ジャック・アントノフが語る「一皮剥けた」ブリーチャーズの今、テイラーやThe 1975との絆

テイラー、The 1975、ラナとの絆

―本作にはあなたと関わりが深いアーティストが多数参加していて、ジャック・アントノフの音楽的ファミリーが集結したような印象です。最近では珍しく、トラックリストにフィーチャリングアーティストとしてゲストの名前が載っていないことにもこだわりを感じました。ストリーミングの再生回数を稼ぐためにゲストを呼んだというよりも、純粋に友人たちと一緒に楽しくアルバムを作ったということを強調する意図なのでしょうか?

アントノフ:前面に打ち出す形での参加であれば、当然フィーチャリングアーティストと表記するし、これまでもそういう形の客演をしてもらったことはあるけど、今回のアルバムに関しては、友達がバッキングコーラスや、ちょっとしたパートを弾いてもらっている程度だから、再生回数を稼ぐためだけに名前を出すようなことはしたくなかったんだ。アルバムという貴いものを作る中で、ビジネスを優先させるようなことはしたくない。聴いた人たちがライナーノーツを読んだ時に、知ってる名前を見つける喜びのほうが大事なんだよ。

―本作はDirty Hit移籍後、初のアルバムです。Dirty Hitはアジアを含む様々な地域の新しいインディポップをフックアップする現代的で面白いレーベルですが、あなたのDirty Hitに対する印象を教えてください。

アントノフ:彼らがやっていることや、出している音楽は大好きだよ。大企業化したメジャーレーベルがやらないことをやっているところが好きだね。

―Dirty Hitと契約に至ったのは、The 1975のアルバムをプロデュースしたことも大きかったと思います。あなたがThe 1975のようなギターバンドをアルバム一枚丸ごとプロデュースするのは意外と珍しいことですが、彼らとの仕事は他と何か違いはありましたか?

アントノフ:正直、みんなそれぞれ違うんだけど、アルバムを作る上で目指すもの――つまり、可能な限り最高の作品を作るという目標は、どんな場合においても変わらないよ。みんな同じだね。それを達成するための手段や使う楽器は作品によって全く異なるけど、突き詰めれば、数人の人間が集まって、頭の中で鳴っているものを具現化する、ということだから。彼らとやって一番印象的だったのは、大きな円形のスタジオに全員がいて、楽器を全部セッティングした状態で、バンド全員で演奏しながらレコーディングを行ったことだね。僕はその演奏を録音しておいて、その中から特別と思える瞬間をとっておいたんだ。凄く充実したやり方だったよ。


ジャック・アントノフのプロデュースワークをまとめたプレイリスト

―あなたは『1989』のときからテイラー・スウィフトのアルバム制作に携わってきました。彼女のクリエイションを傍でずっとサポートしているあなたから見て、彼女が常にトップに立ち続けている理由はどこにあると思いますか?

アントノフ:卓越したソングライティングだね。

―もう少し具体的に言うと?

アントノフ:いや、全てだよ。音楽も歌詞も。彼女の、自分の体験をあれほどまで深く、そして完璧な形で、不必要な要素を取り除いて曲やアルバムにする能力は、ただただ凄いんだ。

―様々なメディアの年間ベストソングで1位を取ったラナ・デル・レイの「A&W」は、昨年を代表する曲のひとつと言っていいと思います。かなり実験的な構成を持った曲でもありますが、この曲はどのように生まれたのでしょうか? また、曲が出来たときに、何か特別なものを作れたという手ごたえはありましたか?

アントノフ:間違いなくあったね。とにかく大好きな曲なんだ。自分が思い描いていた形になったと思える瞬間というのは、自分の中で「この曲がどう受け止められようと関係ない。この世に存在してくれるだけで十分だ」って思える。「A&W」の曲の構成が決まった時、かなり早くにできたんだけど、その時は純粋に「この曲ができて神に感謝しかない。自分達がその時感じた何かがこの曲を導いてくれて本当によかった。この曲が好きでたまらない」と思った。それに今は、これまでと比較にならないくらい幅広い曲が人気を集めるようになったよね。

―つまり今は「A&W」のような実験的な曲でも受け入れられる土壌があると。幅広い音楽が人気を集めているということで言うと、昨今は世界各地の様々なポップミュージックが人気を博すようになったのも大きな変化です。そのような動きにあなたがインスパイアされることはありますか?

アントノフ:もちろん。初めて聴く新しいものには常に刺激をもらっている。これだけ多種多様なものが聴ける時代に生きているのは本当にワクワクさせられるよ。ただ、インスパイアされるのは、どの地域の音楽かよりも、曲に込められたフィーリングだけどね。



―では、今あなたが特に注目しているアーティストや音楽は?

アントノフ:最近だとカントリーミュージックが気に入っている。レイニー・ウィルソンが好きなんだ。今、僕が真実だと感じるサウンドだね。



―昨年はアメリカのメインストリームにおけるラップの人気にやや陰りが出てきたとも言われています。また、オリヴィア・ロドリゴのようにロックサウンドを打ち出す新世代も増えてきました。第一線を走るプロデューサーとして、こうしたメインストリームの光景の変化は意識していますか?

アントノフ:ジャンルは常に移行し変化を繰り返していて、もはや意味を持たないんだ。大事なのは、人の心に訴えることができるかどうかであって、その装い、つまりジャンルというのは、装いに過ぎない。だから、あるジャンルだけがどうこう、ってことはないと思う。どのジャンルも常に存在して、時には新しいものが生まれたり、その時々で人気のあるものが入れ替わることもある。どんなものでも波のように押し引きがあるからね。でも僕としては、あまり気にしていない。僕にとって大事なのは、自分が何をその時々で感じているかであって、どんなジャンルかではないんだ。

―もう時間が無いので、最後の質問です。ブリーチャーズのアルバムはあなたとパトリック・バーガーでプロデュースしていますが、もし歴史上の偉大なプロデューサーが誰でも引き受けてくれるとしたら、誰にブリーチャーズのプロデュースを頼みたいですか?

アントノフ:(即答で)ジェフ・リン。

―おお。ジェフ・リンが手がけた作品で一番好きなものは?

アントノフ:一枚だけ選ぶなんて不可能だよ!


2022年のライブ映像




ブリーチャーズ
『Bleachers』
発売中
配信・購入リンク:https://lnkfi.re/240ifSNJ

SUMMER SONIC 2024
2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
⼤阪会場:万博記念公園
公式サイト:https://www.summersonic.com/

Translated by Yuriko Banno

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