ー具体的な曲で言うと、個人的には「サンクチュアリを飛び出して」が作品の核にある曲だと感じました。「社会的規範から逸脱した領域にしか宿らない聖性」をテーマにしているのは、昔自分自身が規範やルールのある世界に身を置いていた経験があるからこそで、この曲ではそこを飛び出す、逸脱することを歌っていますよね。春ねむり:この曲は自分にとって原風景的な曲ですね。たぶん規範の中にいたときからずっと、「死ね」とか「あ、死にたい」みたいなことを思うことがあって、「この考え方ってあまりよくないのかもな」と思うから口には出せないんだけど、でも思っちゃってることは事実なので、それがしんどくて。プロテスタントのクリスチャンスクールに通ってたんですけど、聖書にはぐれでた羊の例え話があって。羊飼いは100匹羊がいて1匹がはぐれたらその羊を探しに行くもので、神様はあなたがはぐれたとしてもそういうふうに見守ってくださっているからね、という例え話があるんですけど。先生から「いつかはぐれてしまったときにそれを思い出して、助けられるときがくる」って教わったんです。でも幼心に「お前の都合で勝手にはぐれたことにされてるだけじゃん?」と思っていて。
ー「これが正解」というのが決められているから、はぐれたことにされてしまう。春ねむり:単独行動してる羊がいてもええやん、みたいな(笑)。「そこで愛と説かれているものって本当に愛なの?」っていうのを考えていたときに、大学の哲学の授業でフーコーを勉強して、「司牧の権力」みたいなの言ってたなって思い出して、ググって、いろいろ読んで。近代の西洋社会における権力はキリスト教における司祭や牧師が持っている権力をベースにしているという理論なんですけど、医者が一人一人の患者に対して適切な処方を与えるように気配りをし、やめるものがいれば処置を与える、そういうふうに人を支配しているし、人もそう支配されることを望んでいるのが近代社会である、みたいな。本当にざっくり言うとそういう理論なんですけど、「それが本当に権力の構造なのだとしたら、それは愛ではなくない?」ってこととかをめちゃくちゃ考えて、守られ続けていることがはぐれないことだとしたら、本当に人一人のことを考えるならはぐれてしまった方が健康なんじゃないかと思ったんですよね。「はぐれてしまっているかもしれない」「自分の考えが規範から逸脱しているかもしれない」という恐れが自分はめちゃくちゃすごかったので、「はぐれたところもまたこの世のある地点だから大丈夫だよ」って言いたくて、今そういうふうに感じている子がいたら聴いてほしいなと思って書きました。
ー〈みんな死ねって ぜんぶ消えろって のみ込んだ気持ちに刺される〉と歌っていますけど、「みんな死ね」と言っていいんだと教えてくれたのが、まさに神聖かまってちゃんだったわけですよね。春ねむり:そうですね。私が中3か高1くらいのときだったと思います。めちゃくちゃ助かりました。
ーかつて自分がかまってちゃんを聴くことで気持ちが楽になったように、自分と同じようなことを感じている今の10代の気持ちがこの作品で楽になれば。春ねむり:そう思ってくれたら助かるなあという感じですね。そういう意味では、この曲が一番素直な曲かもしれないです。
ー最後に、10月に開催される4年ぶりのヨーロッパツアーに向けて一言いただけますか?春ねむり:初めてちゃんとツアーをしたのがヨーロッパだったので、そのときに「この世の中にはいろいろな人いるんだ 」ってめちゃ思ったので、その実感をまた得られたらいいなと思います。いろいろな人がいるなというのをシンプルに体感したいです。あと4年ぶりだからめっちゃ成長してると思うので、お客さんは期待して来てほしいです。
ーいろいろな国に行って、いろいろな人がいるんだというのを目の当たりすることによって、自分の創作がどんどん深まっていく?春ねむり:逆に言うと、結局どこに行っても人は一人なんですよ。それをシンプルに感じられることが自分にとってはいいんですよね。「あ、国とかじゃないのか」みたいな。環境によって生きやすい生きづらいとかはあると思うんですけど、それも人それぞれ。自分にはこれしかない、この体とこの精神しかなくて、それは誰とも分かち合えないということをシンプルに受け入れるのって大変だから、自分はいろいろなところへ行って改めてそれを感じてます。「人間の人生ってそうなんだな」っていう、いい寂しさだと思いますね。そういうことって、同じ集団にいすぎると分からなくなっちゃうと思うんですよ。集団の意識を反映させてしまったりするのは、自分の創作にとってはいいことではないので、そうしないためにもいろいろなところに行くのはいいことだなと思います。
<リリース情報>春ねむりNEW EP『INSAINT』2023年9月29日(金)発売全6曲収録=収録曲=1. ディストラクション・シスターズ2. わたしは拒絶する3. 生存は抵抗4. サンクチュアリを飛び出して5. インフェルノ6. No Pain, No Gain is Shit<ライブ情報>「HARU NEMURI EUROPEAN TOUR 2023」10/7 - Ireland, Dublin - The Workman's Club10/9 - England, Manchester - The Peer Hat10/10 - England, Southampton - Heartbreakers10/11- England, London - Studio 929410/13 - Spain, Barcelona - AMFest Encobert (Sala Salamandra)10/16 - France, Paris - Les Etoiles10/17 - Belgium, Brussels - Botanique (Rotonde)10/19 - Netherlands, Rotterdam - Left of the Dial Fest day110/20 - Netherlands, Rotterdam - Left of the Dial Fest day210/23 - Germany, Berlin - BadehausOfficial Website(JP):http://ねむいっす.com