ポール・ウェラーの好奇心は止まらない アップデートし続ける60代の現在地

ポール・ウェラー(Photo by NICOLE NODLAND)

ポール・ウェラーがかつてザ・ジャムとザ・スタイル・カウンシルが所属した古巣レーベル、ポリドール移籍第一弾となるソロ15枚目となる『オン・サンセット(On Sunset)』を7月3日にリリース。62歳を迎えた今も前進し続けるベテランの最新アルバムを、荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)が全曲解説。


ノエル・ギャラガーも嫉妬、充実の2010年代を振り返る

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズが参加、ファンを仰天させた『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』(2010年)のリリースから早10年。大作『22ドリームス』(2008年)までに構築してきたオーガニック・ロック路線を継続していくのかと思いきや、ポール・ウェラーはそれをあっさり手放し、縁遠い印象があったエクスペリメンタルな要素を作品に持ち込んで、当時50代とは信じ難い自由奔放な創作活動に没頭し始めた。


『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』でのケヴィン・シールズ参加曲「7&3・イズ・ザ・ストライカーズ・ネーム」

それでもまだ『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』には、元ザ・ムーヴ〜ELOのベヴ・ベヴァンや、ブリティッシュ・ロック界の名裏方として知られているドラマーのクレム・カッティーニ、そして元ザ・ジャムのブルース・フォクストンがゲスト参加、若き日に親しんだ60sサイケ・ポップを振り返った感じが部分的にあった。しかし、次の『ソニック・キックス』(2012年)と『サターンズ・パターン』(2015年)で、より大胆な変化が訪れる。「ノイ!のアルバムを全部買った」ことを機にウェラーはクラウトロックの魅力に開眼。電子音楽や現代音楽にも視野を広げ、ミニマルなサウンドスケープや、カットアップ的な手法を積極的に試すようになったのだ。『22ドリームス』以降、他者と曲を共作する機会が増え、単独でのソングライティングにこだわらなくなったのも、この時期の変化を後押しした要因だろう。

『サターンズ・パターン』がリリースされる少し前、取材で対面したノエル・ギャラガーが「ポール・ウェラーの新しいやつ、もう聴いたか? アルバムごとにどんどん良くなってるのが信じられない、むかつくよ!」と本気で悔しがっていた様子を思い出す。あれはリップサービス抜きの、敬愛するがゆえにポロッと出た本心に違いない。


『ソニック・キックス』収録の「ザット・デンジャラス・エイジ」


『サターンズ・パターン』収録の「アイム・ホエア・アイ・シュッド・ビー」

古くからのファンの中には、シングル・ヒットが狙えるキャッチーな歌ものからどんどん離れ、過激なアルバムを連発する2010年代のウェラーに当惑した人もいたはず。しかし過去の自分のスタイルをなぞることに御大は興味がないようで、純粋に興味の赴くまま、先へ先へと進んでいく。本人にそのつもりがあったかどうかは不明だが、彼がファンを試した時期とも言える。

もちろん実験一本槍というわけではなくて、『ソニック・キックス』の「スタディ・イン・ブルー」ではスタイル・カウンシルのメロウネスが、『サターンズ・パターン』の「アイム・ホエア・アイ・シュッド・ビー」では後期ジャムの繊細なポップ性が蘇る場面も。現在と過去が交差し、この年齢のウェラーにしか作り得ない、奥深い味わいの楽曲が形成されるようになってきた。これこそが最新作『オン・サンセット』へとつながるポイントでは、と思う。

『ア・カインド・レヴォリューション』(2017年)では、スタイル・カウンシル以来久々に社会的なテーマにも言及。イギリスのEU離脱に反対すると公言し、かつての熱血漢=ウェラーが健在であることを示した。同作には交流が続くロバート・ワイアットが客演したほか、ボーイ・ジョージとのデュエットによる隠れた名曲「ワン・ティアー」も生まれている。


『ア・カインド・レヴォリューション』収録の「ワン・ティアー」

前年の2016年に、デーモン・アルバーンが続けているプロジェクト“アフリカ・エクスプレス”に参加してシリアのミュージシャンたちと共演したことからも刺激を得たはず。そうした試みは、ロンドンでエチオピアン・ファンクを展開するクラール・コレクティヴや、近年交流が続いているストーン・ファンデーションとのセッションを記録した単発のシングル「Mother Ethiopia」(2017年)に結実した。ウェラーは最近のインタビューでも、ナイジェリアのヨルバ族民謡からキューバまで幅広く見渡して折衷的なジャズに取り組んでいるケヴィン・ヘインズ・グルーポ・エレグアの『Ajo Se Po』を愛聴盤に挙げており、そうした作品の影響を反映したアルバムが出てくる可能性も大いにありそうだ。



続く『トゥルー・ミーニングス』(2018年)にはマーティン・カーシーやダニー・トンプソンといった英国フォーク界の要人、ゾンビーズのロッド・アージェントが参加。ロックンロール色を抑え、アコースティック・ギターと共にストリングスが大活躍する叙情的なアルバムが出来上がった。ここには「ボウイ」という感傷的な楽曲が収められているが、それまで聴き込んでいなかったデヴィッド・ボウイの作品を愛聴するようになったのは、現在の妻の影響が大きいとか。そんな風に古典を発見する一方で、ニューカマーについては娘から教わる機会が多いそうだ。新作『オン・サンセット』に若手R&Bシンガー、COL3TRANEを起用したのも、娘から紹介されたのがきっかけだという。

『トゥルー・ミーニングス』でストリングスのアレンジを手がけたハンナ・ピールは、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでオーケストラと共演した際のライヴ盤『アザー・アスペクツ』(2019年)でも編曲と指揮を担当。その実力をウェラーに買われ、引き続き『オン・サンセット』にも起用されている。


『トゥルー・ミーニングス』収録の「ボウイ」

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE