―さっきの『ONE PIG』みたいに、実験的でアバンギャルドなことにも取り組みつつ、エンターテインメントとして楽しめるギリギリのラインで成立させている。そこにハーバート一流の美学がある気がします。柳樂:ハーバートがやっていたことにまだ名前がついていなかった頃は、”物音テクノ”ってよく書かれていたって話を以前、
Dommuneに出た時に原雅明さんと宇川直宏さんがしていた。当時はクラブ界隈だけでなく、もっとアンダーグラウンドな層にもウケていたみたい。
―「変態的」というのが褒め言葉だった頃ですよね。2001年にレディオ・ボーイ名義で来日したときは、マクドナルドのハンバーガーを踏みつけたり、浜崎あゆみのCDをマイクで叩き潰して、その音をサンプリングしてたというし。柳樂:根がパンクっぽいんだよね。そこはイギリス人って感じがする。その一方で、アルバムでいうと、98年の『Around The House』で人気に火がついて、そこから『Bodily Functions』に繋がっていく。お洒落なディープ・ハウスとしても歓迎されつつ、後者はジャズの要素も盛り込まれていて、クラブ・ジャズ系のディスクガイドにも取り上げられていた。
―曲自体はメロディアスで洗練されているから、BGM的な需要もあったでしょうし。柳樂:『Bodily Functions』は特別マニアではないところにも届いていたみたいだから。セレクトショップみたいなところでもかかっていた記憶がある。
―その頃になると、ビョークのプロデュースを手がけたり仕事の規模も大きくなって。「次は何をしでかすのか?」と一挙一動が注目される存在になっていくと。2000年代にかけて、ハーバートの時代というのがありましたよね。ジャズとクラブミュージック、高度な教養をクロスさせることで高みに登り詰めたというか。柳樂:オーケストラやビッグバンドを、テクノと組み合わさる手法とかもそうだしね。
―知的でアクロバティックな作風もあって、リスナー層も幅広い印象です。柳樂:アンダーグラウンドの人からも支持が厚いし、インディーロック好きにも一目置かれていて。DOMMUNEを常にチェックしたり、Los Apson?に通っていたりするようなディープなリスナーにも好かれている。すごく絶妙なポジションにいるよね。そういう人ってダンスミュージック系で他にいるのかな。セオ・パリッシュくらい?
―しかも、エレクトロニック系の音楽は流行り廃りが激しいなかで、今も独自のポジションをキープしているという。柳樂:そうそう。今ではキャリアも長くなったのに、古臭くなったイメージを全然持たれていない。90年代から活動しているアーティストで、そういう位置にいるのは本当に珍しいよね。そこはやっぱり、サンプリングに頼らずやってきたのも大きいと思う。