4月2日にメジャーデビューから10周年を迎えたゲスの極み乙女が、通算6作目となるニューアルバム『ディスコの卵』を完成させた。前作『ストリーミング、CD、レコード』からは4年ぶり、その間に初のベストアルバム『丸』を発表し、結成10周年記念公演での改名を経て完成した新作は、「踊る」というバンドの原点にもう一度立ち返ったような印象を受ける。もちろん、2020年リリースの「YDY」以降の楽曲が収録された全14曲はこれまで以上に幅広く、新たなチャレンジも詰まっていて、特にアルバムのオープニングを飾る名曲「Funky Night」の風通しのよさが現在のバンドの雰囲気を明確に伝えている。川谷絵音と休日課長が複数のバンドで活動する一方、ほな・いこかは女優さとうほなみとしてテレビや映画に引っ張りだことなり、ちゃんMARIもFUKUSHIGE MARI名義で制作された映画『月の満ち欠け』の劇伴で日本アカデミー賞の優秀音楽賞を受賞と、それぞれがそれぞれの領域でも活躍し、さらなるアベンジャーズ化の進む4人が集まったときに生まれるのがこの軽やかな空気だというのは、とてもスペシャルなことだ。
【写真ギャラリー】ゲスの極み乙女 撮り下ろし(全23点)川谷絵音(Photo by Kentaro Kambe)休日課長(Photo by Kentaro Kambe)ー前作『ストリーミング、CD、レコード』がコンセプチュアルな作品だったのに対して、今回はストレートに「踊る」という部分にフォーカスされている印象で。「原点回帰」という言葉を使っちゃうのはちょっとシンプルすぎるなと思いつつ、とはいえベストアルバムが出て、丸が取れてから最初のアルバムだし、原点回帰的な側面は少なからずあるかなという印象でしたが、いかがでしょうか?川谷:ベストアルバムがあったので、昔の曲を聴く機会も多かったし、去年のライブハウスツアーのときも新しいアルバムは出してなかったから、昔の曲をやることが多かったので、昔の感じも取り入れつつ、でも今っぽいこともやろうみたいな、一番健康的な作り方ができたんじゃないかなって。奇をてらってめちゃくちゃ新しいことをやろうって感じでもないけど、でもちゃんと新しいものを作れたと思います。
課長:これまでできてなかったことも随所に入れましたし、他のメンバーの演奏に感化されてやった部分もあるし、個々に成長してるのもすごく感じて、めちゃめちゃ面白いアルバムになったなって。より自然に体が揺れる感じの踊れるアルバムっていう印象もあるので、とてもいい形でまとまったんじゃないかと思います。
ちゃんMARI:今回は作ってる期間が長かったんですよね。一曲一曲は短期集中で、ガッと集中して録ってはいるんですけど、最初に出した「YDY」からは結構時間が経っているので、その時々の気持ちが詰まってる。あとは自分にできることが研ぎ澄まされていってる感じというか、「このときにこう思った」っていう、その瞬間を閉じ込めたいと思って、鍵盤を弾いたり、コーラスを歌ったりしていたような気がします。
いこか:ちゃんMARIも言った通り、今回はキュッと録って、間が空いて、またキュッと録って、間が空いて、みたいな録り方をしてたので、「この曲たちが集まったらどうなるんだろう?」っていうのは、自分の中ではあんまり想像ができなかった部分があって。でも出来上がったアルバムを順番に聴いていくと、すごく絶妙なバランスになっていて、全体的に今回は削ぎ落とされて、すごくソリッドなイメージになったなと思います。
ちゃんMARI(Photo by Kentaro Kambe)ほな・いこか(Photo by Kentaro Kambe)―これまでは結構早めの段階でアルバムタイトルを決めて、そのイメージに沿ってアルバムを作ることが多かったと思うんですけど、今回はどうでしたか?川谷:タイトルを決めたのは去年の7月です。「ハードモード」とか「歌舞伎乙女」はできてたけど、まだ最初の3曲はなかったし、「晩春」も「作業用」も「DJ卵」もない状態のときに付けました。その頃ちょうどビヨンセのアルバムを聴いてて、海外でディスコやハウスを取り入れてる人が多いなって感じがあったじゃないですか? それでその時の雰囲気的に「ディスコを改めてやりたいね」みたいな感じになって。でも「ディスコ」って言い切っちゃうと、「ディスコじゃないじゃん」とか言われるかもしれないから、「いや、これは卵なんで」って言えば何でもOKっていうか、広く捉えてもらいたいなって。卵がジャケットになったらかわいいだろうなとか、バームクーヘンみたいな変な出し方をしやすいんじゃないかとか、そういう理由もありましたけど。
―バンド名からは丸が取れたけど、丸感のあるジャケットでありタイトルは残りましたよね(笑)。でも確かに『ディスコの卵』イコール「踊る」ということの根源みたいな、そんな捉え方もできそう。川谷:シンプルに作りたかったというか、『ディスコの卵』はわかりやすいじゃないですか。誰が見ても踊れるアルバムなんだろうなって思う感じのものを作りたかったんです。
Photo by Kentaro Kambe―原点回帰ということでいうと、『ディスコの卵』というタイトルと、あとは「歌舞伎乙女」が大きくて。ミラーボールが卵になってるジャケットも含めて、このタイトルが「キラーボール」を連想させるし、「歌舞伎乙女」の間奏にショパンの「華麗なる大円舞曲」が挿入されてるのも、同じくショパンの「幻想即興曲」を用いた「キラーボール」を連想させます。ちなみに、去年の「歌舞伎乙女ツアー」のときに新曲としてやったのは「ハードモード」だったと思うんですけど、「歌舞伎乙女」はいつ作ったんですか?川谷:ツアーでやろうと思ってツアー前に作ったんですけど、あまりにも難しくて(笑)。直前でできたから練習時間も足りなかったので、同じタイミングで作っていた「ハードモード」の方をやろうってなりました。
Photo by Kentaro Kambe―「いよー!」っていうかけ声が入っていたり、「和」な感じと情報量の多さからは『両成敗』の頃を思い出したりもしたんですけど、どういうイメージで作りましたか?川谷:ツアーの表題曲のイメージだったので、歌舞伎っぽくしようと思ってギターのフレーズを作ったり、かけ声みたいなのを入れたり、ライブをやりながら曲を作ってたときの感覚に近かったですけど、途中からライブを意識しないで作り始めたので、それで難しくなっちゃって。コードも難しくて、『両成敗』のころの僕らだったら作れなかった曲になったなと思います。プログレッシブさもあって、ジャジーな感じもあって、ショパンもあって、ちょっとふざけて作ってるけど、ひさしぶりに新曲を出すならこれぐらいやった方がいいかなって。
課長:「歌舞伎乙女」は合わせるのがすごく難しい曲なんですけど、演奏の中身のかっこよさがすごく詰まってるし、このごった煮感が好きですね。
いこか:この曲は展開がもう本当に……ひどい(笑)。たくさんトリッキーな展開がある曲だし、ショパンもわりと直前の無茶ぶりだったもんね。しかもわりと長いこと演奏するので、これはまだライブでやるのはしんどいんじゃないかって。
Photo by Kentaro Kambe―「華麗なる大円舞曲」を入れようと思ったのはなぜだったんですか?「歌舞伎」がテーマだから「円舞曲」にした?川谷:それもあるけど、ほかにも何か理由があった気が……それが出てこなくて(笑)。
―思い出したら教えてください(笑)。ちゃんMARIさんにとっては慣れ親しんだ曲ではある?ちゃんMARI:わりと親しみのある曲というか、弾いたことはなかったんですけど、よく聴いてたし、とっつきやすくはありました。すごくいいトレーニングにもなりましたけどね(笑)。
川谷:ライブでちゃんMARIが一人で弾いてるときに僕たちは何をやるんだって話ですよね。「キラーボール」の間奏より全然長いから。
いこか:……踊る?
ー見たいかも(笑)。
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