春ねむりが語る、2023年にハードコアパンクをやる理由 マッチョ的なものの解体

春ねむり(Photo by Yukitaka Amemiya)

春ねむりが新作EP『INSAINT』を完成させた。昨年4月にアルバム『春火燎原』を発表して以降、3度に及ぶ北米ツアーをはじめとした海外公演を積極的に行う一方で、7月にはリキッドルームでのツアーファイナルを大盛況で終えるなど、国内外で彼女の存在感が日に日に増していることが感じられる中で発表された新作は、自身のルーツにあるハードコアパンクを初のバンド録音で、あくまで2023年の形で鳴らしてみせたもの。

また、『INSAINT』というタイトルは「insane」(常軌を逸した、馬鹿げた、狂った)と「saint」(聖人、聖者)を掛け合わせた造語であり、「一般的な観念からは『おかしい』と形容されるような、社会的規範から逸脱した領域にしか宿らない聖性のこと」というテーマは彼女がこれまでも一貫して描き続けてきたライフワーク的なもので、本作ではその哲学の背景にある自身の生い立ちを作品に大きく反映させてもいる。10月からは4年ぶりのヨーロッパツアーをスタートさせる春ねむりに、制作の過程を語ってもらった。

ー近年は海外でのライブが増えているわけですが、7月にひさびさの国内でのライブがリキッドルームで開催されました。バンドセットなどの新しい試みもありつつ、非常に素晴らしいライブだったと思います。当日を振り返っていただけますか?

春ねむり:緊張がすごかったですけど、ライブ自体は今までやってきたことをちゃんとやれたんじゃないかなというのは思っていて。ドラムを入れたのもめっちゃ楽しかったですし、お客さんがアットホームというか、見守りに来ている人が半分ぐらいで、楽しむぞー!というタイプの方が半分ぐらいで、ああいういいバランスのお客さんがたくさん集まってくれたということは、今までやってきたことが間違いじゃなかったなと思えました。

ー海外のライブの盛り上がりに比べると、日本だとどうしてもじーっと見守るタイプの人が多いから、そこのギャップを多少感じているという話を以前してくれていたと思うんですけど、あの日は盛り上がり方もそれぞれだったし、年齢層も性別もいろんな人がいて、とてもいい空間になっていたと思います。

春ねむり:それめっちゃうれしかったです。私は見守るタイプの人もいてほしいなと思っていて、盛り上がっている人しかいないとそうじゃない人がライブに来づらくなって、でも見守る人しかいないと盛り上がりたい人がライブに来づらくなるというのがあるみたいなので、いいバランスでいてほしいなと勝手ながらに思っていて。そういう意味でもあの日は安心しました。

ーゲストに神聖かまってちゃんが出演したことはオーディエンスにとってだけでなく、春ねむりさん自身にとっても非常に大きかったのではないかと。

春ねむり:個人的には「めっちゃありがとう、人生感謝ポイント」みたいな感じでした。

ーかまってちゃんは春ねむりさんにとってどういう存在なんですか?

春ねむり:「死ね」っていう感情を持っていていいと教えてくれる音楽というか。自分が中高生のときは「死ね」って思っちゃダメだと思っていたことがすごくつらかったんです。でも、普通に生きてたら「死ね」って思うこともあるじゃないですか。「死ね」って思うのはいいんだって、そう思う気持ちとどうやって付き合っていくかが人間の人生なのかっていう、それって学校とかだと教わらないけど、かまってちゃんの音楽が教えてくれて、自分はめっちゃそれに助けられて生きてきたなと思うので……そういう存在です。

ー今の話は新作の歌詞とも繋がる話だと思うので、あとでもう一度聞かせてください。ちなみに、当日はかまってちゃんのライブを袖から観ました?

春ねむり:普通にフロアで観てて、の子さんがMCで「お前らねむりちゃんのおかげでタダで入ってるやつとかいんだろ!」って言ってて、めっちゃ爆笑してました。あれをあの感じで言って愛されてるのいいなとか、お客さんとの信頼関係があるから言える感じのことだからすごくいいなと思ったり、あの日は18歳以下は無料にしたから、それで来てくれた子がこのライブを観てくれてたらいいなと思いながら観てましたね。かまってちゃん観たいけど、お金なくて観れないよって子とか絶対いると思うので。

Rolling Stone Japan 編集部

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