井浦新が語る、自分を作り上げている「インプットの時間」

まるで職人のように、ストイックに芝居に打ち込んでいるその姿が目に浮かぶようだ。工芸品や民芸品にも造詣の深い井浦だが、役者の仕事はどこか職人の世界に通じるところもあるのだろうか。そう尋ねたときに、冒頭の言葉が返ってきたのだ。

「もちろん、やっていることは全然違うけど、共通点は強く感じていますね。職人さんが手で何かをこしらえていくように、役者は自分の心と体を使って『人間』を表していく仕事なので。それに、仕事に向き合う姿勢みたいなところも、職人さんからお話を伺うと『学び』が多いです。何か教科書や参考書があるわけではなく、先達の知識や経験を直に受け継ぎ『今の時代に自分なら何ができるか?』を模索しながら作品を作っていくという意味では、職人さんも役者も一緒じゃないかな」

では、そんな井浦に大きな影響を与えた「先達」は誰なのだろうか。

「挙げたらキリがないくらいたくさんいらっしゃいます。直伝というか、恩師という意味では、この世界に導いてくれた是枝裕和監督と、育ててくれた若松孝二監督には強い影響を受けていますし、お二人から学んだことが、芝居する上でのベースになっています」

1999年に公開された、是枝監督の映画『ワンダフルライフ』のオーディションを受けた井浦は、主演の望月隆役を勝ち取り映画界にデビュー。その後、是枝監督の作品には『DISTANCE/ディスタンス』(2001年)や『空気人形』(2009年)、『そして父になる』(2013年)と4度にわたって出演しており、俳優・井浦新にとってはまさに「生みの親」と言える存在だ。

一方、デビュー当時「ARATA」名義だった井浦が、現在の本人名義に改めたのは、若松監督による『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012年)で主演の三島由紀夫役に抜擢されたのがきっかけだった。当時の井浦は、「三島を演じる者が、アルファベットの名前では示しがつかない」と、改名の理由を述べていた。以降、若松組の常連となった井浦は、2012年10月に若松監督が死去した際、告別式の弔辞を読むなど親交を深めていた。さらに、若松プロ出身の白石和彌がメガフォンをとった映画『止められるか、俺たちを』(2018年)では、若松孝二役を井浦が演じたのも記憶に新しい。



Photo = Mitsuru Nishimura

 「是枝監督と若松監督は、作風も、監督としてのあり方も全く違います。が、仰っていることはすごく似ている気がするんです。お二人とも、演じる上での技術より『心』を大事にされる。テクニックに頼る芝居ではなく、生きて感じて身についてきたことを素直に出す芝居……そこに重きをおいてくださいました」

俳優としてだけでなく、ブランドのディレクターの仕事に就きながら、プライベートも充実させてきた彼のライフスタイルが、そのまま演技に活かされているのは間違いないだろう。

Photo = Mitsuru Nishimura Styling = Kentaro Ueno Hair and Make-up = Natsuko Hori

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