フジロック現地レポ「拡張されたヴァンパイア・ウィークエンドの今」

 7月29日(日)、フジロック3日目のグリーンステージに出演したヴァンパイア・ウィークエンド(Photo by Shuya Nakano)

「約束するよ。次に日本に来るときは、必ず新しいアルバムを仕上げてくるから」ヴァンパイア・ウィークエンド(以下VW)のエズラ・クーニグ(Vo、Gt)は、ライブ終盤にフジロックと透き通った夜空を讃えた後、こんなふうに誓っていた。

バンド新体制のお披露目となった今回のステージは、100点満点と言い切っても差し支えなさそうな内容。代表曲の数々が惜しみなくプレイされ、オーディエンスも大満足だったはず。それなのに、冒頭のMCをしているとき、エズラははっきりと悲壮感を漂わせていた。

たしかに今は、フジに前回出演した5年前とは状況が違う。あのときは、同年末にローリングストーンUS版も年間ベストアルバム1位に選出した3作目『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』を提げての登場。インディの枠すら越えて、ロック・シーンの頂点に立ったバンドは、同日のヘッドライナーだったキュアーをも上回る集客を成し遂げていた。

だが、そこからVWは長い沈黙を貫くことになる。2016年には、サウンド面の中核を担っていたロスタム・バトマングリが脱退。残されたメンバー3人はソロ活動などで動いていたものの、いくつかの噂を除けば、バンドの展望はすっかり見えなくなっていた。かなり早い段階から、来たる新作の仮タイトルが『ミツビシ・マキアート』だと言われてきたが、今も具体的なアナウンスはほぼゼロのまま。今回、フジロックに提供されたアーティスト写真が単なるバンド・ロゴであったことも、「Now Loading」のままストップしている現状を物語っている。

長いスパンの背景には、迷いや行き詰まりも少なからずあるのだろう。彼らがデビューした10年前や、ピークを極めた5年前と今とではまったく状況が違う。フジロックでもケンドリック・ラマーが大トリを務めたように、シーン全体が大きく様変わりした現在、あのVWですら次の一手が見つけられずにいるのかもしれない--そんなふうに思っていた矢先、今年の頭にフジを含むフェス出演をアナウンスすると、春先には4年ぶりにライブ活動を再開。「いよいよ本格的に再始動か?」と期待したくなるアクションを見せたあと、彼らはフジロックに帰ってきた。

開演時間を迎えると、AC/DCの「バック・イン・ブラック」とともにバンドが登場。出だしからアップテンポで軽快なな「ダイアン・ヤング」、弾けんばかりにバウンシーな「ホリデイ」の2曲が叩き込まれると、観客も嬉しそうにジャンプしながら演奏に応える。


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano

相変わらず世界一半ズボンが似合うエズラ、腕まくりして(クールガイらしからぬ)マッチョな熱量を放つクリス・バイオ(Ba)、なぜか卓球日本代表のユニフォームを着ているクリス・トムソン(Dr)と、絶妙にハズした各々のファッションはVWらしさが健在であることを示していた。その一方で、大きく変わったのはバンド編成。アフロの似合うギタリスト、ナードな風貌の鍵盤奏者、ブロンド美人の女性キーボーディスト、トムソンの隣で叩くドラム/パーカッション担当と、4人ものサポートメンバーが壇上に加わっていた。


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano

これだけ一気に増員したのは、ただ単にロスタムの穴を補填するというより、『リメイン・イン・ライト』期のトーキング・ヘッズのように、バンドを前進させるための音楽的ヴィジョンがあったのだろう。そんな新体制の強みは、3曲目の「ケープコッド・クァッサ・クァッサ」でいきなり発揮される。ルーズで心地よいアンサンブルは、アフロテイスト濃厚な原曲から気づけば逸脱し、手に汗握るジャムセッションへ。そこから繋ぐようにビートルズ「ヒア・カムズ・ザ・サン」がカバーされると、意表を突かれたオーディエンスも大合唱で応えた。

続く「オックスフォード・コンマ」では、女声コーラスやパーカッション、エコーの効いたドラムといったリアレンジが施され、10年前の楽曲がフレッシュに響き渡る。こうしてみると、メンバーを増員した狙いの一つに、アンサンブルの自由度を高めることがあったのは間違いないはず。音のダイナミズムよりはカラーリングが豊かになった印象で、その後もセッションパートとリアレンジ、カヴァーを巧みに織り交ぜることで、楽曲のポテンシャルはどんどん拡張されていった。

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