―では若い頃の自分にどのようなアドバイスをしますか?
「よく聞けよ、若造、お前はまだ人生の先に待っているものを知らない。今やっていることが自分でも最低な出来になると落ち込んでいても、それが最高の出来になる可能性だって、それが自分の名が記憶される理由になる可能性だってある。憧れのヒーローたちの能力に追いつけないと心を痛めるかもしれないが、時間を無駄に過ごしてはいけない。そんなことは心配しなくてもいい」だね。私だって若い頃には、年を取った自分に「お前はこれを台無しにしていると思っているんだろう? 今から50年後にこれで表彰されるよ」と慰めてほしいと願うような苦境に何度も陥った(笑)。若い頃に仕事をクビになった原因こそが、齢を重ねてグラミー賞特別功労賞生涯業績賞を受賞する理由なんだよ。
それに、若い頃の自分にもう一つ言いたい。過去の食べる喜びを現在の学ぶ喜びに移行するようにしろ、とね。これは年を取った自分が心に刻んだ教訓だ。つまり、糖尿病を患ったり奥さんに叱られることなしに永遠に没頭できる楽しみを見つけろって意味だよ。
―結婚して56年ですが、長続きの秘訣は何ですか?
互いにある程度のプライバシーを保つことだ。かつては女性に自分の人生を生きることが許されていなかった。昔から(妻の)エレノアには彼女なりの興味があり、彼女なりの自分像があった。短い時間であっても朝に彼女と一緒に過ごすのが大好きだね。必ず新たな発見があるから。
―現在読んでいるものは何ですか?
ドゥニ・ディドロの『運命論者ジャックとその主人』だ。彼は最初の百科事典を編纂した人で、それによって彼は殺されかけた。理由は、カトリック教会が認めない意見ばかりが各章に書かれていたからだよ。
―映画制作の将来は「ビデオカメラを持ったオハイオ出身の女の子」になって、映画づくりがデジタル化されて民主化されると、以前おっしゃっていました。この予言がある程度当たったと思いますか?
誰だって自分の中にいくつかの能力が隠されている。大事なのは自分が得意な能力を見つけること。私の場合は、近未来を少しだけ予想できる能力があったようだね。
―では映画界は次にどこに向かうと思いますか?
私の書籍『Live Cinema and Its Techniques(原題)』を知っているかい?
―ええ。これは「Distant Vision」プロジェクトの基盤となっていたものですよね?
そうだ。これは過去に何度も行ったワークショップで実験した「ライブ」映画で可能な事柄の情報を基にしていた。劇場やテレビではない。劇場もテレビのその関係者の領域だからね。ここで私が言っているのは映画だ。つまり撮影することが基本で、瞬時に映画と認識できるもの。ほら、テレビでザッピングしているときに、白黒でもカラーでも映画の場面が現れると、瞬時にそれが映画だと気づくよね。
そこで思ったのが、ショットとカットを使って、ライブ状態で本物の映画を作ることが可能かを試してみる価値があるということ。現代の巨匠たちが作ったような作品、つまりその作品かぎりで、テレビシリーズやフランチャイズを強制されない作品の制作をこのイベントで実現したい。そうだな、マーティー(・スコセッシ)を例に挙げて説明しようか。現在、彼よりも映画作りが上手い人はアメリカにいない。だったら、彼が新作を作る作業をライブで見るっていうのはどうだい? それも彼が自分のためだけに作っているという状況で。これはあまりに奇抜で、絶対に忘れない出来事になるはずだ。