今回の判決は正義への希望になるか
ガイガー被告には5年から99年の終身刑が求刑されていたが、申し渡された刑は10年の禁固刑だった。正直、そんなことはどうでもいい。彼女に最長の刑が申し渡されていたとしても、今のアメリカでボサム・ジーンさんのような見た目でも安全に暮らせるようになるわけではない。黒人のティーンエイジャーの頭を戸口に叩きつけたニュージャージー州の警察署長を思い出してほしい。現在ヘイトクライムで裁判にかけられているこの男は、かつて「トランプ氏は白人の最後の砦だ」と公言して憚らなかった。アメリカの人種差別問題は収束するどころか、悪化する一方だ。
ダラスの裁判所で勝ち取った勝利に甘んじて、安心してはいけない。我々はまだ深い水底にいるのだ。水面に上がって息がつけるのはまだ先の話だ。黒人の命を軽んじる警察官の態度に対し、アメリカの政府は事実上放置状態なのだから。大統領候補者の中には、ジュリアン・カストロ氏やカマラ・ハリス氏のように、暴力的行為に対する警察基準について厳しく言及した者もいる。だが彼らが対峙しようとしている現職の大統領は、刑事司法の改革を(少なくとも以前は)誇らしげに語りながら、容疑者には手荒く対応しろと警察をたきつけた男だ。ガイガー裁判の有罪判決は勝利であると同時に、先の長い道のりを示すロードマップとみることもできよう。
キング牧師が最後に遺した予言的な言葉を言い換えるなら、この国はかつて紙の上で約束したことをことごとく裏切ってきた。だからこそ、日々問い続けなくてはならない。たとえカタルシスのさなかでも。いつかこの先、正義に驚かなくなる日がくるまで。