春ねむりが語る、Frost ChildrenとのコラボEPに刻んだ「天邪鬼」な精神

左から、春ねむり、Frost Children

春ねむりがニューヨークを拠点に活動するルル・フロストとエンジェル・フロストのきょうだいデュオ・Frost ChildrenとのコラボレーションEP『Soul Kiss』を発表した。春ねむりのアメリカツアーをきっかけに、その後も共演を繰り返して意気投合した2組が作り上げたのは、ハードコア、ミクスチャー、ハイパーポップ、エレクトロなどが混ざり合うハイエナジーな全5曲。東京で撮影されたミュージック・ビデオも話題の先行配信曲「Daijoubu Desu」は日本語の楽曲の世界的な広がりを改めて伝え、今年ポーター・ロビンソンやダニー・ブラウンとも楽曲を制作するなど、注目度が上がっているFrost Childrenとのコラボレーションは、9月28日から始まった春ねむりのアメリカツアーにさらなる勢いをつけることにもなるだろう。東名阪ツアー「サンクチュアリを飛び出して」を終え、アメリカに旅立つ前の春ねむりに、制作の裏側について話を聞いた。

【ライブ写真】「サンクチュアリを飛び出して」東京公演

―8月から9月にかけて、ひさびさの国内ツアーが開催されました。僕はMASS OF THE FERMENTING DREGS(以下、マスドレ)と奴居イチヂクも出演した東京公演を見させてもらったのですが、感想を話していただけますか?

春ねむり:そうですね……東京はマスドレがマジでかっこよかったです。7年前に対バンしたときは見てる間に心を折られまくったんですけど、今回は「めっちゃかっこいい! めっちゃ楽しい!」と思いつつ、「私もやるぞ!」みたいな気持ちになれたので、若干の自分の成長を感じる。あとは東名阪ずっとGOMESSくんが面白かったのと、いろんなお客さんが増えたなと思って。日本でツアーをしたのがひさびさで、前までは日本だと男性っぽい方が多いイメージだったのが、今回日本でもいろんな人が来てくれたのはすごく印象的で。インバウンドの影響とかもあるだろうなとは思うんですけど。

―宮本さんもMCで言ってましたけど、マスドレも海外に結構行ってて、マスドレ目当てで来た海外のお客さんもいただろうから、そこも含めてすごく親和性があったし、年齢も性別も国籍もいろんな人がいるフロアになっていて、素晴らしいなと思いました。

春ねむり:それは嬉しかったですね。ただ発券システムはもう少しどうにかならないかなって。日本語がわからない人や日本の電話番号を持たない人には全然親切じゃない設定になってると思うので。

―さらに言えば、去年リリースした『INSAINT』はハードコアパンクがテーマになっていて、前に取材をさせてもらったときに「マッチョイズムの解体」という話をしてくれました。「マスドレのことを男女の物差しで測る必要はない」というのは前提としつつ、とはいえ宮本さんは2000年代から日本のオルタナティブなロックシーンでずっと活躍してきた女性アーティストの筆頭的な人だと思うから、そういう意味でも今回のタイミングで共演することには意味があったなと。

春ねむり:菜津子さんに聞いてみたかったことがあって、私マスドレの1個上の世代の大阪のバンドにめっちゃ怖いイメージがあるんです。すごくアングラで、「後輩をしばき倒すバンド」みたいなイメージしかなくて(笑)。だから、「マスドレはそういう関西アンダーグラウンドみたいなのとはどういう距離感だったんですか?」って聞いたら、「すり抜けたなあ」って言ってて。そのど真ん中にはいなかったから、今のマスドレがあるんだなって、なんとなく納得したというか。



―7年前にも自主企画に呼んでいたわけで、昔から好きなバンドだったんですよね。

春ねむり:そうですね。正確に言うと、その7年前に呼んだときの衝撃がでかすぎて、一生忘れられないバンドになったというか、演奏で人を殺せるんだって初めて思いましたね(笑)。7年前は場所がシェルターだったのもあって、マジで獣に襲い掛かられてる的なニュアンスだったんですよ。でも今回は天井が高かったのもあって、すごく音が広がってて、謎の多幸感があって。最初に出てくれた奴居(イチヂク)くんが一番わけのわからない音楽をやってて、私がその間ぐらいで、マスドレが突き抜けて多幸感に行ってる感じ。だから一番先輩はマスドレなんだけど、一番赤ちゃんみたいなのもマスドレで、それがすごく面白いなって。

―7年前のスケジュールを調べてみたら、羊文学も含めた3マンだったんですよね。日付を見たら、羊文学がインディーズ・デビューするよりも前のタイミングで。

春ねむり:はいじ(塩塚モエカの当時の愛称)は大学の後輩なんです。一瞬だけ同じサークルにいた時期があって、だからはいじって呼んじゃうし、私は「君島さん」って呼ばれます(笑)。

―今や羊文学も女性がロックをやる上でのアイコンみたいな存在になっているわけで、この3組が7年前に一緒にやってたのはすごい。今この3組でアジアツアーとかやったらすごそうですよね。で、もちろん春ねむりさんのライブ自体も良くて、去年のリキッドルームで初めてドラマーを入れたライブをやり、そこからさらに進化した印象を受けました。

春ねむり:最近ようやくドラムのキックを聴くっていう行為を覚えたんです(笑)。これまでの癖で、どちらかと言うとオケを聴いちゃってたんですけど、1回演奏が崩壊したときがあって、そのときキックの位置を聴いてないとわからなくなると思ったので、それからは聴くように努めてます。あと私目が悪いのにずっとコンタクトをしないでライブをやってて、お客さんの顔とか雰囲気で見てたんですけど、この1年くらいでコンタクトをするようになったんですよ。それからだんだんお客さんの顔を直視できるようになってきて、いろんな感情があるなと思うんですよね。この前も最後の「生きる」のときに仕事帰りの会社員なのかなっていう方が、両手をあげてめっちゃ泣きながらうおー!ってしてくれて、社会って大変だよなあとめっちゃ思ったりもして。

―ライブ後には僕の周りにも感極まってる人がたくさんいて、ちゃんと言葉が届いたライブだったのも間違いないかなと。

春ねむり:ありがとうございます。そうだといいですね。


Photo by Stephen McLeod

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