アジア首位テンセントが唯一出資できない大手音楽会社ソニー、その戦略とは?

5月19日、東京に本社を置くソニーは吉田憲一郎CEOを介して2021年4月付で社名を「ソニーグループ」に変更すると発表した。これは、宇宙規模のアップグレードなんてものじゃない。英フィナンシャル・タイムズ紙が指摘するように、新体制は長年にわたってソニーの基盤であったエレクトロニクス事業と同じくらいゲーム(PlayStation)、映画(ソニーピクチャーズ)、音楽(ソニーミュージック)にフォーカスしたいという同社の計画を暗示しているのだ。これだけでも——そこにエピックへの約268億円の出資を加えるとなおさらだが——超大型音楽ビジネスにとって非常に興味深い。なぜなら、これは筆者が昨年寄稿したコラムで述べた「One Sony」というエンターテイメント業界のユートピアがさらにエキサイティングな現実になろうとしているからだ。(訳注:“One Sony”=部門間の垣根を取り払い、総力戦で商品を開発する体制のこと)

しかし、ソニーの新体制には別の意味合いもある。フィナンシャル・タイムズ紙のレオン・ルイス氏は次のように述べる。「(ソニーの)真の戦略変更は——これはより心理的なものであるが——吉田氏によるポートフォリオの多様性への言及によって明確になっている。これは、現在行われている一連の売却を通じ、かつては肥大化していた企業の“核”だけを残してスリムになることを意味している。ソニーは自らがコングロマリット(複合企業)であることを明確にし、コングロマリットであることに誇りを持っている」。

これは、とりわけソニーの音楽事業と深い関わりがある。過去10年にわたってソニーの主だった投資家である米ヘッジファンドのサード・ポイントのダニエル・ローブ氏は、ソニー幹部が抱える悩みを蒸し返した。2013年、10億ドル以上の株価を所有し、当時はソニーの最大の投資家であったローブ氏は、ソニーの幹部にエンターテイメント事業(音楽も含む)の一部を子会社化し、エレクトロニクス事業の負債を補填するよう迫ったのだ。ソニーは抵抗した。結果として、これは極めて賢明な判断だった。

それ以来、ソニーは意図的に反対の方向に進んできた。収益源として、エンターテイメントのなかでも音楽事業に的をしぼって強化を図ったのだ。2018年、ソニーはEMIミュージックパブリッシングの株式を獲得するため、23億ドル(約2460億円)を投じた。それにより、ソニーは世界最大の音楽出版事業(主にソニー・ATVを介して)を完全に手中に収める結果となった。同事業は、前暦年に14億ドル(約1500億円)もの収益を生んでいる。

先週ソニーの最新の年次報告書を詳しくチェックしていた筆者は、2018年3月末から2020年3月末にかけて同社が全世界で5500人以上の人員削減(11万7300人から11万1700人)を行ったことに気づいた。だが、唯一音楽事業においてはソニーの全世界の従業員数は8200人から9900人に増加している。

企業体制と財政投資の両方を見る限り、手っ取り早く金を手に入れるためにソニーが音楽事業を売却する気配はない。さて、このニュースを聞いて喜ばないのは誰だろう?

Translated by Shoko Natori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE