香港人の写真家が見た「抗争の夏」

Be water, my friend(友よ、水になれ)

話を6月中旬に戻そう。香港市民は大阪G20会議の前に世界中の新聞に一面広告を出すことで、国際的に《逃亡犯条例》の関心を呼びかけようと、クラウドファンディングを展開。立法会占拠後もキャリー・ラム行政長官は未だ民衆の訴えに答えず、相次ぐ若者の自殺からも目をそらしている。その結果、自由と法治精神を誇る国際都市・香港は、世界中の報道の焦点となった。

カメラマンとして、Viola氏はこの運動で映像がもつ力の大きさを実感した。「写真は言語の壁を超える。さまざまな国や文化の人々を引き寄せるられるし、大量の文字よりわかりやすい。社会運動で撮った写真をSNSに上げたら、多くの日本人の友人たちが香港の状況について聞いてきました。正直、現代の日本人は社会問題に関心がないので、香港の現状は想像もつかないでしょうし、こんなことが起こるなんて考えたこともなかったでしょう。」

海外へと外交討論が始まり、現地には政府官僚の黒幕を暴露するための内部の試みが行なわれるようになった。抗争で疲れていても志はゆるぎなかった。彼らは、香港のアクションスター・李小龍(ブルース・リー)の名言「Be water, my friend(友よ、水になれ)」を心に刻み、もはや政府本部のほか、さまざまな地区で異なる社会運動を実行。スケールは小さくなるものの、地方デモですら10万人以上を動員、中国大陸からの移民者や旅行者に対しては「光復行動(回復アクション)」を実施、各地のトンネルや歩道橋、フェンスにはメッセージで埋め尽くされた香港の「レノン・ウォール」が、そしてデモにより逮捕者のための募金活動など小さな運動を含め活動の幅は多岐にわたった。毎週末の抗争活動では、必ずHei氏の姿が目に入る。「この運動はこのままで終わってはいけない。激しい衝撃でも、平和な集まりでも、レノン・ウォールの拡大だけでも、止めてはいけないんです。いったん止まれば失敗を意味することになってしまう。モラルを保たなければならないのです」


香港がイギリスから中国に返還された記念日に、恒例のデモが今年も行われた。デモ隊が中国の国章へ中指を立てた。(Photo by Viola Kam)


香港がイギリスから中国に返還された記念日に、恒例のデモが今年も行われた。夜、香港デモ隊が立法会を占拠し、ビルのガラスが全部割れたが、立法会内部では歴史価値があるもの、イギリス時代の写真などは守られ、「規律がある暴力」だと言われている。(Photo by Viola Kam)


「ジョン・レノンの壁」という、デモ応援メッセージを書いて壁に貼るという企画。最初は雨傘運動時、政府本部周辺の階段で行なっていたが、「18区で花を咲かせる」と共に、香港中各所で作られた。(Photo by Chan Long Hei)

官僚・警察に暴力団が協力 腐敗が明らかに

7月9日、キャリー・ラム行政長官は会見を開き、で改正案について「完全に失敗」し、「法案は死んだ(The bill is dead)」と述べ、改正案の停止を表明するも、頑なに法律的に有効な「撤回」の言葉を口にしなかったため、市民からの信頼は失墜した。一方、数週間に渡る紛争と逮捕で、警察と市民の関係は前例にない崩壊状態に陥ることとなった。

前線に立つHei氏は、「私達は客観的かつ中立でなければなりません。しかし、時間が経つにつれ、警察による暴力はどんどんひどくなる。デモ隊は全く衝突しなかったとは言えないけれど、警察と市民は対等ではないことを覚えておかなければならない。警察は優れた訓練と装備、強力な法律支援を有し、最も重要なのは公的権力を持っていることです。つまり、デモ隊が警察に暴力をふるわれ、誰かが助けようと手を出したら、業務執行妨害で捕らえられてしまうんです。」と話す。Viola氏は、「メディアと警察の関係も悪化の一途を辿っています。メディアは日々、警察から意図的か意図的でないのか、攻撃されたり、強力なライトを当てられたりなど、無下に扱われ、かなりの頻度で撮影を邪魔されています。しかし大半の警察官はその身分証明番号を提示しない。これらは市民への対応と同じで、警察にクレームできないことになっているのです。」

数カ月以上続いた運動がネックになり、デモ隊によってエスカレートした紛争のイメージは民衆の心とともに揺らいだ。7月21日、デモ隊は合法の集会場所から逸脱し、香港特別行政区の中央人民政府の連絡事務所へ。卵やペンキ弾を投げ、付近の壁を塗りつけた。結果、警察による強制排除となったが、住宅街で数十発の催涙ガス、ゴム弾、スポンジ弾を発砲することとなり、罪の無い一般市民と帰宅を希望する人々に影響を与えた。

その頃、多くの香港先住民が住む新界の元朗地区では、無差別襲撃事件が発生。白いシャツに赤い布れを手に纏った村の暴力団と思われる数百人が、藤のムチや木や鉄の棒などの武器を持ち、大通りや駅で通行人を攻撃したのだ。この事件により、議員、ジャーナリスト、妊婦を含む数十人の負傷者が発生し、香港に衝撃を与えた。そしてこの一件が、親中派議員と警察に暴力団が関係しているのではという疑惑を生んだ。警察が駆けつけるまでの時間が長すぎたことが意図的だったのではないか、また、襲撃を見てみぬふりをしたことなどが報道され、黒幕疑惑は爆発的に話題となった。

Translated by Candy Cheung, Mariko Shimizu

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