ケイジ・ジ・エレファント、プレイリスト時代に勝ち取ったロックンロールの未来

ニュー・アルバム『Social Cues』は、これまで準メンバー扱いだったギタリストのニック・ボックラスと、キーボードから弦楽器や打楽器までこなすマルチプレイヤーのマッザン・ミンスターが正式メンバーに昇格、6人編成で臨んだ初のオリジナル・アルバムだ。注目すべきは、ポルトガル・ザ・マンに大ヒット曲「Feel It Still」をもたらしたプロデューサー、ジョン・ヒルを迎えていること(ポルトガル・ザ・マンから推薦されてヒルの起用を決めたそうだ)。ヒルはエンジニアとしてNASやウータン・クランの作品に参加、その後プロデューサー/ソングライターとしてサンティゴールドやMIAと組んだのを機に、ジャンルを越えて活躍する売れっ子となった。最近はカリードの「Vertigo」やカーリー・レイ・ジェプセンの「No Drug Like Me」も手掛けている。

メンバーが敬愛する同じケンタッキー州出身のマイ・モーニング・ジャケットのように、トータル性を持ったアルバムを作ることがなかなかできなかったケイジ・ジ・エレファントだが、外の血を入れることで『Social Cues』は遂にそれを達成したのではないか。雑多にあれこれ詰め込みがちだったこれまでのアルバムとは対照的に、ジョン・ヒルが参加してポストプロダクションに凝ったことでサウンドの質感が刷新され、全体のトーンに統一感が出てきた。デヴィッド・ボウイの「Ashes To Ashes」を彷彿させる「Social Cues」や、「The War Is Over」のようにシンセが活躍する場面も増え、従来のラフなサウンドに固執していない点も好感が持てる。磨いた分、ちゃんと光っているアルバムだ。



forbes.comのインタビューに応じたマット・シュルツは“プレイリスト・ジェネレーション”という言い方で影響源の多様性を説明し、「僕はアルバムという表現を愛している」と前置きした上で、クランプスもケンドリック・ラマーもビートルズもニック・ケイヴもカニエ・ウェストも、世代やジャンルを越えてシームレスに聴けてしまうサブスクリプション時代の面白さに言及している。それら異なる影響を作品の中で融和させる技——そもそも複数のジャンルを飲み込むことで進化してきたロックンロールの“未来”を提示しようと本作では模索しているし、その可能性をまったく諦めていない。型通りの伝統主義者とはそもそも立脚点が違うのだ。

ベックをゲストに迎えた「Night Running」は、先にコーラス部分も含めて大部分が出来上がっていたが、適切なヴァースがなかなか作れず悩んでいるところに、ブラッド・シュルツが「ベックなら解決できるかも!」と思い立って共演を依頼したという(本作のストリングスを手掛けたベックの父、デヴィッド・キャンベルが一役買った模様)。ベックは依頼を快諾してからほんの数日でこのヴァースを入れてトラックを送り返してきたそうで、ポップなレゲエを好むベックらしく、耳に残るフレーズがクセになる。ここでの共演が縁となり、今夏ベック、スプーンとの「Night Running Tour」が開催される予定だ。



マットのスポークンワードをフィーチャーした「House Of Glass」も、これまでのアルバムにはなかったタイプの楽曲。ブラッドはConsequence Of Soundでこの曲の背景を解説しており、アルバム制作中にNetflixで観た犯罪ドキュメンタリー『アイ・アム・ア・キラー ~殺人鬼の独白~』にヒントを得て、「シャイでソフトに話す」キャラクターをマットが作り上げたそうだ。同じ記事でブラッドが認めている通り、バースデイ・パーティ時代のニック・ケイヴを彷彿させるところもある。

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