地球の裏と表ぐらいフィールドが異なる人間とのコラボレーション
―その共同プロデューサーさんがなんとSMAPやAKB48などに楽曲提供&サウンドプロデュースをしている島崎貴光さん。かなり意外なコラボレーションだったんですけど、その経緯は?
島崎さんのことは島ちゃんと呼んでいるんですけど、元々は古いお友達で。ただ、島ちゃんは地球の裏と表ぐらいキノコホテルとはフィールドが違うしとにかくキャリアのある方なので、まさかご縁があるとは露ほどにも思っていなかったのですが、何年か前に共通の友人を介してばったり再会する機会があったんですね。その時に、私『お嬢』って呼ばれてるんですけど、『キノコホテルってお嬢のバンドだったんだね』って言われて、『そうよ!』っていう話しになって、彼が非常に興味を持っていてくれていたんです。で、2017年の創業10周年の時の実演会(ライブ)に。お招きしました。そこから急速に仲が深まって、バンドのことや曲作りのことを相談させてもらったんです。
で、いつか一緒にやりたいねって、お酒を飲みながら話しをしたんですよ。酔っぱらって別れて、帰り道に“いつかじゃなくて次のアルバムで一緒に何かしてみたい”という気持ちが芽生えてきて。その時点ではまだアルバム制作の話は上がってはなかったんですけど。で、いよいよ具体的な話が出てきた時点で、私がマネージャーに「実は私の友人で、こういう方がいて、一緒に組みたいんだけど」って話したら、かなり驚か「え? そんな知り合いがいたの?それもっと早く言いなよ」って(笑)。それで島ちゃんにオファーしたら、快く引き受けてくれて。だから結構運命的です。その再会するタイミングがなかったら、彼とお仕事することはなかったでしょうし、島ちゃんがいなければ絶対にこの作品は出来上がらなかったので。偶然やご縁の産物なんです。
―それにしてもキノコホテルの世界観と島崎さんの世界観は真逆とも言えるので、ハマれば凄いですが、一見冒険にも感じます。
そうなんです。これは一つの賭けだという思いはあって。もちろんニッチな世界観を追求してきたキノコの作品がどうなるのかというのもあるし。あと下手したらお互いが真剣にやり合い過ぎて、決別に至ってしまう可能性もゼロではないと思っていました。もちろん、島ちゃんはプロで責任感の強い方ですけど、私がですね。どこまで新しい状況に適応できるかが未知数でしたので。でも、彼を指名してお願いしたのは私ですから、自分が責任を取らないといけないし。島ちゃんを信用して最後までやり切るしかないって気持ちでしたけど。でもそういう、不安は全くの杞憂に終わりました。本当に島ちゃんはマイルドで優しい方で。私がイライラ、カリカリしていても、アンガーマネジメントをしてくれるぐらいで。『ちょっと落ち着いて一旦深呼吸しよう』とか、とても乗せ上手な方なんですよ。
―へぇ。
島ちゃんは新人作家の養成講座も主宰していて門下生が沢山いるので、私も彼の教え子になったような気分で、結構頼らせて頂きました。そこはもう、分からないことは分からないと素直になった方がいいと思って。自分以外の誰かに大事な部分をあえて委ねて素直になれる状況が、今までのキノコホテルはほぼ皆無だったので。行き詰っても相談できるし、とても楽しかったですね。今までのアルバム制作で断トツで有意義な時間でした。
―楽曲の振り幅も、ポップで踊れるという今までのキノコホテルにはないサウンドもありながら、キノコホテルならではのアルバムに仕上がっていてすごく楽しめました。変な言い方ですが、島崎さんとの共同作業でマリアンヌさんの音楽スキルを一緒に引き上げてもらえたとか?
それは非常にあると思います。
―そもそも作曲は独学だったんですか?
完全に独学です。コードすら知らないところから。
―それでキノコホテルの全楽曲を作詞・作曲していたのはマリアンヌさんの才能ですが、今回のアルバムで音楽的な引き出しがさらに増えた感じがします。
そうですね。引き出しを増やしていただけた感じですね。自分の中では分かってはいても、あえて避けて通っていた選択肢だとか二の足を踏んでいたものに対して背中を押してくれたのもありましたので。これはキノコらしくないなとか、自分っぽくないとか、そういうことで普段悩みがちなんですけど、堂々と振り切って取り組むことを幾度となく勧められました。“何やってもキノコでしょ”と彼が第三者的な立場から言ってくれたことで臆することなく作れましたね。こんなにポップで大丈夫かしら、なんて思いながらも、島ちゃんがディレクションしてくれると、あ! いいじゃないかっていう。確かにありそうでなかった音世界になりましたし。曲ごとに沢山の発見があったし、今までやってこなかったサウンドアプローチが出来たアルバムです。正に私が島ちゃんに期待していたことが全て実現されたような気分ですね。
―それにしても5曲目の「レクイエム」の音楽史に残るフェイドアウトにはびっくりしました。あれは誰のアイデアですか?
自分ですね。デモの時点でああでした。島崎ちゃんに、「お嬢、このフェイドアウトは、事故ではないよね?」って言われたので、「いや、もういいかなって思って下げたの」って。「これは凄いよ!」とエンジニアさん共々大笑いしていましたけど。それこそセオリー的には違うんでしょうけど。でもあそこで落とすことで変な違和感が生まれるでしょ? それを狙ってやった部分はあります。このまま綺麗に終わるのはやはりつまらないなって。
―そういうところはキノコホテルとしてありますよね。絶対に普通には終わらないという。
そうですね。綺麗な曲であればあるほど、何かいたずらしたくはなる。
―それはどこから来てるんですか?
ただの性格ですかね(笑)。人間性というか。
―普段の生活もそうなんですか?
個人的な話ですけど、手の届くところに降りてきた幸せを壊したくなる性質が元々あるみたいで。本当良くないですね。不幸になりたいわけでは決してないのに、綺麗にハッピーにまとまりそうなものを、「つまらん」と自ら壊してしまう。何かにつけて破壊に向かいがちでした。特に若い頃とかは、人間関係とかでも。
―最近それは是正されつつあるんですか?
最近はできるだけ波風立てないように生きていきたいって思って(笑)。そろそろ無の境地に足を踏み入れつつあるのかも。段々悟り入ってきました。