ブリーチャーズというバンドをやることの喜びやライヴのエナジーを余すところなくキャプチャーしたような最高のロックンロールソングです。いま改めて、ブリーチャーズというバンドをセレブレートするような曲を作ろうと思った理由を教えてください。

アントノフ:どこからともなく出てきた曲だったんだ。きっかけは、僕が気に入っていた断片がいくつかあったのと、僕的に、ブリーチャーズのテーマ曲があったらいいのに、と思いついたこと(笑)。だから、曲の中でバンドについてだったり、ポップカルチャーにおけるバンドの立ち位置を自虐的に茶化したりしている一方で、バンドの演奏はえげつ無いくらい勢いがあるっていう。そういう、ちょっと変わった、このバンドの今の立ち位置を象徴するテーマ曲になっているんだ。



―この「Modern Girl」を聴いても、やはりブルース・スプリングスティーンの影響は本当に大きいんだなと感じます。あなたにとってスプリングスティーンとはどのような意味を持つ存在なのでしょうか?

アントノフ:今ではもっとも親しい友人の一人だよ。自分が音楽をやる上で自信と勇気をくれる素晴らしい人で、僕の人生において大事な存在だね。

―スプリングスティーンは小さい頃から聴いていたんですか?

アントノフ:ニュージャージー出身だから彼のことはもちろん知っていたけど、彼の音楽にどっぷり浸かって聴くようになったのは20代初めの頃からだね。

―特に惹かれたポイントは?

アントノフ:挙げたらキリがないんだけど、どの作品にも共通して言えるのは、「人間であることがどういうことなのかが伝わってくる」っていうところ。つまり、全然違う感情から感情へと常に揺れ動いているっていうこと。生まれ育った街から逃げ出して人生を棒に振るっていう話をしてたと思ったら、次の瞬間、誰かにプロポーズをしていて。かと思ったら、鬱になり過ぎて家から出られない。で、次の瞬間にはパーティーにいたりする。誰もが頭の中では、いろんな感情の間を絶え間なく行き来しているよね。曲というのは1つの感情だったり、モードを表しているものだけど、ブルースの音楽の魅力というのは、生きていて経験するあらゆる体験だったり、生きている証というのをどの曲からも感じられるところなんだと思う。


Photo by Alex Lockett

―このアルバムで特徴的なのは、ほとんどの曲でサキソフォンが使われていることです。どのような意図で今回サックスを多用したのでしょうか?

アントノフ:サックスという楽器が大好きだっていうのと、最近使っている人があまりいないと感じていたから。何をやるにしても、人と違うことがしたいと僕は思っていて。誰もがその人にしかない個性をもっているんだから、音楽もそうであってほしいと僕は思っているんだ。あまり耳にしないサウンドはどんなものでも大好きだよ。だから、「Modern Girl」を最初のトラックにしようと思ったんだ。アルバムで最初に耳にするのが、激しいサックスの音色で、それは現代の音楽ではあまり耳にしない。そうやって、あまり頻繁に使われていないサウンドを取り入れるのが好きなんだ。

―本作におけるサックスの使い方で意識したことは?

アントノフ:シンセでメロディーを弾く、あるいはギターがフレーズを弾くような箇所に、あえてサックスをもってくるという発想でやっているんだ。メロディーを奏でられて、独特のサウンドを出す楽器の一つだから、その特徴のある音色に惹きつけられながらメロディーを味わってもらいたいね。それと、幅広い表現ができる楽器でもあると思っている。耳をつん裂く大きな音を出すこともできるし、優しく美しい音色を奏でることもできる。管楽器ならではの風を感じる音も出せるし、歪んだギターのような音色を出すこともできるんだよ。



―では、どのような観点からでも構いませんが、あなたが考える本作のキートラックは何でしょうか?

アントノフ:「We’re Gonna Know Each Other Forever」だね。(サウンドやリリックなど)全てにおいてそうだと言える。大人になって、この世界で自分の味方になってくれる人たちと出会うことの奇跡について歌っているんだ。僕の音楽を聴いてくれるオーディエンスについての曲だね。彼らとの絆は永遠に続くものだと思っているよ。


Translated by Yuriko Banno

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