一方、常に未来志向のアーティスト達は、ひと昔前のやり方――つまり、限られた枚数を、限られた売り場スペースで、限られたフォーマットで販売するやり方――は、もはや時代遅れで絶滅したことに気づいている。彼らは代わりに、音楽の山に埋もれて実験を続ける。
カニエ・ウェストもその一人だ。彼は自らプロデュースを手掛けた5枚のミニアルバムを、5月から6月にかけて毎週連続でリリースした。現代の延々と終わらないリリース状況のもとでは、カニエ・ウェストでさえも、世間の気を引くには知恵をしぼらなくてはならないのだ。
Spotifyはどうだろう? スウェーデンに拠点を置く同社は最近、アーティストがSpotify上に直接自分たちの楽曲をアップロードできるようになった、と発表。SoundCloudと同じやり方だ。その結果、1日2万件台のアップロード件数は、この先数カ月でさらに増えるだろう。
だが、爆発的に急増する音楽コンテンツの影響をモロに受けているのは、実は音楽ファンだ。異常な量の音楽がアップロードされている状況では、選曲の美学も――それによって手にする世間の信頼も――過去の産物となってしまった。
当然ながら、選曲合戦におけるSpotifyの最大の強みはプレイリストだ。彼らのプレイリストは、一部生身の人間によって、一部アルゴリズムによってプログラミングされている。だが問題は、はたしてSpotifyの人気プレイリストが本当に目的を果たしているのか、という点にある。
音楽データツールChartMetricから入手したデータによると、全世界で最も人気の高いSpotifyのプレイリスト上位3つは、「本日のヒットチャート」「Rap Caviar」「Vivo Latino」。合わせて4000万人以上がフォローしている。
毎年700万曲がSpotifyにアップロードされている中、これらのリストはリスナーのためにどんなことをしてくれるのか?
「本日のヒットチャート」にリストアップされているのは一貫性のない50曲。その点は「Rap Caviar」と「Vivo Latino」も同様だ。これら3つのプレイリストは少なくとも週に1回更新されるが、それだけで9時間分の音楽に相当する。
気の遠くなるような量の音楽をさらにブラッシュアップするための解決法は、AIの手に委ねられているのかもしれない。Spotifyは、自分好みの楽曲リストを提供してくれる「Discover Weekly」や「Daily Mix」「Release Radar」といったカスタマイズされたプレイリストがユーザーに受け、絶賛されている。
同社は現在、準カスタマイズのプレイリストのテストに一生懸命なようだ。ようするに、誰の目にも同じように見えるプレイリスト――だが、個々の過去の嗜好履歴に基づいて、ある一定の楽曲がこっそり変更されている。
Spotifyのサーバーが拾い上げた膨大な楽曲の山はどんどん拡大の一途をたどる。その一方で、より多くの楽曲が、リストに上らないまま消えていくのも事実なのだ。