バウアーが語る自分だけの宇宙、SFと伊藤潤二の影響、「ハーレム・シェイク」に今思うこと

愛憎紙一重の「ハーレム・シェイク」

ーところで、昨年末から2010年代を振り返るタイミングとなって、様々なメディアで「ハーレム・シェイク」が再び評価され、脚光を浴びていましたよね。今になって、あの曲について思うところはありますか?


バウアー:そうだなあ、あの曲については本当にいろんな感情が去来するよ。愛憎紙一重っていうか、確かに気に入っていたはずなのに嫌いになってしまったり、もう二度と聴きたくないと思う一方で、いまだに感謝しているみたいな部分もあるしね。あの時はものすごく異様で、奇跡的な偶然が重なったんだ。そのおかしな現象の一部になれたってことは貴重な経験だったと思っているよ。


「ハーレム・シェイク」は2013年2月、曲に合わせて踊る「30秒ビデオ」が多数投稿されたことで一大ブームとなった。

ー近年、TikTokやInstagramから思いがけないミームが発生して偶発的な曲のヒットに繋がるという現象が確立されてきましたが、やはり「ハーレム・シェイク」はその先駆けであり転換点だったように思います。音楽シーンにおけるテクノロジーやプラットフォームの変化についてはどう思いますか?

バウアー:ミームの登場はやっぱり近年の音楽シーンにおいてゲームチェンジャー的な役割を果たしたと思うよ。すごい速度で、思わぬ場所へとひとつの曲が拡散していく現象は、それまで誰も味わったことのないものだった。ここ数年は、音楽を作るテクノロジーや消費する環境に関して、そこまで大きくは変わっていないように感じる。もちろん少しずつ進化はしているけどね。やっぱりTikTokで生まれたミームが曲を爆発的にヒットさせる構造みたいな、劇的な転換ではないように思う。

ー自分自身の音楽の楽しみ方というものが、近い将来に変化するとは思いませんか?

バウアー:どうだろう。きっと今の自分には想像もつかないような技術が出てくるのかもしれないって考えるとワクワクするから、答えは「そうであってほしい」だし、早く体験したいな!

ー「ハーレム・シェイク」を足掛かりに今回のアルバムの完成までに至るまで、音楽家としてどう自分をアップデートさせてきたのか、どんな勉強やインプットをしてきたのか教えてもらえますか。

バウアー:うーん、あまり意識したことはないんだけど、ちょうど最近やり始めたのがDiscord。触ってみるまで仕組みもなにも知らなかったんだけど、他の人がやっているのを見様見真似で使い始めた。たくさんの人がサーバー上でサンプル用の音楽をシェアしているんだけど、面白い素材が無限にあって、学ぶことが本当に多いんだ。あまりに多くの影響を一気に受けるもんだから、オーバーロード気味なくらいさ。

ーそれでは最後にもうひとつ。あなたにとって今の時代における「いいプロデューサー」「いいトラックメイカー」の条件とはなんだと思いますか。

バウアー:今の時代、音楽を作りはじめることは比較的ハードルが低い。プログラムの仕方を覚えればラップトップひとつで気軽に音楽は作れる。誰もがアクセスしやすいというのは素晴らしいことだと思うけど、大切なのはユニークな”声”と”視点”を持って、なにか新しいものを作り出すこと。これは本当に難しいし、モノにするまで時間もかかる。誰かを真似るのは簡単で、それがスタート地点なんだけど、そこから自分だけの音を育てていくことはすごく大変なんだ。だから、誰も聴いたことがないような、まったく新しい音を作り出せるプロデューサーが素晴らしいんだと思うよ。




バウアー
『Planet’s Mad』
2020年6月19日リリース
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11003

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