ヴァンパイア・ウィークエンド最新作レビュー:穏やかなサウンドに隠れた反骨精神

2019年撮影のエズラ・クーニグ(Photo by Rich Polk/Getty Images for iHeartMedia)



これまでのVW作品で、ロックバンドとして明らかに欠如していたのはグルーヴだ。リズムセクションががっちり噛み合い、うねりを生み出していくような快感は、彼らの音楽に存在しなかった。それこそ初期の彼らは、アフリカ的なリズムを積極的に取り入れてはいても、パーカッションやドラム、ベースがしっかり絡まり合うことはない。アンサンブルの工夫や身体的な快感よりも、カラフルな音色を巧みにコントロールすることが優先事項であったのは間違いないだろう。

例えば、2ndの「White Sky」でも、アフリカ音楽のリズムパターンを取り入れているが、それによって際立つのは躍動感ではなく、カラフルな色彩感覚だ。アフリカの楽器とは全く異なる音色に差し替えることで、小気味良いビートは華やかな装飾のように機能している。リズム楽器についても同様で、リフのフレーズや音色を重視していて、そもそも低音域自体がかなり薄い。特にベースの演奏は、推進力をまるで感じさせなかったが、それがVWの個性に繋がっていたのも事実である。最小単位のリズムを切り取ってサンプリングし、それを重ねてループさせたような演奏や、そこから生まれるクールなエモーションは、同じくアフリカ音楽をカットアップしつつ取り入れた、トーキング・ヘッズの『Remain in Light』にも通じるものが感じられた。



ところが、『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』では初めてグルーヴが生まれている。これまでになく低音域が出ているだけでなく、小節を跨ぐような息の長いフレーズがメロディーやギターと並走するように奏でられることさえあり、ドラムやパーカッションに関しても、一般的なセットとは離れた音色やリズム・パターンが駆使されている。とりわけ変化を感じるのはベースラインとドラムの連動性だろう。

エズラによって疑似的に作られたバンドのアンサンブルは、ベースが示したリズムの基準となる位置やハーモニーを中心に、ドラムを含めた全体のサウンドが連動しているように聴こえる。しかも、そのベースラインは歌やギター並みにメロディアスなのも面白い。時折、ベースラインが前景化してギターなどと入れ替わり、主旋律のような役割を担ったりもする。ギターやピアノなどのいくつもの旋律が先導する本作のサウンドの中でベースはリズムだけでなく、メロディー楽器としても重要な要素になっているのだ。



そして、もう一つの特徴はこれまでになく低音が出ているサウンドで、ここでもベースが鍵になっている。かなり低いところまで出ているベースが空間を下に押し広げたことで生まれた、広くゆったりした空間の中で、ギターやピアノの旋律が軽やかに流れ、曲ごとに微妙に変化がつけられた声の質感やストリングスなどの響きが気持ちよく鳴っている。空間が広がった分、一見、スカスカに感じるかもしれないが、全体像に耳を傾けると、実にバランスよく音が配置されており、入念にデザインされていることに気付くだろう。

それらの高音・中音・低音の音域や帯域の配置を波形で見たら、もしかしたらジェイムス・ブレイクの音楽ともそんなに変わらないかもしれない。だが、ここでVWはギターや(ウッドベースっぽい質感も多めの)ベース、生ドラムやパーカッション、ストリングスなど、徹底的にオーガニックな楽器を使っており、その生楽器っぽさを強調した音色や響きを巧みに組み合わせている。

現行のヒップホップ〜R&Bと同じような音域・帯域に音を配置しながらも、そういったジャンルでは無視されがちな、オーガニックな音色ばかりを扱って曲を作ることで、無意識的にメインストリームの音楽とも同じような地平で聴ける感覚をもたらしつつ、同時にそれらとは全く異なる印象や感触も届けている。これはVWなりの反抗であり、ロック・ミュージシャンならではの矜持なのかもしれない。

VWにとって6年の歳月は、音楽家としてじっくり成長するために必要な時間だったのだろう。彼らの音楽はますます機能的で豊かになり、その魅力をさりげなく表現することもできるようになった。そのうえで、彼らがデビュー時から世に問うてきた「インディーロック的な価値観」が、ブラッシュアップさえすれば今も有効であることを証明している。海外では奇しくも同日リリースとなったビッグ・シーフの最新作『U.F.O.F』と同じように、『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』からも、「ロックが蓄積してきたものの延長線上にある普遍的なサウンド」を聴き取ることができるはずだ。




ヴァンパイア・ウィークエンド
『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』

<日本盤CD>
2019年5月15日(水)発売
全21曲収録
SICP-6117 / 2,400円+税
日本盤限定ジャケット&初回仕様限定ステッカーシート封入 & 抽選でアーティスト・グッズが当たる応募ステッカー付
日本限定ボーナス・トラック3曲収録

<配信アルバム>
発売中
全18曲
再生・購入リンク:
https://sonymusicjapan.lnk.to/VampireWeekendFOTBTW

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