星野源『POP VIRUS』を考察「日本語ポップスの王道に潜む、国民的スターのトリック」

星野源(Photo by PRESS)

昨年12月19日にリリースされた星野源の『POP VIRUS』が、オリコンチャートで4週連続1位に輝くなど圧倒的セールスを記録している。『Jazz The New Chapter』シリーズで知られるジャズ評論家の柳樂光隆が、独自の切り口からニューアルバムの魅力に迫った。

星野源という人がどれだけ有名で、今、どれだけ影響力があるかみたいなことは、僕の耳にも当たり前のように入ってくる。『逃げ恥』も見たし、恋ダンスも知っている。昨年末の『紅白歌合戦』も見た。とはいえ、今までは周りの人から「星野源の新譜聴いた?」とか言われることは正直なかった。今回、『POP VIRUS』が発表されてから何人かにその質問をされて、正直ちょっと驚いている。ジャズ評論家の僕にも感想を尋ねる人がいるくらい、すさまじい注目を浴びていることを、このアルバムが出てから激しく実感させられた。

現在の星野源は、TVを通じてお茶の間レベルにまで知名度を広げる一方、カルチャー方面でも日本のポップミュージックを背負う存在だと言われている。本作『POP VIRUS』は、そんな特別な場所に立つ彼による横綱相撲的な作品だと僕は思った。2013年の『Stranger』や2015年の『YELLOW DANCER』と比べてみても、2018年の『POP VIRUS』での余裕っぷりは突出したものだ。国民的スターとして立場や意識も変わった彼が、自分が期待されている役割をまっすぐに受け止めて、ど真ん中で演じきった作品とも言えるだろう。

とはいえ、メロディー自体は従来の作品からあまり変わっていない。星野源印ともいうべき、ギター弾き語りでも成立しそうなメロディーはそのままで、作曲方法を変えたような印象は受けない。それは歌唱スタイルについても同じことが言える。歌とメロディーというポップミュージックの根幹を成す部分に大きな変化がないのもあって、これまでのアルバムとさほど変わっていないような印象をもった人もいるかもしれない。

ただ、その周りのアレンジやミックスはずいぶん変わったと思う。例えば、リズム面でいうと、『Stranger』から『YELLOW DANCER』への過程で、リズムがかなりくっきりと目立つようになっていた。アメリカのソウルやファンク、ディスコ、R&B、ネオソウル、あるいはニューオーリンズの音楽といった、アフロアメリカンによる生演奏を軸にしたダンスミュージックの様々なリズムを取り入れ、それを前面に出していた。前作のタイトルに“ダンサー”という文字が入ったことからも察せるように、その核はビートにあったのだろう。



『POP VIRUS』のビートの鳴りの良さは、前作の比ではない。聴き比べてみると、低音の鳴りや、個々の太鼓の音色やクリアな輪郭など、叩かれているドラムセットそのものの音をきっちりパックしていて、その生々しさが一気に向上している。スネアの抜け具合や、バスドラムの太さや重さが気持ちよく鳴っている。それはベースにもついても同様だ。つまり、ドラムとベースのリズムセクションの鳴りが全く違うものになっている。しかも、そのリズムが前作よりもかなり前景化しているという意味では、前作で目指していたものが、かなりアップデートされて実現されているとみていいだろう。

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