VivaOla、藤田織也、つやちゃんが語る「オルタナティブR&B」の変遷

ヒップホップ/ラップとのクロスオーバー、女性アーティストの活躍

—SZAもそうですが、意識的にしろ無意識的にしろ、ヒップホップ/ラップとのクロスオーバーが進みました。

藤:R&Bでは日の目を見なかった人たちが、どんどんヒップホップに寄っていったというのもありますよね。ボリーもカニエの『DONDA』でフックアップされてヒップホップに向かっていったし、逆にラッパーは歌うようになりR&B化していった。あと、90’sがサンプリングソースだったのがどんどん00’sになっていった。ここ数年では原曲でのボーカルのピッチチェンジも当たり前になったし。

V:ドレイクみたいにポップスに行く人がいたからこそ、カナダのR&Bシーンも重要で。ダニエル・シーザーの『Freudian』(2017年)は、UKロックみたいな暗さがあった。



藤:マジッド・ジョーダンやdvsnとかのOVO周りとは、また違う人たちだよね。

V:そう。確実にシーンとしてあったし、やっぱりアトランタのトラップサウンドからの影響が強かったと思う。

藤:『T R A P S O U L』を同じ系譜で今も引き継いでるのはライアン・トレイ、セイフ、リアレストケーなど。その中で同じToxicなエスセティックを持ちながらも全く別のR&Bサウンドをメインストリームに提示したブレント・ファイヤズの成功は近年で大きかったです。でも、総じて男性シンガーが弱くなりH.E.RとかSZAとか女性シンガーがメジャーシーンにおいて強くなったよね。

V:メロウになったのかな。

—今回『オルタナティブR&Bディスクガイド』を作っていて、それは如実に感じました。女性アーティストがどんどん増えてきた。それはR&Bに限らないですが。

藤:ティナーシェなどはオルタナティブR&Bだって初期は言われていたけど、ヒップホップのプロデューサーと組んだり、っていう感じだから、今振り返ればちょっと違う系譜なのかな。

V:エラ・メイとかね。

藤:最近はマニ・ロングとココ・ジョーンズをアワードでよく目にする。ココジョーンズはシーンの注目株でオルタナティブというより、R&Bの申し子と言える程ピュアな作品をリリースしているが、ここでもトラップベースのビートは多く使われる。

V:トラップソウルというジャンルが2016年当時は男性的だったのに対して、女性アーティストの場合、サマー・ウォーカーとSZAが一つの完成形を打ち立てたと思う。二人がコラボした「No Love」とかまさにそう。



藤 : 女性アーティストの中でSZAの『Ctrl』(2017年)はやはり大きかった。そこに近いスタイルを持ちつつもH.E.R.は幼い頃からタレントでサラブレッド。



V:だから、実はH.E.R.とかの方がミュージシャンの属性的にはフランク・オーシャンに近いと思う。フランク・オーシャンはソングライターだったからこそ絶対にミュージシャンなんだけど、でもプレイヤー的なものに憧れがあったのか、そうやって自分を見せていった。

—『T R A P S O U L』のフォロワーも増えすぎた結果、ポスト・トラップソウルのような動きも最近はありますね。

V:難しかった例は、エリック・ベリンジャーとヴィド。あのあたりの人が2019年くらいにトラップソウルをやった時に、一つのジャンルの死を感じたというか……。もうよくないか?みたいな。フォーマットが同じものになってしまって、飽和した。逆に、巧かった例としてはケシの『GABRIEL』(2022年)。あの作品は、トラップソウルを咀嚼し直した。



藤:彼はDEANTRBLのフォロワーでもあるし、アジア人として韓国R&Bの流れも踏まえた気がする。ただ、ギターで曲を書くというシンガーソングライター方面ではあるんだけど、根底としてトラップソウル的なサウンドが好きな人だというのが伝わってくる。

V:そもそもダニエル・シーザーの『NEVER ENOUGH』(2023年)もトラップソウルの再解釈として巧かった。



—オルタナティブR&Bと呼べそうな範疇として、まだ名前が出ていない人についても伺いたいです。アンダーソン・パークはいかがでしょうか。

V:自分はネオソウルとオルタナティブR&Bが混在されるのはけっこう嫌で、アンダーソン・パークは違う系譜な気がする。温かくて、ソウルフルで、クランチー。

—あと、ケレラとか。UKベースミュージックの流れを汲んでいるのでまた全然違う文脈ですが。

V:ケレラは、(Kota)Matsunagaがいたらそっちの話になりますね。二人は完全にUSのR&Bに偏ってるから(笑)。

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