春ねむりが語る、2023年にハードコアパンクをやる理由 マッチョ的なものの解体

ー実際に仕上がった音源は非常にユニークだなと感じました。envyみたいないわゆるポストハードコア的なヘヴィネスもあるし、でも今言っていたインダストリアルな感じ、ナイン・インチ・ネイルズ的な金属音の感じもあるし。

春ねむり:ナイン・インチ・ネイルズめちゃくちゃ聴きました(笑)。

ーあとは最初のかまってちゃんが好きっていう話とも紐づくというか、かまってちゃんのバンドの音像ってやっぱり広いじゃないですか。

春ねむり:その影響を確実に受けているんだなっていうことを今回めっちゃ実感しましたね。タイトに録っても曲があまりよくならん、みたいな。春ねむりらしさってある程度の空間でもあるんだという気づきを得ました。

ー「ディストラクション・シスターズ」の後半に入っている瓶が割れる音はなんですか?

春ねむり:池袋に「ものをたくさん壊していいですよアミューズメントパーク」みたいなのがあって(REEAST ROOMのこと)。そこに行って、瓦礫から一番遠いところにマイクを置いて、私が実際に鉄パイプであらゆるものを壊しまくっている音を20分くらい録って、その中の一番いいまとまりだったところを使っていて。



ー「ディストラクション・シスターズ」の歌詞とも相まって、個人的には火炎瓶を投げてるみたいに聴こえて、曲とのリンクもあるし、サウンドとしても面白いなって。

春ねむり:自分でもデモを作っているときから映像が浮かびやすい曲だなと思っていたので、なるべく浮かんできた要素は入れようと思ったんです。

ー『INSAINT』というタイトルについては「一般的な観念からは『おかしい』と形容されるような、社会的規範から逸脱した領域にしか宿らない聖性のこと」というコメントがあって。これは春ねむりさんがこれまでもずっと歌ってきたことでもあると思うし、今回ハードコアパンクというものを対象化したからこそ出てきたテーマのような気もするけど、実際いかがですか?

春ねむり:マッチョさを解体したいと思ったときに、ハードコアパンクが今まで想定してきたフロア、モッシュピットに入って暴れられるような、すごく乱暴な言い方をすると、一般的とされている男性のフロアに対する解像度がめちゃくちゃ低かったんじゃないかと思って。別にモッシュしてもいいと思うけど、「モッシュとは別の空間も存在して、初めてフロアになるよね」とか「男性以外である自分とか、そもそも男女二元論の枠で捉えられない人たちも当然のようにいるわけで」みたいなことを考えていて。そもそも一般的、まともな社会人と言われる人たちからはぐれてしまった人たちのためにある音楽が、その規範を再生産してしまうという流れを解き放ちたいって気持ちが強かったんです。それでフーコーを読んだりして、フランス思想史のことを考えたりした中で出てきたテーマかなとは思いますね。「はぐれたところにいる人に対して手を差し伸べる」というわけではなくて、「ここもまたこの世界の一部であるというふうには言いたい」みたいな。「それを勝手に狂ってるとかはぐれてるものにしているのは相対的な基準だから!」という強い気持ちが一貫してあります。

ーモッシュピットについての考えは、今日最初に話してくれたリキッドルームのフロアの話にも通じますよね。世界のいろいろな場所でライブをして、いろいろなフロアを見てきたからこそ、今回のテーマが改めて浮かんできたりもしたのかなと。

春ねむり:あるのかもしれないですね。私モッシュが起こっているときにモッシュピットの中の人がモッシュの周りの人を怪我させないようにしてるのがめっちゃ好きで(笑)。モッシュピットが嫌われるのって、全てをモッシュピットに巻き込もうとするからで、モッシュしてるのにみんなに優しいのめっちゃいいなって。そういうモッシュピットだったらモッシュしていても周りの人も「モッシュしてるな」とかしか思わないんですよ。自分のライブでそういうのを初めてみたのが海外のライブで、それまでモッシュピットあんまり好きじゃないと思ってたけど、「こういうふうに存在できるのか。じゃあ別に好きにしたらええやんね」みたいなのはすごい感じたことではある気がしますね。

Rolling Stone Japan 編集部

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