春ねむりが語る、2023年にハードコアパンクをやる理由 マッチョ的なものの解体

ーレコーディングに参加したメンバーはもともとどういう繋がりで、どういうバックグラウンドがある人たちなんですか?

春ねむり:ドラマー(尾日向優作)は自分が最初にEPを出したときのヒップホップのレーベル(LOW HIGH WHO?)で一緒だったバンドでドラムを叩いていた人で、知り合ってからずっと友達で、「これについてどう思う?」 みたいなことを延々ずっと話していて。そういう話をする中で、圧倒的に生に前向きな人と後ろ向きな人がいると思うんですけど、どちらかと言うと後ろ向きなタイプの人で、そこがたぶん共通しているのかなと思っていて。自分の中の暗い部分を差し出せる人なので、それがいいなというのと、あと普通にドラムが上手。今回は「どういう意味、背景があってこの曲を作ったよ」というのを理解して録音に臨んでほしいなと思っていたので、ぴったりでした。

ーギターのお二人はどうでしょう?

春ねむり:バッキングギター(長嶋水徳 - serval DOG -)は前はバンドをやっていて、活休して今シンガーソングライターなんですけど、もともとそのバンドがめちゃくちゃ好きで、ソロになってからもめっちゃ好きで。ギターの音がとにかくかっけえと思っていて、とにかく音がかっけえ採用(笑)。バッキングギターをそんな感じで選んだので、リードギターは「こういう音作りがしたい、こういうプレイをしてほしい」というのを多少話せる人がいいし、どちらかと言うと、私がその人を好きというよりは、春ねむりの音楽をめっちゃ好きって人がいいなと思って。実際に弾いてくれているのはバンドをやっている方(Hiiro/Fall of Tears)なんですけど、月一ぐらいでずっとライブに来て、「客演してほしい曲があるんです」みたいに言い続けてくれたバンドの人で、実際に客演して対バンしたら、すごいかっこよかったんですよ。上手だし、春ねむりの音楽めっちゃ好きだし、ハードコアパンクにも詳しい。「君だ!」 と思って誘いました。

ーそれぞれにストーリーがあるのが面白いですね。ではベースの石丸航さん(Bearwear)は?

春ねむり:どうしても音的に指ではないから、ピック弾きの人がよかったんですよ。でも仕事でベースを弾いてる人って指弾きのテクい人がめっちゃ多いから、「うーん」ってなって、結局「弾きたがってる人がいるんだけど」って連絡をもらって、ピック弾きだし、話せそうだし、上手だし、いいかもしれんと思って、最後に決まった感じでした。

ー「話せるし」っていうのはやっぱり大事ですよね。春ねむりさんの音楽を形成する上では音の相性だけじゃなく、哲学的な部分をちゃんと共有した上で演奏することが大事だと思うので。

春ねむり:そうですね。1曲ごとにセルフライナーノーツを書いて、「とりあえずこれを読んでください」って送って。上手い人をバッと集めてやるのは違うと思ったんです。私がもし春ねむりのファンの高校生で、春ねむりが年上の上手いおじさんを集めてアルバム録ってたらめっちゃ嫌だと思うだろうなって(笑)。結局ドラムの人だけ4つ上かな。ベースの人が同い歳で、ギター2人は下なんですけど、バンドメンバーを集めるみたいな感じで集めました。

ーそうやって信念を持ってメンバーを集めつつ、とはいえバンド録音は初めてだったと思うのですが、実際の制作はいかがでしたか?

春ねむり:リハスタのときはサクサク進んで、ホントにバンドみたいでした。「ここのルートはこっち行ってるけど、こっちの方がいいですかね」とか「この打ち込みのリズム叩けないんだけどこれでいい?」「ダメです」みたいな(笑)。



ー基本的には春ねむりさんがデモを作って、スタジオでそれを再現しつつ、細かいところをすり合わせていく感じですかね。

春ねむり:そこまではわりと順調だったんですけど、その後に普段使っているあんまり広くないスタジオでプリプロをやったときに、「このままじゃダメだな。普通のバンドの録音をしたらつまらんぞ」みたいになって。それで結構悩んで、マスタリングエンジニアさんといろいろ話したら、「ミスチルのこの曲とかやばいけど、スネアにバイクのマフラー立てて録ってるらしいよ」みたいなことを言ってて、「金属」っていい要素かもなって。ハードコアパンクはタイトでデッドなイメージだったけど、自分の音楽はちょっと広いから、何か要素を加えるとしたらインダストリアルなのかなって。それでスネアに金属パイプを立てて、その先にマイクを立てて録ったり、ドラムのルームマイクの横に金属製のトタンを立てて、反響に金属の成分を加えてみたり。「せっかくバンドで録るんだから、エフェクターじゃなくて録り音でちゃんとやらない?」っていう話をして。

ーなるほど、面白いですね。

春ねむり:プリプロのときは普通のドラムセットで録ってたんですけど、本番のレコーディングではテックさんに28インチと26インチのバスドラムを持ってきてもらって、それを2連で繋げてその先にマイクを立てて録ったり、22インチのバスドラムを倒して、椅子に乗せてタムとして使ったり(笑)。ギターも本当はダメだと思うんですけど、押さえてなかったらノイズが鳴っちゃうぐらいの歪みにして、オフマイクで録ったりしました。アンプにくっつけて録る音があまり好きじゃなくて、アンプからちょっと離れて録っている音の方が好きなんですよね。「2023年のハードコアをやる」って言ってるんだから、普通じゃないことをしないと面白い作品にはならんなと思って、「上手くいくかはわからないけど、とりあえずやってみよう」みたいな感じでやったことが結果的にある程度上手くハマり、なんとか形になった感じですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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