バウアーが語る自分だけの宇宙、SFと伊藤潤二の影響、「ハーレム・シェイク」に今思うこと

最新作でめざしたのは「架空の世界」

ーそれでは、そろそろ最新作『Planet’s Mad』に関して。まずはこの作品の大ファンだということを伝えさせてください。非常にコンセプチュアルで、ドラマ的な構造がまるでアルバム全体に脚本が存在するかのようですよね。初めて通しでアルバムを聴いたときは、Netflixの人気SFドラマのシーズン1を一気に観終わったときのような感覚を味わいました。

バウアー:うわ、どうもありがとう! 今のは最高の褒め言葉だよ。

ーこのアルバムを通して、どんな物語を表現しようとしたのですか?

バウアー:まず、そういう風に言ってもらえてめちゃくちゃうれしい。自分がやろうとしていたことが伝わって「そうなんだよ!」って叫びたい感じさ。作品を通してストーリーを伝えたかったし、自分だけの宇宙みたいなものをつくり出したかった。ぼくは子どもの頃から映画を観るのが大好きで、特にSF作品には大きな影響を受けている。映画作品を通じて、人が自分のために架空の世界をつくることができると知ったんだ。現実から逃避する事ができるような、特別な場所をね。だから、そういった世界を自分で構築することにずっと憧れがあったし、自分がそれを音楽で実現できたんだとしたら、本当にクールだなって。それがミュージシャンとして目標にしていたところでもあった。この世界の物語はある日、エイリアンの惑星が地球の大気圏に突っ込んでくるところからはじまる。そこから起こるいろいろな出来事を表現したんだ。

ーそのストーリーを際立たせるためには、曲順通りにアルバムを通しで聴くということも重要なのではないでしょうか。不穏な始まりから物語の起承転結を経て、最後のトラックはまるでシーズン2の始まりを予感させるような作りでワクワクしました。

バウアー:その通りだよ! 最後のトラックのアイデアはまさに、次に繋がる「ヒント」みたいなものだった。



ー『Planet’s Mad』に込められたメッセージがこのポストコロナの状況を奇妙なほどに反映しているので、制作がいつ頃はじまったのか気になりました。このような事態を予見していたのでしょうか?

バウアー:いや、まさか! でも奇妙な偶然みたいなものは自分でも感じていて。制作自体は1年半くらい前からはじめたんだけど、いざ作品をリリースしようってタイミングで世界がこんな風になるなんてね。現実がこんなにもブッ飛んでるなんて、思ってもみなかったよ。

ー制作の途中で環境が変わってきたのですね。

バウアー:実際、LuckyMeのDom(所属レーベルのオーナー)に最初に音源を送ったとき「この作品、たぶん今リリースするべきではないよね? もう少し待とうか」って言ったんだ。そのタイミングではすでにウイルスの影響も出はじめていて、それどころじゃない感じもしたしね。でも彼は「いや、今だからこそ出すべきだよ。とにかく出せ!」って。

ーミュージックビデオの世界観も最高ですよね。内容は監督と一緒に考えたんですか?

バウアー:そうだね、自分が考えたストーリーをベースに監督であるRick FarinとClaire Cochranが一緒に具現化してくれたんだ。彼らはデジタルアーティストで専門領域が3Dだから、頭で思い描いたことをゲームエンジンでなんでも映像にしてしまうんだ。それがどんなにクレイジーなアイデアでもね。自分の奇妙な夢を実現してくれる人と仕事ができて、最高だったよ。

ー前作『Aa』では多くのアーティストをフィーチャーしていましたよね。今作ではそういった要素を排除してひとりで自己表現を突きつめているわけですが、心境の変化があったのですか?

バウアー:実は、作っている途中でだんだん気が変わったんだ。最初は何人かゲストを呼ぶつもりで、割合的には半々くらいにしようかと考えていた。でも曲ができていくうちに、コンセプトの強い自分だけの作品を作るっていうのもいいなと思うようになって。



ーサウンド的にはハードなギターのリフが目立ったり、かなりアグレッシヴでパワーに満ちていますよね。 今回のアルバムにおいて、なにか新たな試みというのは?

バウアー:今回の作品の大きなアイデアのひとつが、自分がライブでやりたいと思える音楽を作ることだった。だからこそ多くのトラックがアッパーだし、過剰なくらいエネルギーをつめ込んでいる。それと、次のライブは自分の楽曲だけでやろうと思うんだ。DJするのとは違った、自分のトラックだけで構成したライブに挑戦したくて。だから、どんな内容のショーにしたいか、どんな場所でプレイしたいか、理想のライブを頭に思い描きながら作っていった結果、サウンドが膨らんでいった。

ーちなみに、今回の作品における主なインスピレーションはどこから?

バウアー:音楽と映画のコンビネーションと言えるかな。そのふたつの要素が等しく、半々くらい。音楽だとダフト・パンク、ファットボーイ・スリム、ケミカル・ブラザーズ、あとはジャスティスかな。どのアーティストもサンプルを多用したインストのダンスミュージックを作っているけど、なにより楽しくて、ヒリヒリするような興奮があって、どこか別の場所に連れて行ってくれる感じがするんだ。映画でいうともちろんSF作品なんだけど、とにかく一番は『フィフス・エレメント』。小さい頃に観てからずっと大好きな作品なんだ。あまりに好きすぎて、自分流のリメイク作品を作りたいと思っていたくらい。

●【動画】バウアー自ら監督、アルバムの世界観を表現した映画『プラネッツ・マッド ザ・ムービー』



ー日本のカルチャーからの影響はありますか?

バウアー:間違いなくそれもあるね。実は「REMINA」ってトラックのタイトルは、日本のマンガの『地獄星レミナ』からつけたんだ。昔友達に読ませてもらったんだけど、ストーリーに強くひき込まれたよ。特に今回のアルバムで自分がやろうとしていたことに共鳴するものがあるように感じた。それで「REMINA」ってタイトルにしたんだ。

ーまさか、伊藤潤二作品を読んでいたとは驚きです……! 日本といえば、今年はAwitchの楽曲「Open It Up」のプロデュースもしていましたよね。コラボレーションのきっかけは?

バウアー:全部、YENTOWNのPETZとの縁からはじまってる。そこからプロデューサーのChakiと繋がって、彼らと話しているうちにAwitchのためにトラックを作って欲しいと言われたから、是非やりたいと伝えたよ。



ーほかにも特に興味のある日本のミュージシャン、コラボレーションしたいアーティストはいますか?

バウアー:実はすごく好きなプロデューサーがいるんだけど必ず彼の名前を言い間違えちゃうんだよ。だから絶対言いたくないんだよね。どうしよう、これ以上はどうしても間違えたくないからちょっと調べさせてもらっていい?

ーもちろん(笑)。

バウアー:えっと、そうだ! Masayoshi Iimori! 彼、すごくクリエイティブで面白い作品を作るんだ。いろんなスタイルに挑戦していて、アイデアに溢れてる。コラボレーションできたらいいなとしばらく思っているんだけど、まだ実現できていなくて。

ーそれはぜひ実現して欲しいので、必ず本人に伝えますね! ついこの前も新曲についてツイートしていましたし、むしろ何年も前からあなたの大ファンのはずですよ。

バウアー:本当に? それはお願いしたいな!たまに自分に関して他言語のツイートがあると気になって翻訳ボタンを押してみるんだけど、全然意味をなしていなかったりするから自信を持てなくてさ(笑)。もしこれがきっかけで本当に実現できたらうれしいよ。

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