唯一無二の"プリンス"として生き抜いた57年間とは

プリンス(Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images)


80年代後半になっても、プリンスの創作意欲が衰えることはなかった。1987年にはアンダーグラウンド志向の『ザ・ブラック・アルバム』を制作するも、良心の呵責(あるいはエクスタシーによるバッドトリップ)を理由に、直前になってリリースを中止している(海賊版が高値でやり取りされるようになった同作は1994年に正式にリリースされたが、結果としてワーナー・ブラザースとの蜜月が終わりを迎えることになる)。

同作に収録予定だった「ホエン・トゥ・アー・イン・ラヴ」は、1988年発表の『LOVESEXY』に別バージョンが収録されている。同作には9曲が収録されているが、プリンスの強い要望により、CDではすべての曲間が排除された全1曲として扱われている。同アルバムからは「アルファベット・ストリート」がシングルカットされ、ヒットを記録した。1989年リリースのアルバム『バットマン』はチャートのトップに輝き、シングル「バットダンス」はシングルチャート1位を記録した。



1990年作『グラフィティ・ブリッジ』は、映画『パープル・レイン』に登場したザ・キッドのその後を描いた映画のサウンドトラックとして発表された。『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』同様、映画は批評家から酷評され、興行的にも失敗に終わったが、「シーヴス・イン・ザ・テンプル」を収録したアルバムはヒットを記録した。1991年には新たなバックバンド、ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションを結成し、よりファンクとヒップホップ色の強い音楽性を追求し始める。黒人としてのアイデンティティを強調した「クリーム」、エロティックな「ゲット・オフ」、そしてポップな表題曲を収録した『ダイアモンズ・アンド・パールズ』は、アルバムチャート第3位を記録した。1992年にプリンスはワーナー・ブラザース・レコードの副社長に就任し、レコード契約の更新に同意する。同年には男性記号と女性記号を組み合わせたシンボルを名義としてアルバム『ラヴ・シンボル』を発表。「7」「マイ・ネーム・イズ・プリンス」「SEXY MF」等を収録した同アルバムは、アルバムチャート第5位を記録した。



先述のシンボルを名義として以来、彼はジ・アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス(かつてプリンスと呼ばれたアーティスト)をはじめとした、様々な名前で呼ばれるようになる。1994年にワーナー・ブラザースはペイズリー・パーク・レコードとの契約を解消し、プリンスはインディレーベルからシングル「ザ・モスト・ビューティフル・ガール・イン・ザ・ワールド」を発表する。当時ワーナー・ブラザース側はあくまで「実験的試み」と主張したが、以降両者の関係は目に見えて悪化していく。プリンスは頬に「Slave(奴隷)」と記した姿でメディアに登場するようになり、ワーナーとの契約を完遂させるために未発表音源を次々と発表し始める。

「顔に"奴隷"なんて書いて、どうかしてると思われただろうね」1996年のローリングストーン誌のインタビューで、プリンスはそう語っている。「でもやりたいことができない自分は、本当の自分ではないんだよ。人は夢見ることをやめた時に、奴隷に成り下がるんだ。それが今の俺さ。プリンスの音楽は俺の手を離れてしまっているんだよ。原盤権を持たない俺は、原盤に支配された存在なんだ」

1996年、プリンスとワーナー・ブラザースの契約が完了する。その後彼はEMIと流通契約を交わし、3枚組の大作『イマンシペイション』を自身のNPGレーベルより発表する。同作からはザ・スタイリスティックスのカヴァー「ゴーリー・ワウ」と、ポップ・ロック調の「ホーリー・リバー」のシングル2曲がトップ40にランクインしている。アルバムはトップ200の第11位を記録し、ダブル・プラチナ・ディスクに認定された。同年、彼はスパイク・リーが監督を務めた映画『ガール6』のサウンドトラックに、自身のヒット曲を数多く提供している。

インターネットが急速に普及していった90年代後半、プリンスはCDをファンに直接届けるというアイディアを実践したパイオニアの1人となった。1998年に発表した未発表音源をコンパイルした3枚組のCD『クリスタル・ボール』は、ビルボード200において第62位を記録する。1999年には『レイヴ・アン2・ザ・ジョイ・ファンタスティック』、そして同年にレコーディングされた未発表音源集をリリースするが、後者はチャートインを逃している。


Translation by Masaaki Yoshida

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